101話 五年後、王太子妃として訪れる幸せな未来──破滅フラグなど遠い昔の物語ですわ!
私ことセレスティア・ノイエンドルフが“王太子殿下との結婚式”を挙げてから、早五年の歳月が流れた。
あのとき闇の王を倒し、学園を卒業し、リヒトとの婚姻を公にした段階で、私は正式に“王太子妃”として迎えられ、王都での生活を始めることになった。
初めは慣れない王宮儀礼や花嫁教育に四苦八苦していたけれど、今はすっかり落ち着き、日々を幸せに過ごしている。
王宮は以前、闇の王とのクーデターで半壊したが、今では完全に再建を終えて、その壮麗な姿を取り戻していた。
国王陛下も年齢とともに少しずつ公務を殿下に引き継ぎ、リヒトは近い将来“次期国王”として即位することが決まっている。
私は王太子妃として、いずれは王妃になるわけだが、正直この五年間でリヒトが随分と立派になったのを実感していた。
前世のゲームオタク気質はもう影を潜め、“国を率いる者”の風格さえ漂わせている。
「殿下、こんな書類が届いていますよ? 今度は近隣諸国からの交易拡大の件で……」
私が執務室へ足を運び、書類を渡す。リヒト殿下は机に向かって山積みの公務をこなしながら、「ああ、ありがとうセレスティア。そ
っちの資料も合わせて読まないと……この国も大きく変わりそうだ」と述べる。その横顔はどこか凛々しく、昔の“婚約破棄イベントやりたい”などと言ってた人とは思えないほど真摯だ。
私自身も花嫁教育の成果や、王宮のフォローで身につけた交渉術や魔法の知識を活かし、公務を手伝うようになっている。
もはや誰も私のことを“悪役令嬢”などと呼ばない。むしろ「光の王妃候補」と讃えられ、王家の次代を担う女性として尊敬される立場だ。
それが嬉しいやら照れくさいやら。
けれど、思い返せば五年前。私の破滅フラグがいつ爆発してもおかしくないと怯えていたあの頃が、嘘のようだ。
結局、学園で断罪されることなく、闇の王すら撃退してしまい、婚約破棄もされずにこうして王宮で殿下と共に生きているのだから、運命のいたずらには感謝せずにはいられない。
義弟レオナルトも今は王都の書庫管理などを担当しつつ、私の身辺警護にもしれっと関わっている。
彼は五年前と大差ない風貌ながら、やや背が伸びて青年らしさを帯び、腐女子脳がどうこうと言う回数こそ減ったものの、相変わらず私を“姉上こそ絶対至上”と崇拝してくれる。
「姉上が王太子妃になってもう五年か……。BL妄想的には殿下×騎士とかも萌えなんですが、姉上が幸せそうなら僕は満足です!」
なんて嬉しそうに喋るから、私も苦笑しつつ「あなた、まだそんなこと言ってるの……」と返すのが定番だ。
相変わらず騒がしいけれど、一度は破滅を避けようとする私を懸命に支えてくれたことを思うと、今も弟として大切な存在だ。
また、騎士団に入ったガイは近衛隊長に昇格し、学園時代からずっと鍛えた剣技を駆使して王都の平和を守っている。
私が街に視察に出るときなどはフットワーク軽く守ってくれるし、あの頃と同じように「セレスティアさん、調子どうっすか?」とラフに話しかける。
中身は学園時代と変わらないが、以前より責任感が増した感じ。
ときどき「俺、昔はお前を悪役令嬢って思ってたけど……今ではまじで国のヒーローだよなぁ」
と苦笑するから、私も笑わずにはいられない。
一方、アレクシスは闇魔法の研究を続けながらも、もはや国への敵対心などほとんど抱いていない。
闇の王が消え去ったいま、アレクシスはその類まれなる魔導知識で“魔物対策の専門家”のようなポジションを確立した。
私が光で浄化し、アレクシスが闇の仕組みを解析することで、再び闇の王のような脅威が現れても対応できるだろうという安心感がある。
「闇の王を超える存在が現れたら、今度は俺がお前たちと共闘してやるさ」と彼は涼しげに言い、レオナルトとBL臭い友情を醸しながら日々を送っているらしい。
以前は“野心”を抱いていたのに今や安定した職務に励んでいる姿を見ると、時間が経てば人も変わるのだと思わされる。
アニーは聖女として教会と王宮の連絡係を務め、実質的に私と一緒に“国の守り”を構築する大役に就いている。
元ゲームスタッフだった彼女が「いつも想定外のシナリオになってる……でも、もうこれでいいんです!」と笑うのを見ると、前世でクビになった辛さを払拭できたのだろうかと安心する。
結局、悪役令嬢の破滅フラグなど起こらず、アニー自身も“本来ヒロイン”という立場を気にせず自由に生きているようだ。
こうして、私の周囲は学園の仲間たちがそれぞれの道を歩み、国の要職や安定したポジションに就いて国を支えている。
転生者同士が“ゲームシナリオ”とは関係ない形で連携し、本物の平和を築いているのだから面白い。
この五年間で大きな戦乱も起こらず、闇の王の残滓が再び湧くこともなかった。国王陛下も「セレスティア殿がいてくれれば万全だ」と太鼓判を押してくれる。
私もわずかに不安があるとすれば、いつか本当に王妃になったとき、この国をしっかり導いていけるかという点だ。
でも、リヒト殿下が傍にいてくれるなら心配しなくても済む気がする。殿下は最初こそ“婚約破棄”を夢見ていたが、いまや私に惚れてしまったのか、そっと囁きかける。
「お前が俺と並んでくれれば、国も安泰だよ。あと、もっとデレの部分を見せてくれたら嬉しいけどな?」
そんな言葉に私が顔を赤らめてツンと反論すると、殿下が“可愛い奴だ”と微笑む……この五年間で習慣化した幸せのやりとりだ。
学園時代の破滅云々は完全に忘却の彼方である。
ちなみに世間では「悪役令嬢だったはずのセレスティア様が、どうしてこうなった?」と不思議がられている面もあるが、半数くらいは「あの人、本当に悪役? むしろ最初からヒロイン級だったんじゃ?」と冗談交じりに言うだけ。
もう誰も私を“悪”のポジションには置かず、“光の令嬢”だとか“王太子殿下の運命の人”とまで呼んでいる。破滅が起きる予兆など一度もなく、このままハッピーエンドを突き抜けるのみだ。
私も最初は戸惑った。何しろ“悪役令嬢転生”という自覚があったが、フタを開けてみれば転生者だらけの学園が私を拒まなかったし、学園祭や夜会、闇の王事件を経て誰一人“断罪”など望まなかった。
私が一歩踏み出すたびに周囲がサポートしてくれて、結果的に国を救ったまでに至る。前世のシナリオを断片的に思い出すたび、「こんな結末あった?」と驚きが止まらない。
だが、もう疑うまでもない。私は破滅せず、幸せな未来へ進むルートを勝ち得た。
リヒト殿下との間にはまだ子供はいないが、いずれ授かるかもしれない。そうなったら私は文字どおり王妃として母として、新たな人生を切り開いていくだろう。
「姉上、早く甥か姪を見せてくださいね!」とレオナルトが盛り上がり、ガイが「王子様誕生なら護衛は任せろ!」とノリノリで言い、アニーやアレクシス、取り巻き令嬢ズまでも「楽しみですわ~!」と囃し立てる。
何とも賑やかで、悪役も破滅もないお伽噺のような未来風景に、私はくすぐったい感覚を抱きながら微笑んでしまう。
「ああ、もう、前世の破滅ルートが嘘みたい。周りが転生者だらけだと、こんなにもハッピーエンドへ流れてしまうのね……」
私は王宮のバルコニーから街を眺め、口のなかでひっそりと呟く。
王都では、通りを行く人々が明るい声で挨拶を交わし、魔物の影など微塵も感じられない。かつての闇の王が葬り去られた平穏がそこにある。
リヒト殿下が背後からやってきて、私の肩にそっと手を置く。「どうした、セレスティア? もしかしてまた昔の破滅フラグを思い出してるのか?」
「……まあ、少しね。こんな未来が来るなんて想像してなかったわ。悪役令嬢が王太子妃になり、国を救い、誰にも断罪されないなんて……」
「はは、でもそれが現実なんだろ? 前世の価値観じゃ計り知れないことが起こるのが転生世界の面白ささ」
殿下は穏やかな眼差しで私を見つめる。私も同じように微笑み返し、「そうね……もう、いいわよね。これが私の人生」と静かに頷く。
そして、私は指先に宿る微弱な光魔法を展開し、そっと空へ放ってみる。闇の王との決戦で大きく成長した力だが、いまは国を護るシンボルとして役立っている程度で、本格的な戦闘に使う場面はない。むしろこうして光の粒を浮かべるだけで、王都の子どもたちが喜んでくれることが嬉しい。
「いつか本当に戦いのない世界になればいいわね」
私が心からそう言うと、殿下は小さく笑って「うん、あの学園でも色々あったけど、結果的に誰もが救われた。
今の国も、悪役令嬢やら闇の王やらの話じゃなく、平和な話題でいっぱいだ」と相槌を打つ。
取り巻きや仲間たちもそれぞれのポジションで笑顔を見せていて、まさに“破滅フラグどころかハッピーエンドまっしぐら”とはこのことだ。
こうして五年後の世界で、私は殿下と暮らしている。まだ王妃にはなっていないが、おそらくそう遠くない将来、国王が退位し、リヒト殿下が王位に就くだろう。
そのとき私も正式に“王妃”として即位する。学園時代に恐れた“ざまぁ展開”も破滅フラグも、もう誰の口にも上らない。
今や周囲は私を「国を照らす光の淑女」と評し、私自身も悪役どころか誰よりも王族に近い存在に落ち着いた。
前世で予想した“悪役令嬢の最期”なんて、全く見当たらない。
唯一その影を抱えていた殿下も、私と共闘して闇の王を倒す中で私へ好意を深め、今はラブラブに過ごしているのだから、本当に人生は分からない。
振り返れば、学園で出会った仲間が皆いい人で、誰も私を糾弾しようとしなかったことが大きかったのだろう。
転生者だらけという特異な環境が、私の破滅ルートを阻んだともいえるけれど、結果的にこの平和な未来を実現したのだから文句なしだ。
「さて……そろそろ午後の来客があるわね。殿下も執務に戻りましょうか」
私がバルコニーから振り返って言うと、殿下は少し面倒くさそうに肩をすくめ、「はいはい、わかりました、俺たちも忙しいんだもんな」と苦笑する。
私は微笑みながら腕を組んで歩き出す。そこにはやや照れの混じった殿下が「お前、5年経っても相変わらずツンデレだよな? たまにはもっと甘えていいんだぞ」と茶化してきて、私が「べ、別に甘えるつもりなんてないわよ!」と返す。
きっとそんなやりとりが、これから先の未来でも続いていくんだろう。王族と“元悪役令嬢”の不思議な夫婦として。
こうしてあれから五年——私と殿下が無事に結婚し、王宮で平和に暮らす姿を描いた“しあわせなその後の未来”。
闇の王が崩れ去ったあと、誰もが笑顔で自分の道を見つけ、私は破滅とは無縁のハッピーエンドを存分に味わっている。
悪役令嬢に転生したはずが、周囲が転生者だらけで誰も断罪してくれず、逆に国を救うまでになった私。もはや破滅どころか王太子妃の地位を確立し、このまま王妃になるのは時間の問題だ。遠く過去には“ざまぁ”を夢見た人もいたかもしれないけれど、それすら今となっては笑い話。
私の生涯がどう続いていくかは分からないが、少なくとも目の前の未来はきらめくほど明るい。
そう、私が“悪役令嬢”としてはまったく破滅せず、“転生者まみれ”の環境に助けられてスカッと勝利したのだから——。
Σ੧(❛□❛✿)
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