10話 ヒロイン・アニーが断罪を拒否!? まさかの“セレスティア様素敵すぎます!”発言
学園生活が始まってしばらく経ち、一通りの授業を終えたある日の夕方。
私は廊下の端で、偶然アニーと二人きりになった。例の“聖女枠”であり、平民出身の少女。
本来なら、ここで私がヒロインを見下し罵倒し、彼女が反発する……という
“悪役VSヒロイン”の王道イベントが発生するはず……だが、まるで気配がない。
「そ、そういえば……あなた、確かアニー、と言ったわね?」
慣れない高飛車口調を意識しつつ、声をかける私。
アニーはビクリと肩を震わせながら振り返り、ペコッと頭を下げる。
「は、はいっ。セレスティア様……っ! いつも遠くから拝見していますが、本当にお美しいですね……!」
「え、あ、ありがとう。……でも、そんなに恐れることないわよ?」
「いえ、あの……本来ならわたし、王太子殿下との恋愛ルートに入るはず……でした。平民出身のヒロインが殿下に見初められて、最終的には悪役令嬢に断罪され……みたいな……」
アニーが声を震わせながら語る内容は、私の知る“ゲームシナリオ”とほぼ同じ。
「それって、いわゆる定番の展開じゃないかしら。ということは……私があなたをいじめ抜いて、最後に婚約破棄を……?」
そう呟くと、アニーは首をぶんぶん横に振った。
「で、でも、わたし……セレスティア様をいじめるなんてできません! あの、すみません、わたし、前世でゲームに詳しかったので流れを分かってはいるんですが……いざこうしてお会いすると、セレスティア様が素敵すぎて……!」
「す、素敵すぎて……?」
「はい、いつも堂々としていて、ツンデレで可愛くて、周囲への気配りもできて……とても断罪なんてできません……!」
……まさかの褒められラッシュ!?
ここは“あなたなんか嫌いよ!”とヒロインに言われるはずなのに、どうして私がほめそやされているのか意味がわからない。
「だ、だめよ……あなたがそんなに腰が低かったら、悪役イベントが成立しないじゃない……」
私が困惑してそう漏らすと、アニーは申し訳なさそうに縮こまった。
「す、すみません……わたし、どうしても強気になれなくて……。本来なら、もっと天然ドジを発揮したり、堂々と王太子との仲をアピールしたりすべきなんでしょうけど……セレスティア様を敵に回すとか、想像するだけで胃が痛いんです!」
(この子、本当に“ヒロイン体質”なのかしら……)
私は微妙な気持ちになりながらも、彼女の瞳には確かな尊敬の色があると感じる。
まるで「悪役令嬢ルート」と知りながら、私を慕っているというか……。
「……ま、まあ、私もあなたをいじめたいわけじゃないし。むしろ一緒に仲良くして、破滅を回避したいくらいよ」
そうぼそりと呟くと、アニーが目をキラキラさせて手を握ってきた。
「じゃあ、もう断罪なんて無しですね! わたし、セレスティア様が困ることは一切しません! ……そりゃ、殿下のことは気になりますが、でも無理に奪おうとか思いませんから!」
「い、いや、そんなに必死に宣言されても……」
こうして、まさかのヒロイン本人が“断罪拒否”を表明。
むしろ「セレスティア様、大好きです!」と告白される勢いで、私は顔が熱くなってくる。
(これじゃあ私、本当に悪役というより“仲間ポジ”じゃない? 破滅フラグなんか全然立つ気配ないんだけど……?)
そうしてアニーが去った後、私は廊下にポツンと取り残される。
……もはや私が悪役令嬢としてヘイトを集めるどころか、周りの転生者(?)が私を盛り立てたり、ヒロインさえも敬愛してくる始末。
王太子リヒト殿下との破局イベントなんて、どこへ行ったのかしら。
「うう……どうするのよ、これ。破滅エンドどころか、なぜかハッピーな道をまっしぐら……?」
私が顔を真っ赤にして壁に寄りかかると、義弟レオナルトがニコニコ笑顔でやってきて「お姉さま、いい感じですね!」と調子のいいことを言う。
取り巻き令嬢ズも「アニーさんが断罪拒否……いいですね~、逆に熱い展開!」と意味不明に盛り上がっているし……。
こうして1年生最初の一週間は幕を下ろす。
世間一般の悪役令嬢ルートがまったく起動しないどころか、周囲から“セレスティア様ステキ!”と言われまくって、私の恥ずかしさと困惑は増すばかり。
——今後、果たして私は本当に破滅フラグに突入するのか? それとも、このまま悪役令嬢の看板を形だけ背負いながら、平和に学園生活を送るのか?
まったく先が読めない展開にドキドキしつつ、私の物語は続く。
「こんなの悪役令嬢じゃありませんわ……!」と叫びたい気持ちをぐっとこらえながら——。
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