真夏の休息③
アッキー 黒須秋乃
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「あれぇ? クモコシじゃん」
その時、別の方からコジマが4人くらいの集団を引き連れて現れた。
「何だ、コジマかよ……」
「何だって、何だよ? 会って早々に失礼じゃね⁈」
ワタシの言葉に、コジマはすかさず抗議する。ホント、からかうとおもしろいんだよね、コジマは。
「ソウちゃん、柔道部の人たちと一緒に花火大会行くんだ〜」
ツムがひょっこりと顔を出す。
「おう」
「うっわ、野郎だけで祭りって……<非モテ組>かよ」
「「「ほっといてくれよッッッ‼︎」」」
トモっちの容赦ない毒舌を浴びせられた柔道部連中が、そろって涙目でツッコむ。
「ほらほら、ソウちゃん。ミカ姐の私服姿だよ。何か言うことない?」
「ちょ、ちょっとツム、そんなに引っ張らないでって!」
なぜかツムがワタシの腕を引っ張ってコジマの方に近づけようとする。
「ん、うん……あぁ、えっと……」
コジマのヤツ、かける言葉が無くて困ってんじゃん。
そりゃあ、色気もへったくれもない格好だもん、しょうがないよね。
「……クモコシっぽいよ」
そして、どうにかこうにかひねり出した言葉がコレだ。
「何それ?」
「あ、いや、だから、クモコシらしいって言うか、いつも通りって言うか……」
「まあイイよ、別に。ほめられるようなもんじゃないから」
ワタシがそう答えると、なぜかツムとコジマがそろってガッカリしたようにうなだれる。
ホント、一体何なんだろ?
「そうだよ! アタシら、こうして私服姿を見せてやってんだから拝観料を払うべきだろ、男子。ひとり千円な」
すると突然、トモっちがムチャクチャなコトを言い出し、お布施を求めて手のひらを差し出す。
「拝観料って、仏様かよッ!」
「たっかッ⁉︎」
当然、男子たちからのクレームが殺到する。
「普段制服姿か体操着姿しか見れないはずの美少女たちの私服姿を拝んでるんだぜ? 尊いに決まってんだろ⁉︎」
「美少女って、自分で言う?」
「てぇてぇ、って何だよ?」
トモっちと男子たちの攻防はなおも続く。
「そうだ、センパイ! 今日は柔道部の人たちと一緒に回りませんか? ボディーガード代わりになると思うんですけど」
と、今度はツムがワタシたちを見回してそんなコトを言い出す。
「この方々がボディーガード……ですか?」
品定めをするようにコジマたちを見るアッキー。
「あの、わたし、男のヒト苦手なんですけど……」
メイが、オドオドとした口調で告げる。
「大丈夫だよ。メイちゃんの側にはわたしがついてるから」
ツムがメイの手を握って勇気づけるように言うと、メイは渋々といった感じでうなずいた。
「私は別にかまわないよ。大勢の方が楽しいかもしれないしね」
シーコがそう言うと、
「まあ、コイツらでもナンパよけくらいにはなるかもな」
とトモっちも同調する。
「たしかに、ナンパはウザいですからね」
「心配しなくても、アッキーはナンパされねぇよ」
「それはアナタの方でしょ⁉︎」
「はぁ⁉︎ 何でだよ? されるに決まってんだろ⁉︎」
「アナタのその場違いな風貌こそ、立派なナンパよけですッ!」
「場違いとは何だ、ゴラァ‼︎」
そして始まるトモっちとアッキーの不毛な争い。うん、平常運転だ。
「それで。キミはどうなんだい? ヒミカ」
不意にシーコが問う。
黒い蠱惑の瞳がワタシを飲みこんでいくみたいに思えた。
「まあ……みんながイイって言うなら、ワタシは反対しないよ」
心まで掴まれそうな気がして、ワタシはそう答えるのが精一杯だった。
「だってよ。こんな美少女たちと一緒に回れてうれしいだろ、<非モテ組>!」
「「「だから非モテ言うなしッッッ!!!」」」
トモっちのあおりに、柔道部連中の叫びが悲しくこだまするのだった……。
花火大会の会場は広瀬川をまたぐ光円橋近郊となっていて、祭りの時間帯その周辺は完全に車両通行止めとなっている。
大きな櫓の上では地元の小学生たちが祭囃子を演奏し、通りには多くの夜店が立ち並んでいる。
そして夜になれば河原からたくさんの花火が打ち上げられる。
小学生のころから毎年来てたけど、その度に人々の熱気や夜店から漂う誘惑の香りにワクワクとドキドキが止まらなかった。
今年は剣道部と柔道部が一緒になって回るという異例の展開。そんな中でひさしぶりに食べたかき氷とヤキソバは、どこかなつかしい味がした。
射的ではコジマと勝負してワタシが圧勝。お情けでコジマに景品で取ったキャラメルをあげた。
これまでいろいろあってずっと心がモヤモヤしてたけど、今日は昔に戻ったみたいにこの独特の雰囲気を楽しめていた。