冬の不協和音①
12月に入り、寒さが余計に身に染みるようになる。特に、からっ風と呼ばれるこの地域特有の山から吹き下ろしてくる強風は、寒さをより一層キビしいものへと変える。
かじかむ寒さの中、ワタシたちはさらなる成長のために日々稽古にはげんでいる――はずなのだけど……。
「小手ェェェェェッ‼︎」
地稽古で、ワタシはトモっちから一撃をもらう。
彼女はこの前の遠征合宿以降、吹っ切れたように稽古にはげんでいて、今はとても調子良さそうだ。
それに、調子が良いのはトモっちだけじゃない。
アッキーも、ツムも、メイも、みんな一皮剥けたかのようにメキメキと上達しているように感じる。
だけど、ワタシは――
「どうしたんだよ、ヒミカ? 最近、らしくないぜ?」
トモっちが声をかけて来る。
「自分から全然動いて来ないし、今のだっていつものオマエだったら、こんな簡単に決まらなかったハズだぜ?」
「そう……だね」
気のない返事をする。
ワタシはアレ以来――長野県への遠征合宿から戻って以来、絶不調だった。
動きは鈍いし、息切れはするし、そして何より集中できていない。
モヤモヤする――
胸の中で渦巻くモヤモヤが、ずっとワタシを包みこんでいて、離れるコトはなかった。
「ヒミカ」
その時、シーコがワタシに声をかける。
シーコの方から話しかけてくるなんて、めずらしい。
だけど彼女は名前を呼んだきり黙ってしまい、
「……なんでもない」
何か言いたげな感じがしたのだけど、結局何も言うコトなく、そのまま去って行った。
「ねえ、ミカ姐。帰りどっか寄ってかない?」
その日の練習が終わって更衣室で着替えている時、ツムがワタシに提案する。
ズキンッ!
チクリと、心に針が刺さったかのような痛みが走る。
「ミカ姐の行きたいトコ、どこでも付き合うよ」
最近のワタシの不調ぶりを見かねて、気をつかってくれているのだと思う。
だけど、今のワタシにはその優しさが逆にツラかった。
「ゴメン、ひとりで帰るよ」
「そっか……」
ワタシが誘いを断ると、ツムは悲しそうに目を伏せる。
ズキンッ!
まただ。また、心が痛む。
自分でも、こんな現状を不甲斐ないと思っている。何とかしなくちゃいけない、と思っている。
だけど、それでも今はツムの顔を直視するコトすらワタシは出来なかった……。
「ただいま……」
ひとりでまっすぐ帰宅したワタシは、玄関から入って店の方へ回ると、そこで商品の整理をしているお母さんに声をかける。
「おかえり、ヒミカちゃん。あ、そうだ!」
お母さんは笑顔で返すとワタシの方へかけ寄り、
「ねえ、もうじきヒミカちゃんのお誕生日でしょ? 今年は何が欲しいか決まった?」
そう聞いてくる。
そうだった――
12月8日はワタシの誕生日。両親は毎年ワタシに何が欲しいかリクエストを聞いてきて、それをプレゼントしてくれた。
だけど、今年は何も思い浮かばない。純粋に自分の誕生日をよろこべるような心境になれないから。
「……まだ決まんないや」
「そっか。じゃあ、決まったら教えてね?」
お母さんはそれだけ言うとまた仕事に戻っていく。
ワタシは部屋に入って部屋着に着替えると、そのままベッドに背中から倒れこんで横たわる。
天井を見上げながら、ため息をつく。
お母さんはさっきは何も言わなかったけど、もしかしたら最近のワタシの異変に気づいているのかもしれない。心配させているのかも、と思うとまた胸が痛み出す。
そういえば今日、シーコもワタシに何か言おうとして、結局何も言わなかった。
そして、<何も言わない>で思い浮かぶのは緒方先生だ。
動きが鈍り、集中力も散漫なワタシに対して、先生は何か檄を飛ばすコトもなければ怒るコトもなく、不気味なくらいに黙っていた。
いっそのこと、切り捨ててくれたなら楽になれるかもしれない。
ふと、そんなコトを考えてしまう。
――ダメだ! これじゃ、あのころと何も変わんないじゃん!
挫折感から絶望に打ちひしがれ、部屋の隅でただ膝を抱えていた、あのころと。
ワタシはムリヤリ体を起こして、大きくかぶりを振った。
このモヤモヤをどうにかして解消しなくちゃいけないんだけど、どうしたらイイのかわからない。わからないから、余計にイライラと焦りがつのっていく。
悪循環だ。
この不快な感情の原因はなんなのか、と考えたワタシの頭の中に真っ先に思い浮かんだのは、コジマだった。
夏祭りのころからだったかな?
コジマに会う度にワタシはドキドキして心臓が締めつけられるように苦しくなり、昔のように気軽に接するコトができなくなっていた。
そして、胸がモヤモヤするのも、ツムとコジマが<MAIN>でやり取りしてると知ってからだ。
――コジマと会って話をしてみようかな……
そう考えたけど、何て言って誘えばイイんだろ?
いきなり会って話っていうのも、なんか気まずい雰囲気になりそうだし。
――あ、そういえば
ワタシは、以前にコジマが出場した柔道の大会で彼と交わした約束――優勝したら1日付き合う――を思い出した。
結局優勝は出来なかったけど、<がんばったご褒美>という理由づけで、コジマを誘ってみるのもイイかもしれない。
だけど、ここであるひとつの問題が生じる。
普段オシャレにまったく気を使わないワタシは、適切な冬用の他所行きがないのだ。
ジャージとかトレーナーで男のコと外出は、さすがにない。
――そうだ!
困ったワタシは、ここでひとつの解決案を閃いたのだった。




