冬の雨①
あれから――剣道部をやめてから、ワタシはいちおう学校にはちゃんと通っていた。
とりあえず勉強だけはちゃんとしとかないと、あとあと将来に響きそうだから。
当たり前だけど、学校に来れば剣道部のコと偶然すれ違うコトもある。そういう時は何も言わずそのまま通り過ぎるんだけど、その瞬間がすごく気まずくてしんどい。
特にトモっちは同じクラスで、しかもすぐ後ろの席だからなおさらだ。
すぐ側にいるのに、まるで示し合わせたようにお互いを無視する。
やっぱり、しんどい。
ツムとは、誕生日の時以来話していない。
毎日のようにチャットをしていた<MAIN>も、今は互いに連絡を取り合うコトもない。
最後に会った時のあの悲しそうな顔を、今でも思い出すコトがある。
これも、しんどい。
そして今日も、終業のチャイムが鳴る。
ワタシは小さくため息をつくと、教科書をカバンに詰めこむ。
後ろのトモっちは、さっさとカバンを持って教室を出て行った。
ワタシはゆっくり立ち上がり、のろのろとした足取りで教室を後にした。
――ヒマだな……
廊下を歩きながら思う。
部活をやめて時間はできたのに、何もやりたいコトが思い浮かばないし、何もやる気が起きない。
去年もそうだった。
時間だけはあるのに、何かをしていたという実感が何もない。
――どうやって時間つぶしてたんだろ?
よく思い出せない。ただ、部屋の隅で膝を抱えてうずくまっていたコトだけは覚えている。
校舎を出て少し歩くと、柔剣道場が見える。
つい最近まで毎日のように通っていたから、そこに寄らないコトに違和感を感じてしまう。
だけど、今はもうみんなと顔を合わせないで済む。コジマとも……。
これでワタシの胸のモヤモヤも心の痛みも和らぐハズ。そう思っていたけど、ぜんぜんそんなコトはなかった。
胸がキュッと締めつけられるような感覚。そして、ここを通る度に後ろ髪を引かれるような思いにさいなまれ、心の休まる日なんてなかった。
――帰ろう……
ここにいても仕方がない。
ワタシは駐輪場に向かって自転車に乗る。
――本屋に寄って帰ろ
とりあえず予定を決めたワタシは、そこに向けて漕ぎ出す。
――あれ?
しばらく自転車を漕いでいると、いつもは聞いたコトのない異音が発せられているのに気づいた。
ワタシはいったん道端に自転車を停めて点検をしてみる。
たぶん、チェーンとギアが微妙に噛み合っていないのだと思うけど、詳しくはないから根本的な原因まではわからなかった。
――コジマならすぐにわかるんだろうな……
ふとそう思った。
コジマの家は<コジマサイクル>という自転車屋で、昔から自転車が不調になった時はよく整備してもらっていた。
でも、今は――
ワタシは小さくかぶりを振る。
とりあえず今すぐ故障してしまうような重大な事象じゃなさそうなので、ワタシはそのまま自転車に乗って予定通り本屋に立ち寄った。
そこで<乙女ちっく戦国策>の新刊を手に取る。
もともとツムから借りて読んでいたものだけど、結局自分で買いそろえるまでにハマってしまったのだ。
ワタシはそれを購入すると、そのまま帰宅した。
部屋に戻って着替えを済ませると、ワタシはさっそく買ったばかりの新刊を読みはじめる。
不思議なもので、最初は主人公の美少女軍師ガクキが男たち相手に天才的頭脳を駆使して立ち回る姿に共感していたのだけど、今ではメイン要素であるイケメン王子とのロマンスにも心惹かれるようになっていた。
――なんでだろ?
前まで特に何も感じなかったのに、ガクキが主君であるイケメン王子のために戦っていくうちに、だんだんと忠誠心とは違う感情が芽生えはじめて胸が苦しくなっていくその姿に、ワタシも自分の胸が締めつけられるような切ない気持ちになってしまうのだ。
このドキドキは……何かに似ているような気がするんだけど、なんだったっけ?
「ヒミカちゃん、ご飯できたわよ〜!」
その時、階下からお母さんが呼びかける。
時計を見ると、もう夜7時近くになっていた。
「は〜い!」
ワタシは考えるのをやめて、部屋を後にした。




