冬の氷解③
「じぁあさ、ワタシたちが遠征合宿から帰るころ、ツムと<MAIN>でワタシにナイショで何かやり取りしてたよね? アレは何? それと、なんでツムと2人でショッピングモールにいたの?」
ワタシは最後に残った疑問をたずねる。
なんだか<めんどくさい女>みたいだ、って自分で思ってしまう。
「ああ、それに関してはツムから直接聞いてくれ」
「ツムから?」
ああ、と言ってコジマは、
「オレのコトは信じてもらえなくても構わない。だけど、ツムのコトは信じてやって欲しい。嫌わないでやって欲しい。アイツはいつもお前のコトを気にしていた。オレがヤキモチ焼くくらい、お前のコトが好きなんだよ」
静かな声で諭すように言う。
「ツム……」
ワタシは最初からわかっていた。ツムは自分のコトよりもワタシを気にかけてくれて、いつも陰から支えてくれていた。
それなのに、ワタシは彼女にヒドいコトを言って突き放してしまった。
ホントにバカだった……。
「でもさ。オレ、ちょっとだけうれしいんだよ」
不意にコジマが、照れくさそうに鼻をかきながら言う。
「うれしいって、何が?」
「だって、オレとツムが仲良くしてんの見て機嫌悪くなったってことは、ヤキモチ焼いてたってことだろ?」
「ヤキモチ……?」
ワタシはこれまで、胸の中にあったモヤモヤとしたものの正体がわからなかった。だけど、その言葉でようやく気づいた。ワタシは嫉妬していたんだ、って。
「ヤキモチ焼くくらい、オレのこと気にかけてるって証拠じゃん? そう考えたらなんかうれしくてさ」
コジマはそう言ってはにかんだ。
「き、気にしてなんか――」
つい、いつものクセで反論しかけたワタシだったけど、ここで思いとどまる。
ワタシは、夏祭りのころから、コジマを見るたびに心臓が跳ね上がり、ドキドキという早鐘を打つようになっていた。
――ああ、そうだったんだ
ワタシは、そのドキドキの正体にやっと気づいた。
それは、ワタシが恋愛小説を読んで感じたドキドキと同じ。
――ワタシ、いつの間にかコジマのコトを男として意識してたんだ……
温かくて――
切なくて――
そして苦しくて――
こんな気持ちは初めてだった。
そして、気づくとワタシの目から自然と涙がこぼれ落ちていた。
「ど、どうしたんだ?」
ワタシがいきなり泣き出したもんだから、コジマは困ったようにあわててしまう。
「わかんない……わかんないよ、そんなの。だって、本気で怒られたのだってさっきが初めてだったし、ずっと野球一筋でやってきて、その後ヘコんで、今度は剣道に夢中になって……。なのに、急にいろんな初めてがワタシの中にいっぺんに押し寄せて来て、頭ぐちゃぐちゃになっちゃったんだもん……わかるワケないじゃん!」
ワタシは駄々っ子のような口調で、今までのモヤモヤとした感情を全部吐き出した。
すると不思議なもので、情け無いくらい泣きはらして醜態をさらしているのに、まるで浄化されていくみたいに気分が晴れやかになるのを感じるのだった。
「そうか……」
コジマは静かにつぶやくと、
「オレもツムも、お前の気持ちも考えずに急ぎすぎてたかもな。いろいろ混乱させて悪かった」
そう言って、そっとワタシの頭を撫でる。
ワタシはかぶりを振った。
前までのワタシなら、子供扱いされてるようで腹が立ったかもしれないけど、今はなんだかこうして優しくされるコトが心地よく思えるようになっていた。
「オレの言ったこと。答えはすぐじゃなくていいよ。お前がまた剣道部に復帰して、落ち着きを取り戻したころにでもゆっくり考えて欲しい」
「剣道部に……」
「戻るんだろ? 剣道部に」
ワタシはコクリとうなずいた。
「でも、ツムが……みんなが許してくれるかどうか……」
「大丈夫だ。お前は今、オレにちゃんと自分の気持ちを伝えてくれた。みんなにもさ、思いを言葉にしてちゃんと伝えれば、きっとわかってくれるさ」
不安を口にするワタシを、コジマははげましてくれる。
「……うん。そうだよね」
思いを言葉にして伝える――
それはリンリンも言っていた。
ワタシはいろんなヒトにはげまされ、支えられてるんだなぁ、としみじみと感じた。
「ありがとう、コジマ」
そしてワタシは、感謝の気持ちを言葉にして伝えるのだった。




