表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/66

冬の雨④

 ワタシは逃げるようにして会場を後にすると、駐輪場へとかけ出す。そして、自分の自転車に飛び乗ると、思い切り漕ぎ出した。


 行き先なんて知らない。もう、どこだってイイ。


 ワタシは無心になってペダルを踏み続けた。


 ぽつっ


 その時、ワタシの頬に一粒の雫が滴る。

 空を見上げると、さっきよりも黒くて厚い雲から雨が降り出していた。


 天気予報を見てなかったワタシは当然、雨具の類いは持ち合わせていない。


 冷たい冬の雨が降り注ぐ中、ワタシは立ち漕ぎで疾走した。


 ――ワタシが……ワタシが壊したんだ


 さっきの試合で、ワタシは二中メンバーの誰からもドキドキを感じるコトができなかった。

 あれほど勝ちたいと熱望していたシーコでさえも。


 それなのに、ワタシは二中が負けて悔しいと思ってしまった。そして、タッつんやカッシーと戦ってみたい、と思ってしまった。

 

 もう、やめたハズなのに……。

 剣道から離れたハズなのに……。


 だけど、タッつんやカッシーの試合を見てドキドキしていた間、胸の中にぽっかりと空いていた空虚な穴を埋めるコトができていた。

 ドキドキと高揚が、ワタシの中にあった虚しさを忘れさせていた。


 戦ってみたい。

 あのドキドキを――強いヒトと向かい合った時のあの緊張感を、また味わいたいと思った。


『試合の時の緊張感。スゴく強いヒトと戦っている時の高揚感。そんなドキドキがたまらなくスキです!』


 ワタシは、遠征合宿の時に上泉(かみいずみ)さんに向けて言った自分の言葉を思い出した。

 そして、痛感した。


 ワタシは、やっぱり剣道が好きなんだ――あのドキドキを感じていたいんだ、って。


 だけど、それはもう叶わない。

 

 ワタシは、自分から逃げ出したんだから――

 みんなを裏切って輝きを奪ったんだから――


「……うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ‼︎」


 ワタシは降りしきる雨の中、叫んだ。

 まるでケモノの咆哮のような、幼な子の慟哭のような、無様な叫び。


 ワタシは、どうにもならないイラだちから来る衝動を発散するために、叫びながら暴走する。


 12月の冷たい雨が容赦なく全身に打ちつける。


「ワタシは……バカだぁぁぁぁぁッッッ‼︎」


 恥も外聞もかなぐり捨てて、ワタシは衝動のままに叫んだ。


 と、その時だ――


 ガシャンッ‼︎


 突然自転車から大きな異音が発せられると、それと同時に漕いでいたペダルが手応えを失って空回りする。


 ワタシはバランスを崩してしまうけど、なんとか地面に足をついて止まるコトができた。


 そして道端に自転車を寄せて点検する。


「チェーンが外れちゃってる……」


 ギアの歯車に噛み合っていたハズのチェーンはそこから外れてしまい、ダラリと垂れてしまっていた。

 最近変な音がしていたと気づいていたのに、それを放置した結果がコレだ。

 

 ワタシはなんとか修復してみようと試みたけど、こういう事象に遭遇したのは初めてでうまくいかない。

 

 まるで今のワタシみたいだ、と思った。


 何をやっても噛み合わなくて空回り。前に進みたくても進めない。


 剣道部も――

 この自転車も――


 ワタシが壊してしまったんだ。


 雨はなおも治まるコトなく降り注ぐ。

 寒さでかじかむ手でなんとかチェーンを戻そうとするけど、やっぱりダメだった。


「ワタシ……ひとりじゃダメなんだ。何もできないや……」


 吐き出された乾いたため息が白くにじむ。


 ワタシはここで修復するのをあきらめて、自転車を引いて歩くコトにした。ペダルを漕ぐコトはできなくても、それなら前に進める。


 だけど、ここから家までどれくらい時間がかかるんだろう?

 そもそも、ここはどこなんだろう?


 何も考えずに暴走していたから、現在地すらもよくわからない。

 それでも、ワタシは歩くしかなかった。


 ――ワタシは……バカだ


 さっき口から吐き出した言葉を、もう一度頭の中でつぶやく。


 たった一度うまくいかなかっただけで、ワタシはすぐに逃げ出していた。


 野球だって、ワタシの投げるストレートは打ち返されたし、バッティングもなんとかバットに当てて前に転がすのがやっとだった。

 だけど、それなら変化球を織り交ぜて投球術で勝負する手段だってあった。バッティングだって、小技と足を絡めて相手の守備をかき乱すというスタイルを取るコトもできたハズだ。

 なのに、ワタシはそれを<負け>だと勝手に言いワケして、努力もしないで逃げ出したんだ。


 剣道だってそう。

 それとはまったく関係ないところで心を乱して、感情のままに大切な仲間に当たり散らして、結果みんなの心までかき乱してしまった。

 もう少し冷静になって物事に向き合えたらよかったのに、ワタシはそれをしないで逃げ出したんだ。


 結局、何をやってもうまくいかない――

 すべてがムダに思えて――


 ワタシはいつの間にか歩くコトさえできなくなっていた。


 その場に立ちつくして、シャワーのように雨を浴びる。凍えるような冷たさが心にまで沁みていく。

 

 それならいっそ、胸のモヤモヤも心の痛みも全部一緒に流れてしまえばイイのに……

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ