秋の遠征⑧
「よし、では次がラストだ!」
そして、ようやく迎えた再戦の時――
「よろしくお願いします、上泉さん!」
待ちに待った最高の舞台に胸を踊らせながら、ワタシはその対戦相手にあいさつをする。
「こちらこそ、また戦えてうれしいよ、クモコシちゃん!」
笑顔で返す上泉さん。
そしてワタシたちは竹刀を交える。
「始めッ‼︎」
開始の声がかかると同時にワタシは、
「面ェェェェェんッ‼︎」
昨日と同じように飛びこんで面打ちを繰り出すけれど、同時に上泉さんが放った面打ちに弾かれて、鍔迫り合いになる。
「やっぱり面にこだわるんだね。でも、それじゃまだ届かないよ〜?」
「そうですよね」
それはワタシ自身も理解していた。
だけど、それでもワタシは間合いを取った後にもう一度面を打つ。
結果はさっきと同じ。
だけど、昨日とは明らかに違う点があった。
――やっぱり、面以外を警戒している
昨日は面を打つ度に、必ず返し技を的確に打たれていたけど、今日の上泉さんは少しだけ反応に迷いがあるように感じられた。
昨日、あれだけ小手打ちと胴打ちを身につけようとしていたのだから、必ずどこかでそれを打ってくると思っているのだと思う。
相手の気を分散させる――
図らずもワタシは、上泉さんを相手にそれをやっているのだった。
そういえば、ヒメカミさんとの練習試合でもそうだった。
ワタシがひたすら面を打ち続けたコトによって、ヒメカミさんは<面以外の何かが来る>と疑っていた。
あの時ワタシが繰り出した渾身の面打ちは、あと一歩届かなかった。
だけど、今はどうだろう?
ワタシはジワジワと間合いをつめる。
相手に悟られないくらい、ゆっくりと、確実に。
上泉さんは迷っているのか、動くコトはなかった。
ワタシは――
面を狙って大きく踏み込んだ。そして、上泉さんもそれに応じて竹刀を上げ、ワタシの竹刀を外へといなす。
その刹那、ワタシは面を打つために上げた竹刀を下げて、上泉さんの小手を見る。
上泉さんは、面に応じて振り上げた竹刀と視線を、その動きに合わせるように下げた。
そして――
ワタシはその瞬間を狙い、竹刀を正面に回して、
「面ェェェェェんッ‼︎」
空いた面を目がけて渾身の一撃を繰り出した。
パァァァァァンッ‼︎
たしかな感触と共に、乾いた音が響く。
その瞬間、館内がまるで時が止まったかのような静寂に包まれる。
ワタシの竹刀が――
ワタシの一撃が――
たしかに上泉さんの面を捉えたのだった。
「……やったァァァァァッ‼︎」
ワタシは、まだ稽古の最中だというコトも忘れ、よろこびを爆発させた。
そして、館内がどよめきだす。
「いやぁ、参ったなぁ。完全に手玉に取られちゃったよ」
上泉さんが、さして気にしてなさそうなサバサバとした口調で言う。
でも、呼吸は荒いし、汗もたくさんかいている。
そういえば上泉さんは、ワタシと対戦する前にシーコたちの全力を受け止めて来たんだよね。
さっきの面打ちが成功したのも、体力の消耗があったからなのかもしれない。
「クモコシちゃんはさ、なんで剣道をはじめたの?」
不意に、上泉さんがたずねてくる。
「ワタシは……どうしても勝ちたいと思ったコがいて。そのコが剣道をやっていたから、その背中を追いかけていました」
「そっか。それで、剣道をやってみて今はどう? 何か変わった?」
「最初は、ただ勝つコトばかりにこだわっていて、うまくいかなくてずっと腐っていた時期がありました。だけど今は……スゴくドキドキしています」
「ドキドキ?」
上泉さんは首をかしげる。
「はい。試合の時の緊張感。スゴく強いヒトと戦っている時の高揚感。そんなドキドキがたまらなくスキです!」
「そっか……」
ワタシの言葉に、小さくつぶやいた上泉さんは、
「よかった。クモコシちゃんはすっかり剣道にハマったんだね。私と同じだ」
ニコリと笑ってそう言う。
「同じ……ですか?」
「うん。私も、剣道の緊張感がスキ。強い人と戦っている時の高揚感がたまらなくスキ。そんな瞬間が楽しくて楽しくて。剣道を楽しんでるんだ、って心から思えるんだ」
「楽しい……」
ワタシは、それを聞いてはじめて気づいたような気がする。ワタシが剣道に対して感じているこのドキドキは、楽しいという感情だったんだ。
野球をやってたあのころと同じ、ワタシは剣道を楽しいと思えるようになってたんだ。
そんなワタシを見て満足げにうなずいた上泉さんは、
「さ、続きをやるよ。今度は全力でいくからね」
いつになくやる気をみなぎらせながら竹刀を構える。
どうやらワタシは、<凶戦士>を本気にさせてしまったみたいだ。




