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01話  悪役令嬢、まさかの“サービス過剰”な転生自覚

「私、セレスティア・ノイエンドルフ。


 十五歳——


 王侯貴族が集うクレリア魔法学園へ進学が決まった、

 そこそこ華のある侯爵令嬢よ。……でも、本当はもっと複雑な事情があるの。」


 そう。私は“転生者”なのだ。もっとも、自分でハッキリそう名乗りきれているわけじゃない。

 なぜなら幼い頃に階段から転んで頭を強打して以来、「前世で遊んでいた乙女ゲーム」の記憶らしきものを断片的に思い出し始めたはいいが……


 その記憶があやふやで、どうにも継ぎはぎ状態。

 とにかく鮮明なのは“悪役令嬢が最後には破滅する”という展開だけ。


  その破滅ルートとは、具体的には「王太子殿下との婚約を破棄され、学園の皆に断罪され、財産没収のうえ国外追放か、下手をすれば処刑——」


 そんな散々な未来が待っている……らしい。

 私はもう少し思い出せればいいのに、と常々思っているけれど、この不安な予感だけはやけに胸に迫るから困る。


「セレスティア、あなたったら最近ますます口調が変じゃない? まるで芝居じみているような……」


 食堂の長テーブルで朝食をとっていたら、母——ノイエンドルフ侯爵夫人がこちらを怪訝そうに見た。


 確かに、意識して“悪役令嬢”らしい言動をしている部分があるのは自覚している。

 だけど、それもこれも「破滅エンドを回避するための試行錯誤」なのだ。何しろ本来の“悪役令嬢”というのはヒロインをいびり倒したり、取り巻きを従えて高笑いしたり——そんなことばっかりして、最終的に断罪される典型が多い。ならば私はどう動くべきなのか?


  「ええと……おほほ、問題ありませんわ、お母さま。私、じゅ、準備に抜かりがあってはなりませんし……っ!」

  「また妙な笑い方を。あなたらしくないわ。」


 そうツッコまれたが、どうにも上手く誤魔化せない。

 正直、これがツンデレ気質と相まって、余計に挙動不審な悪役感を醸し出してしまっているような——自覚はある。


  前世の乙女ゲーム知識いわく、この世界——しかもクレリア魔法学園こそが“王道恋愛シミュレーション”の主舞台。

 私はそこに登場する「没落一直線の悪役令嬢」で、婚約者である王太子リヒト・フォン・アルヴィエル殿下から断罪されるのが定番……。破滅する運命があるなんて考えるだけでゾッとする。それだけは何としても回避したい。


  けれど今は細かいシナリオを思い出せず、手探り状態。どういう経緯で婚約破棄になるのか、ヒロインが誰なのか、その辺の情報もぼんやりしているのだ。

 ゆえに私は「とりあえず学園に入ったら油断せずに行動しよう!」と意気込むしかない。


  ただ、意気込むあまり、余計に空回りしそうな予感がするのは私のツンデレが原因かもしれない。


 実家のノイエンドルフ侯爵家には、私以外にも家族が数名いる。とりわけ父や母は私を大事にしてくれているけれど、私がツンケンしてしまうせいで、よく困惑させてしまう。


  それに加えて、ここ数年で新たに「義弟レオナルト」が迎え入れられた。

 彼は“亡くなった親戚の遺児”という名目だったはずだが、どうも経緯が曖昧。正直「後継ぎトラブル?」程度に思っていたが、最近では私もレオナルトを弟分として可愛がるように……なりかけている。

 あの子、まだ十四歳だけれど、とにかく私をやたらと崇拝してくるのだ。


 まぁ、家族関係はまた後で詳しく触れるとして。

 ともかく私は、「破滅フラグを回避しなくちゃ」と焦りつつ、でもどう立ち回ればいいかわからない、という混乱の最中にある。


  婚約者たる王太子——リヒト殿下との顔合わせも間近。私が万が一、何か失礼をしたら、婚約破棄のきっかけを与えてしまうかもしれない。とはいえ、強引に殿下に擦り寄るのも危険だ。“嫌われる原因”になり得るので、かなり難しい塩梅だ。


  本来の悪役令嬢なら、「殿下は私のものよ!」と高飛車にふるまい、ヒロインに嫌がらせして破滅まっしぐら——となるのが定石。だけど、私はそこまで愚かではない……はず。


  「よし、気負っても仕方ない。まずは落ち着こう。私は私のままで……そう、自然体で……」


 意識して深呼吸を繰り返し、私はその日も“悪役風”と“私らしさ”を行ったり来たりしながら過ごすのだった。


  奇妙なことに、転生しているらしい自覚はあるのに、この世界では私自身が浮いているという感覚がそこまでない。

 周囲がどうも「優しすぎる」というか……。

 家族も使用人も、私が多少わがままを言っても、温かい目で見守ってくれる。


  「これ、逆にフラグなのでは……?」と思いつつ、何となく不安を抱えたまま、春からの学園生活が始まるのだった。


 だが、本当の波乱は学園入学まであと少しの“ある出来事”で早くも幕を開ける——と、その時点では想像もしていなかった。


  私が悪役令嬢として「いつ破滅フラグが来るのかしら……?」とビクビクしている間にも、どうやら“別の転生者”たちが、すでに裏で動き始めていたのだから。


  「……まさか、王太子殿下までもが“転生者”だなんて、思いもしなかったわ。」


 そんな運命に巻き込まれる一歩手前。私の苦悩は続く——。



(第1話・了)


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