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冬の氷解⑤

「ヒミカ。次は私とお願いします」


 そう言って入れ替わりにコートに入って来たのは、アッキーだった。


「うん。よろしくね、アッキー」


 そしてワタシたちは竹刀を構える。


「ヤァァァァァッ‼︎」


 普段はあまり気合いを表に出さないクールなアッキーが、今まで見たコトないくらいのやる気をあらわにしている。


「シャアァァァァァッ‼︎」


 それに応えるように、ワタシもやる気を全身にみなぎらせる。


 ワタシはじわじわと間合いを詰め、右足を深く踏みこむと、それに呼応してアッキーが動き出す。


「「小手ェェェェェッ‼︎」」


 同時に繰り出された竹刀はぶつかり合って弾かれ、(つば)迫り合いになる。


「ヒミカ。正直言うと私、アナタのことが苦手でした……」

「え?」


 ポツリとアッキーが語り出す。


「小学生のころからアナタは勉強もスポーツも優秀でしたし、明るい性格で誰からも好かれる人気者でした。何も持っていない私とはまるで正反対の、太陽みたいに眩しい存在でした。どんなにがんばっても届かない、特別な存在だと……」

「アッキー……」


 そんな風に思ってたなんて知らなかった……。

 ううん、違う。どっかで聞いたような気がする。

 

「ですが、本当は違ってました。アナタも私と同じように悩んだり、苦しんだり、普通の女の子でした。それを知って私は……どこか安心していました。アナタが苦しんでいる姿を見て、私は心のどこかでそのままでいて欲しいとさえ思ってしまったのです……」


 まるで悲痛な心の叫びを吐き出すように、アッキーは思いを口にする。


「だけど、私の心は満たされませんでした。私はそんなアナタに勝ちたかったんじゃない。太陽のように輝いていたアナタに勝ちたかったんだ、って気づいたのです」


 アッキーは以前、ワタシに語っていた。どうしても勝ちたい相手がいるんだ、と。

 ワタシはその時、自分と同じ思いを抱いている同士のように感じていたけど、アッキーの勝ちたい相手ってワタシのコトだったんだ、とようやく気づいた。


「こんな最低な私に言えたことではありませんが……戻って来てください、ヒミカ! 私は最後までアナタと一緒に戦いたいです!」


 アッキーは最後に訴えるように叫ぶと、後ろに下がりながら面打ちを放つ。

 ワタシはそれを竹刀で受け止める。


 そしてワタシたちは間合いを置いてしばらく膠着状態となる。


 ――アッキーのその気持ち、スゴくわかるよ。だから……


 今度はワタシは全力でアッキーに応える番だ。


 ワタシは右足を大きく踏みこむ。

 アッキーがそれに反応して動き出す。


「「()ェェェェェんッ‼︎」」


 お互い面を狙って繰り出した一撃。だけどワタシはアッキーの竹刀をいなすように擦り上げる。


 パシィィィィィンッ‼︎


 相手の面を捉えたのは、ワタシの竹刀だった。


「……見事な擦り上げ面です。ありがとうございました」


 アッキーはくやしそうにひとつため息を吐き出すと、そう言って深々と頭を下げる。


「ありがとう、アッキー。それとワタシ、勉強だって負ける気ないからね」


 そんな彼女に、ワタシは挑戦的な言葉を向ける。


「望むところです」


 アッキーは笑みを浮かべて答えると、コートを後にした。


「次はアタシが相手だ、ヒミカ」


 入れ替わりにコートに入って来たのは、トモっちだ。


「よろしくね、トモっち」


 そしてワタシたちは竹刀を構える。


「リャァァァァァッ‼︎」


 相変わらず気合いいっぱいのトモっち。


「シャアァァァァァッ‼︎」


 ワタシもそれに応えて気合いを解き放つ。


()ェェェェェんッ」


 トモっちはすぐさま切りこんで来る。この思い切りのよさが彼女の強みだ。

 ワタシはそれを受け止め、(つば)迫り合いになる。


「アタシさ、小さいころは世界でジブンが1番カワイイ、って本気で思ってたんだ」


 突然トモっちがスゴいコトを言い出した。


「でも、テレビに映るオマエを見た時、完全負けたと思ったんだ」

「ワタシ?」


 思わず首をかしげる。

 そういえば前に、カワイさで負けたくない相手がいる、って話してたけど……もしかして、それってワタシ⁉︎


 戸惑うワタシを尻目に、トモっちはなおも語りかける。


「どうしたらオマエみたいな魅力が出せるのか、いろいろ考えてみたけどわかんなかった。実際、初めてオマエと会った時は、その時みたいな魅力を感じなかったし」


 トモっちと初めて会った時――それはたしか、いろいろと打ちのめされて精神的にキツかった時期だったと思う。


「だけど、今年の夏くらいからオマエが本気で剣道に一生懸命打ちこんでる姿を見て、やっぱりカワイイと思った。そん時、アタシは気づいたんだ。何かにひたむきになっている時が、人として1番魅力的に輝く瞬間なんだ、って」

「ひたむきになっている時が、1番魅力的……?」


 それは思いも寄らない言葉だった。

 野球をやっている時も、剣道をやっている時も、ワタシはただ目の前にあるものに夢中になっていただけで、客観的に自分を見つめるなんてコトもして来なかったから、自分が他人からどう思われてるかなんて2の次だったし、ワタシはワタシのやりたいコトをやっているだけで満足だったから。


「だから、アタシも一生懸命になる、って決めた。最後まで剣道を続ける、って決めた。それが、ジブンの魅力を高めることに繋がるから。アタシがもっともっと輝けるから。だけど、アタシはオマエにも輝いていて欲しい。最高に輝いてるヒミカと一緒に、アタシも輝きたいんだ‼︎」

「トモっち……」


 トモっちの情熱的な言葉は、ワタシの胸の奥にしっかりと響いた。

 ワタシはそれに応えるため、まっすぐ彼女を見すえる。


()ェェェェェんッ‼︎」


 トモっちは後ろに下がりながら面打ちを繰り出す。

 ワタシはその剛撃の重みを竹刀で受け止めるの。


 そして間合いを取ると、お互い膠着状態になる。


 今度は、ワタシの方から先に右足を踏みこんで竹刀を振り上げる。それに応じてトモっちが竹刀を振り上げた瞬間、ワタシは竹刀を下げて相手の小手に狙いを定める。

 トモっちがそれに釣られて竹刀を下げた、その瞬間を狙ってワタシは再び竹刀を振り上げながら大きく踏みこむ。


()ェェェェェんッ‼︎」


 そして、ガラ空きになったトモっちの面に一撃を振り下ろす。


 パシィィィィィンッ‼︎


 たしかな感触が腕に伝わる。


 これは、秋の遠征合宿で諏訪(すわ)女の上泉(かみいずみ)さんから一本取った時と同じフェイント技だ。


「んあぁぁぁ、やられたぁぁぁッ!」


 全身でくやしさを体現するトモっち。


「でも、次は負けねぇからな、ヒミカ。今日はありがとな!」


 でもすぐに笑ってワタシに言う。


「ありがとう、トモっち。あとさ。ワタシ、欲張りだからカワイさでも負けたくないよ」


 ワタシの魅力を教えてくれたトモっちに宣戦布告。


「オマエらしくていいな」


 そう言ってもう一度笑い、トモっちはコートを後にした。

 

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