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キラめき一閃!  作者: チーム奇人・変人
2年 真夏
5/66

真夏のたそがれ④

挿絵(By みてみん)

ヒメカミさん 姫神凛音ひめかみりんね



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆




 と、その時だった――


「いらっしゃいませ!」


 店のおばちゃんが快活な声でお客を迎える。

 やって来たのは、白いブラウスに赤と黒のチェックのスカートをはいた3人の女の子。たぶん年はワタシたちと同じくらい。


「3名なのですが、席はありますか?」


 前に立つセミロングの黒髪の女の子が、ていねいな口調でたずねる。


「ごめんなさいね、今全部席が埋まってるの」


 おばちゃんが申し訳無さそうに告げる。

 そういえば、最初はワタシたちだけだったはずだけど、全部で3つある4人がけの席はいつの間にか全部埋まっていた。


「そうですか……」


 セミロングのコはそう言うと、あきらめて帰る……コトはなくて、まるで威圧するように鉄板のあるテーブル席をひとつずつ見回す。

 そしてワタシたちが使っている席を見てから、


「貴女がた、もうお食事終えてますよね? すみませんが席を空けていただけませんか?」


 少しトゲのある口調でまくし立てるように言う。


「いや、オレたちだってついさっき食い終わったばっかだぜ⁉︎」


 半分腰を浮かせた状態で断固抗議するコジマ。なかなか言うようになったじゃん、感心感心。


「ですが、食べ終えたことに変わりはありませんよね?」

「そ、それはそうなんだけどさ」


 と思ったら、ぐうの音も出ない正論を返されてあっさりと座っちゃった。何だよ、ヘタレかよ。


「あ、あの……テイクアウトも出来ますのでよろしかったらそちらで――」

「いいえ、お嬢さまは店内で食されることをご所望です」


 見かねたおばちゃんの提案も、セミロングのコは一切の妥協もなく拒否。


 それにしても、"お嬢さま"って何? 今時そんなの――


 ――わ! ホントにお嬢さまッ‼︎


 気になって後ろにいるコを見たらビックリ!

 作り物かと思うくらいキラキラ&ツヤツヤとした長い金髪。しかも左右がクルクルって見事な縦ロールになってる。

 切れ長の目元で優雅なほほ笑みを浮かべて仁王立つその姿はまさしくお嬢さま。ザ・お嬢さまだ。


「ねえねえ、ミカ(ねえ)。あの人たち四中だよ。しかも剣道部」


 ワタシの耳元でツムが小声でささやく。

 

「へぇ」


 だけどほとんど部活出てなかったし、試合も見てないからそう言われてもピンとこないんだよね。


「貴女がた、剣道部ですよね?」


 不意に、セミロングのコがこちらに問いかける。


「表に停めてあった自転車の荷台に剣道の防具袋がありましたので」

「そうだけど。だったら何?」

「どちらの剣道部でしょうか?」

「……二中だけど」

「ああ……二中ですか」


 そう言って、セミロングのコは鼻で笑う。


 ――コイツ、今見くだしたな

 

 たしかに二中(ウチ)は1回戦負けの常連だけどさ。ワタシなんか試合にも出てないけどさ。

 それでも、この態度にはものすごく腹が立った。


「さっきから何? 言いたいことがあるならハッキリ言えば⁉︎」

「いいえ、別に。ただ、ずいぶんと余裕なのだな、と思いまして」

「何それ? 剣道弱かったらもんじゃ食べに来ちゃいけないってコト⁉︎」

「そんなこと言ってませんよ。あ、でも、弱いという自覚はお持ちだったんですね?」


 カッチーン‼︎

 

 このコ、口調はていねいなのにすごくあおってくるし、いちいち(かん)にさわる!

 

 ワタシは頭に血がのぼって立ち上がる。


「上等じゃん! アンタたち四中みたいだけど、今度対戦するコトがあったら吠えヅラかかせてやるよ‼︎」

「ほう、貴女がたが、ですか。それは楽しみですね」

 

 そして睨み合いがスタート。


 ツムとコジマとおばちゃんがなだめるけど、ワタシは引く気はない。


「そのくらいにしておきなさい、菊池。少々はしたないですわよ」


 その時、初めてお嬢さまが口を開いてセミロングのコ――菊池をたしなめる。

 その口調もやっぱりお嬢さまそのものだった。


「は、失礼いたしました、お嬢さま」


 菊池はすぐに頭を下げる。もちろん、ワタシにじゃなくてお嬢さまに向けて。


「もうよろしくてよ。菊池、瀧川(たきがわ)。帰りますわよ。日を改めてまた参りましょう」


 少しがっかりしたようにため息を吐いて、お嬢さまはヒラリと(きびす)を返す。


「待って!」


 ワタシはすぐに呼び止める。


「ワタシたち、もう帰るよ。だからこの席使って」

「よろしいんですの?」

「うん。店で食べたくてわざわざ来たんでしょ? 楽しみにしてたのに食べられなかったらヘコんじゃうもんね。2人とも、はぁ行くんべえ」


 ツムとコジマに言うと、2人ともコクリと同意してくれた。


 ワタシたちはカバンを持ってお会計を済ませる。

 おばちゃんに、ごめんね、と言われたけど、気にしてない、と返す。


 そして店を出ようとした時だった。


「ちょっとお待ちになって」


 金髪お嬢さまが不意に呼び止める。


「何? まだなんか文句あんの?」

「いいえ、そうではなくて……。アナタ、どこかでお会いしたことありまして?」


 何かと思ったら、ワタシにそんなコトを聞いてくる。


 会うとすれば、剣道の試合会場くらいだと思うけど、ワタシは試合に出たコトすらないのだから、その可能性は無いはず。


「無いよ。ワタシ、アナタみたいな奇抜な人、初めて見たもん」

「お嬢さまに対して何と無礼な――」


 ワタシの言葉に激昂する菊池を、お嬢さまは手を上げて制する。


「そうですか……。失礼いたしましたわ」


 そう言って目を伏せるお嬢さま。


「どちらが吠えヅラをかくことになるのか、対戦を楽しみにしてますよ」


 すれ違いざまにそうつぶやく菊池。

 その余裕そうな言い方、ホント腹が立つ。


「だんだんなー!」


 もうひとりのコ――たぶん、さっき瀧川(たきがわ)って呼ばれたコだと思う――日焼けした小麦色の肌とやけに人懐っこそうな大きな目が特徴的な背の低いコが、ニカッと笑ってそんなコトを言う。


「だん……何?」


 ワタシは首をかしげるけど、3人はさっきまでワタシたちが座っていた席の方へと向かう。


 ――ホント、ヘンな人たち……


 そんなコトを思いながら店を後にしたワタシは、


「な、何、コレッ⁉︎」


 店の駐車場を半分以上占領して停められている黒塗りの大型車を見て、思わず叫んでしまう。


「これってリムジンだよな?」

「すっご〜い! 初めて見たよぉ!」


 コジマもツムも、目を丸くしてそれを眺めている。


「さすが、<高千穂(たかちほ)財閥>のご令嬢だよねぇ」

「え? <高千穂(たかちほ)財閥>ッ⁉︎」


 ツムのその言葉に、ワタシは思わず大きくのけぞる。

高千穂(たかちほ)財閥>――それは日本を裏で牛耳っている、とまことしやかにささやかれているほどの権威をほこる大財閥グループ。

 ちなみに、シーコこと中原滋子(なかはらしげこ)も<星乃宮(ほしのみや)財閥>という<高千穂(たかちほ)財閥>と双璧をなす大財閥の令嬢で、両勢力はライバル同士でもある。


 そんなすごい財閥グループが2つともこの群馬に拠点を置いているというのも、何だか不思議な話だよね。


「そうだよぉ。姫神凛音(ひめかみりんね)さんは四中女子剣道部の部長で、ウチのシーコセンパイ以外には負けたことがないんだって」

「うっそ⁉︎ そんなに強いの、あのヒト?」


 シーコは小学生時代に全国大会の個人戦で優勝したほどの実力者で――つまり、同学年の中では日本最強剣道少女というコトになるから、それはすなわち日本で2番目に強い剣道少女というコトに……なる?


「うっわぁ〜。クモコシ、とんでもないのにケンカ売っちゃったな」

「知らなかったんだよ、そんなの……」


 コジマのあわれむような言葉に、ワタシは思わず頭をかかえてしまう。


「ちなみにね、姫神(ひめかみ)さんはたしかにシーコセンパイには勝ててないけど、四中自体は団体戦だと毎年全国大会出場してる超強豪校なんだよ」

「うわぁぁぁぁぁッ‼︎」


 さらに追い打ちをかけるようなツムの解説に、ワタシはますます頭が痛くなってもだえてしまう。


「そんなヒトたちにあんな大口たたいちゃって……完全に負け犬の遠吠えじゃん……」

「ミカ(ねえ)、ネコ派なのになんか犬に関連する言葉ばっか出てくるね?」

「クモコシ、実は犬好きなんじゃね?」

「ネコ好きだし! てか、今ソレ関係ないしッ‼︎」


 ワタシの懊悩(おうのう)なんてかまうコトなく、2人は好き勝手に言ってくる。


 ああ、もう!

 穴があったら入りたい気分だよ……。



 帰宅して部屋に戻ると、ワタシは真っ先にベッドの上にうつ伏せでダイブした。


「……ああ、しんど」


 もちろん、あんだけハードな練習したんだから疲れるのは当たり前なんだけど、今日はそれ以上に精神的な疲労をこうむったような気がする。


 時間は午後4時43分。

 夕飯までこのまま寝てようかな……。


 すごく気だるくて、もう何もする気が起きない。まあ、それはいつもと同じなんだけど。


 ヴゥゥゥゥゥ!


 その時、脇に置いたワタシのスマホが振動する。


 ――ん? なんでコジマが? ああ、そっか……


 <MAIN>のメッセージ通知にコジマの名前が表示されて、"何で?"って思ったけど、さっき<今田屋>から家に帰る前に、ツムがせっかくなんだからって言ってコジマとワタシにアドレス交換させたんだっけ。


 ワタシは寝そべったまま手を伸ばしてスマホを取る。


『クモコシ、さっきはデリカシーないこと言ってゴメンな』


 そんなメッセージと、必死の謝罪をアピールするスタンプが送られていた。


 ――アイツ、意外とマメなんだな……


 気にしてないって言ったのに、わざわざまたあやまってくるとか、なかなか見上げたヤツ。


『気にしてないって』


 ワタシはそう入力して送信……


 ヴゥゥゥゥゥ!


 する前に、再びコジマからメッセージが届く。


『それとお前、さっき店出る時"はぁ行くんべえ"って言ってたぞ。グンマー丸出しだな』


 そんなメッセージの後に、今度は爆笑しているスタンプが表示される。


「はあぁぁぁぁぁッ⁉︎」


 ワタシは思わず体を起こし上げる。


 前言撤回。やっぱりデリカシーのないヤツ!


 ワタシは、さっき送信しようとしていた文字を削除。そして、


『余計なお世話だ‼︎』


 そのメッセージと一緒に怒りをあらわしたスタンプを送信してやった。


「グンマーで何が悪い! お前だってグンマーだろッ‼︎」


 ワタシはこれまでの鬱屈(うっくつ)とした感情を発散するように、腹の底から思いっきり叫んだ。


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