春のあけぼの⑦
すると一転して、シーコはジッと動かなくなる。
それは、彼女のいつものスタイル。
そして、リンリンも同じように動きを止める。
だけど彼女の場合、動かないというより動けないと言った方が正しいのかもしれない。
これまでの変幻自在に戦いぶりから、何をしてくるかわからないという不気味さが、彼女をそうさせているのだろう。
動から静に転じて、会場はさっきまでのざわめきがウソのようにしんと静まり返る。
リンリンの呼吸の音が、やけにリアルに聞こえてくる。
それなのに、あれだけ動いていたシーコの方は息ひとつ乱してなくて、ホントに呼吸しているのかわからないくらい静かだった。
そうした膠着状態がしばらく続いた後、シーコがスッと前に動き出しながら、竹刀で相手の竹刀を下に押さえつける。
すると相手は、その竹刀を払おうと手に力をこめて押し上げようとする。
その瞬間、シーコはフッと脱力して竹刀を振り上げる。
リンリンは押さえつけられていた竹刀を力いっぱい振り上げた拍子に、押さえつけていたその目標物が消えてしまったものだから、勢いそのままに竹刀を頭上まで振り上げる形となった。
「胴ォォォォォッ‼︎」
スパァァァァァンッ‼︎
その機を逃さず、シーコは体を深く沈みこませてガラ空きになった相手の胴を一閃する。
審判は一斉に赤い手旗を掲げる。
相変わらず鮮やかな抜き胴だ。
はたからだと簡単にやってのけているように見えてしまうけど、そこに至るまでにたくさんの布石があったようにワタシは感じた。
まずシーコは、さまざまな戦法をとって動きを絞らせなかった結果、相手を惑わせてその動きを封じていた。
何をしてくるかわからない、という思考が相手を消極的にさせて、なおかつ反撃しようにも的が絞れないから迷いが生じる。
そんな中で竹刀を上から押さえつけられたら、相手の意図を考える余裕もなく条件反射でそれを振り払おうとするだろう。
そしてシーコは、そんな相手の行動を先読みしてワザと力を抜いた。
だからリンリンは、自分がかけた力を遮るものがなくなった反動で想定以上に腕を振り上げるコトになってしまい、その結果ガラ空きとなってしまった胴をまんまと打ち抜かれてしまったのだ。
こんな緊迫した試合の中で、相手の隙を生み出すにはどうすればイイか考え出して、それを冷静に実行できるシーコは、同じチームメイトながら恐ろしい存在だと思う。
それと同時に、その一連の流れは、相手の攻略法が見出せないまま攻めあぐねてしまったワタシへのレクチャーだったんじゃないか、と感じた。
そして、一本を取ったシーコだったけど、相手もツワモノだ。
その後はいつもの冷静さを取り戻したリンリンは、シーコの攻撃にすべて対応して互角の打ち合いを演じていた。
リンリンのスゴいところは、一度見た動きや攻撃にはすぐに対応できてしまうコトだ。
だから、彼女に同じ手は2度は通用しない、と考えた方がイイと思う。
ビィィィィィッ‼︎
「それまでッ‼︎」
結局試合はそのまま終了の時間を迎えた。
「一本勝ち。勝負あり!」
最後はシーコが勝利して一矢報いた形となり、この四中との決勝戦は2-3という結果に終わった。
「「ありがとうございました‼︎」」
ワタシたちは整列して、お互いに一礼する。
すると、周囲から割れんばかりの拍手が沸き起こる。
シーコとリンリンのハイレベルな戦いによるところが大きいと思うけど、両チームの健闘を讃えてくれてうれしく感じる反面、やっぱり悔しくもあった。




