冬の雨③
そして、両チームがコート中央に集合して一礼する。
まず先鋒は、二中がメイで、三中がタッつんだ。
「おりゃァァァァァッッッ‼︎」
試合がはじまると、いきなりタッつんの雄叫びが会場中に響き渡る。
スゴい気合いだ。
そして意外なコトに、タッつんは以前見せていたようなだらけて不マジメだった印象がまったくなくて、むしろやる気を前面に押し出して別人のように清々しい剣道を見せていた。
――タッつん、強くなってる!
ワタシがそう感じたとおり、タッつんはメイとの身長差をものともせず果敢に攻めこみ、デタラメに感じていた所作も今ではピンと背筋が伸びて美しさすら感じさせるものだった。
ワタシは、ドキドキと胸が高揚して、タッつんから目が離せなくなっていた。
そして先鋒戦は、気合いで終始圧倒したタッつんにメイは面と小手を奪われ、2本負けしたのだった。
――メイ、動きが硬すぎたなぁ。いつもはあんなじゃないのに……
がっくりと肩を落として緒方先生の元へ向かうメイを見て、なぜか悲しい気持ちがこみ上げてしまう。
そして次鋒は、二中がツムで三中がカッシーだ。
この両者は秋の新人戦で2度対戦していて、団体戦では引き分けで、個人戦ではカッシーの一本勝ちという戦歴だ。
試合がはじまると、ツムは持ち前のスピードで積極的に切りこんでいく。
だけどカッシーはそれに惑わされるコトなく、実に冷静にいなしていく。
――カッシーって、こんなに強かったんだ……
ワタシは対戦したコトはなかったけど、相手の動きをよく見て瞬時に対応する彼女の戦い方は、どこかシーコを彷彿とさせた。
――こんなに強いヒトが、まだいたんだ……
相手の動きを先読みして繰り出される応じ技――
わずかな隙さえ見逃さない、猛禽のような瞬撃――
カッシーの一挙手一投足に、ワタシの目は完全に奪われていた。
そして、それとは別に気になったのはツムだ。
一見いつもと変わりないように見えるけど、動作のひとつひとつに迷いのようなものが散見して、本来の冴えが鳴りをひそめているように感じられるのだ。
結局試合は、終始ツムが攻め続けたものの、中盤に面を取られてそのまま一本負けを喫してしまった。
――違う……。いつものツムじゃない
ワタシが感じたその違和感のようなものは、ツムだけじゃなかった。
中堅のトモっちも――
副将のアッキーも――
2人とも引き分けに終わったけど、いつもの力を発揮できていれば充分に勝てるハズだった。
そして大将のシーコでさえも――
彼女は胴を2つ取って2本勝ちこそしたけど、途中危うい場面があったりと終始動きに冴えがなく、あの目が覚めるような一閃は鳴りをひそめてしまっていた。
ワタシは……あんなに憧れて勝ちたいと切望していたシーコからでさえも、ドキドキを感じるコトができなかった。
三中との試合結果は、1-2で二中の敗北。
スコアだけ見れば接戦なんだけど、その数字以上に両者の間には大きな差があったようにワタシは感じられた。
――みんな、心がバラバラだ……
まるで、ワタシの胸の中に渦巻くモヤモヤが伝播したかのように、今日のみんなの姿から輝きを感じるコトが出来なかった。
――なんで?
やる気のなくなったワタシがいなくなれば、みんな前を向いて稽古に集中できると思ったのに。
――ワタシがやめたから?
不意にそんなコトを考えてしまう。
みんなはワタシを引き止めようとしてくれた。それは、本気でワタシを必要としてくれていたから?
だとしたら――
――ワタシが……壊したんだ
ざわざわと、胸の中でモヤモヤとしたものがうごめき出すと、どうにもならない焦燥とイラだちに突き動かされて、ワタシはその場を離れた。
まだ試合は残っているけど、とても冷静に見ていられるような心境じゃない。
ワタシは、一刻も早くこの今にも爆発してしまいそうな衝動を解消しなければならないのだ。




