秋の小さな痛み
あっという間だった長野県への遠征合宿――
濃厚な時間を過ごすコトができたワタシたちは、群馬への帰路についた。
行きのバスではあんなに険悪な雰囲気だったハズなのに、タッつんと菊池が隣同士で談笑してたり、シーコがカッシーとヒメカミさんと一緒に話をしてたり、なんだか新鮮な光景が広がっていた。
たった1日で、ヒトはこうも変われるものなのか、と驚くばかりだ。
――ワタシは、何か変われたのかな?
あの後、ワタシは本気になった上泉さんと死力をつくしてぶつかり合った。さすがに面一辺倒じゃ敵わないと感じたワタシは、小手や胴も繰り出して、なんとか互角に打ち合うコトができた。まあ、さすがに2本目は取らせてもらえず、そのまま時間切れになったのだけど。
そして、上泉さんは最後に握手を交わした時にワタシに言った。
『今度は公式戦で戦おうね』、と。
――公式戦か……
上泉さんと公式戦で戦うには、まずワタシが高校生になるコトが大前提になる。
だけど、今のワタシにはアッキーやトモっちみたいに具体的な将来のビジョンがあるワケじゃないし、高校に上がっても剣道を続けるかなんて、まだ考えられる状況じゃなかった。
まずは目の前の目標――団体戦で優勝するコト、それだけに集中しよう。
ピロン
その時、スマホから<MAIN>の通知音が鳴る。それはワタシのスマホじゃなくて、隣に座るツムのものからだった。
だけどツムは今眠っていて、その音に気づいていなかった。
――疲れてるのかな?
そう思って何気なく視線を落とした、その時だった――
――ッ‼︎
ワタシは、たまたま目にしたツムのスマホ画面に釘づけになってしまう。
そこに表示されていたのは、<MAIN>のチャット画面。ツムは<MAIN>を起動したまま寝てしまっていたみたいで、そこには――
『お疲れ、ソウちゃん! わたしたち、今から帰るよー』
『ツム、お疲れ! 気をつけて帰れよ』
コジマとの会話がつづられていたのだった。
他人のプライバシーをのぞき見しゃダメだ、と頭ではわかっているのに、まるで呪いにかけられたみたいにワタシはそれから目をそらすコトが出来なかった。
ピロン
再び通知音が鳴ると、そこに新しいメッセージが表示される。
『あと、例の件 クモコシにはナイショな ゼッタイだぜ!』
そんな文章がつづられていた。
ズキンッ!
その瞬間、まるで小さな針に刺されたみたいに心がチクリと痛むのを感じた。
ワタシは束縛から逃れるようにかぶりを振り、視線を前に戻す。
そして、ひとつ深呼吸を入れてから考える。
2人はいつから<MAIN>で連絡を取り合うようになったんだろ?
夏休みにもんじゃ焼き屋に寄った帰り、ツムはワタシとコジマの<MAIN>アドレスの交換をすすめたけど、あの時ツムとコジマがアドレス交換したような素振りはなかったハズだ。
あの後にやり取りがあったのか、それとも実はそれ以前にすでに2人はアドレス交換を済ませていたのかもしれない。
そういえば――
夏祭りの時、ワタシたちが待ち合わせている場所にタイミングよくコジマたちがやって来た。そして、ツムはコジマたちを強引に引きこんでワタシたちと同行させた。
それに、柔道の大会に出場するコジマの応援のために東京に行った時も、広い館内の中でツムはスマホ片手に迷うコトなくコジマを見つけ出した。
もしかしたら、ツムとコジマはその時も事前に連絡を取り合っていたんじゃないの?
でも――
仮にそうだったとしても――ツムとコジマが<MAIN>で個人的なやり取りをしていたとしても、それがなんだというの?
それでワタシが困るコトなんて、何もないのに。
それなのに――
どうしてワタシの胸はモヤモヤしているの?
2人がやり取りしているコトを、ワタシに話してくれなかったから?
ワタシにナイショの会話を2人がしていたから?
だけど、誰と<MAIN>してるとかいちいち報告する必要なんて無いし、誰だってヒミツの会話くらいするものだし、それがフツーだ。
でも――
いくらそう言い聞かせても、ワタシの胸のモヤモヤは一向に晴れるコトはなかった。




