冬の不協和音②
12月7日――
今日は日曜日で、ワタシの誕生日の前日だ。
午後になって、ワタシはひとりでショッピングモールへと繰り出していた。
目的は、冬用の他所行きの洋服を買うコト。そのためにワタシはお母さんに頼んでお金をもらった。ここで買う洋服が、両親からワタシへの誕生日プレゼントになるのだ。
さすがに日曜日ともなると、市内最大のショッピングモールはたくさんのヒトでごった返していた。
3階建ての広大な敷地のこのショッピングモールには、ファッション、インテリア、フードなどのショップが数多く立ち並び、大型シネマも完備していて、ぶらぶら歩いているだけでも退屈するコトなく1日つぶせてしまえそうだ。
「あ、<ボス猫ポムにゃん>のグッズだ!」
大好きなキャクターグッズを扱うショップの前を通りかかったワタシは、吸いこまれるようにその店へ足を向ける。
――ダメダメ! 今日は洋服を買いに来たんだから
ワタシは大きくかぶりを振って、なんとか思いとどまる。あやうく誘惑に負けてしまうところだった。
後ろ髪を引かれるような思いのままそこを通り過ぎると、アパレルショップがひしめくコートへ移動する。
とはいえ、店舗が多すぎて目移りしてしまうのと、普段ファッションにぜんぜん気をつかってなかったから、お気に入りのブランドがあるワケでもない。
しょうがないからとりあえず、ティーンズ向けの商品を扱っているショップに入ってみるコトにした。
――へぇ、けっこうカワイイかも
いつもはぜんぜん気にしてなかったけど、こうして実際に自分の目で見てみると、フェミニンでガーリッシュな洋服もイイものだ、と思う。
ただ、ワタシに似合うかどうかはまた別物だ。
アレコレと商品を眺めてみるけど、結局何も選べない。
そうやって迷っていると、店員さんが声をかけて来た。とりあえず冬物を一式そろえたい、と告げると、店員さんが見つくろってくれたので、それを試着してみるコトにした。
トップスはグリーンを基調としたオーバーニットセーター。ボトムスはグレーのキュロットスカート。そしてアウターにアイボリーのボアジャケットを身にまとったワタシは、鏡に映る自分の姿を見て新鮮に感じる反面、ちょっとはずかしく感じてしまう。
だけど店員さんは似合うと言ってくれて、結局ワタシはそれに乗せられる形で購入を決意した。
――コジマ、驚くかな?
手提げ袋を片手にショッピングモール内を歩きながら、ワタシはふと思った。
もしかしたら、この前みたいに<ガラじゃない>とか言うのかもしれない。
たしかに、買った後で言うのもなんだけど、スカートは攻めすぎたかな、と思わなくもない。
何せワタシはこれまで制服以外でスカートをはいたコトがなかったし、ましてや今日買ったのはけっこうなミニスカートだ。
――あぁ、やっぱりはずかしいなぁ……
想像しただけでも赤面してしまいそうだった。
――え?
と、その時だった――
前方を歩くヒトの波の中に見知った顔があったような気がして、思わず足を止める。
――やっぱりそうだ……
見間違えとか他人の空似とかじゃない。それはたしかにツムとコジマだった。
ズキンッ!
また、胸がチクリと痛み出す。
2人は並んで歩き、ショップの中へと入っていく。
そこは、ワタシが入ろうとして思いとどまったキャラクターグッズのショップだった。
ワタシは、こっそりと後をつけてその様子をうかがう。
2人はそこで、ワタシの大好きな<ボス猫ポムにゃん>のグッズを眺めながら、仲むつまじくおしゃべりをしていた。
――なんだ、あの2人、付き合ってたんじゃん
ワタシは気づかれないようにそっと、その場を離れた。
――付き合ってんなら教えてくれてもイイのに。水くさいな
ツムとコジマは幼なじみでいつも一緒だったし、お似合いのカップルだと思う。
言ってくれれば、ワタシだってちゃんと祝福してあげたのになぁ……。
結局――
――ワタシがコジマに付き合う必要、なかったんだ……
不意に、乾いた笑みがもれる。
――ワタシ、バカみたいじゃん……
なんだかすべてがバカらしく思えて――
何をやってもムダに思えて――
ワタシは……また逃げ出した。
ショッピングモールを出たところまでは覚えている。
だけど、バスを乗り継いで来たくらい遠いこの場所から、ワタシは歩いていた。
いったい、どこをどう歩いていたのか定かじゃない。
その間、何を考えていたのかもよくわからない。
冷たい北風が吹きつける寒空の下、ただ歩いていた。
フラフラ、とおぼつかない足取りで。それを見たヒトは、まるで幽鬼のように思ったかもしれない。
そのままどれくらい歩いたんだろう?
歩き疲れて足が痛み出したころ、ワタシは家へとたどり着いていた。
これが帰巣本能なのかもしれない。
だけど――
ワタシはこの時、風邪をひいてしまったのだった。




