秋の遠征①
11月中旬――
例年よりも遅れている紅葉は、今まさにそのシーズンを迎えていた。
このバスの車内からも、その色鮮やかな朱に染まった山々の光景が目に映る。それはとてもキレイで、見る者の心を癒してくれる……そのはずなんだけど。
残念ながら、バスの車内は最悪の雰囲気だった。
なぜなら、ワタシたち二中剣道部員と、ヒメカミさんたち四中剣道部員。そして、カッシーとタッつんたち三中剣道部員。それらがこの狭い空間の中に一堂に会しているのだから……。
なぜ、こういう状況になっているのか?
それは、先週はじめに突然顧問の緒方先生の口から飛び出した、遠征合宿の話から始まった。
緒方先生は、長野県で行われる1泊2日の遠征合宿にワタシたち二中も参加する、と告げた。
それはやっぱり、先の新人戦での結果を踏まえてさらなる強化が必要と考えてのコトなんだと思う。
一応先生は、この遠征合宿は自由参加である、と言っていた。それでも結局、ワタシたちは全員参加を希望した。
そしてこの合宿には中学生だけじゃなくて高校生も、全国各地から参加するらしく、そのほとんどが全国大会レベルの強豪校とのことだ。そういう強いヒトから何かを学び取れれば、きっと技術の向上につながるはず。
だからワタシはやる気に満ちていたし、このような貴重な機会を設けてくれた先生には感謝している。
だけど……――
「……チッ! な〜んで二中のヤツらまでいるんかねぇ?」
一番後ろの席で足組をして両手を頭の後ろに置きながら、三中の赤毛ヤンキー――タッつんがふてくされた口調で言う。
「ワタシだって、三中も来てるなんて聞いてなかったよ」
前を向いたまま、ワタシはまるでひとりごとのように言い返す。
「静かにしていただけませんか? 二中も三中も、私たち四中に帯同しているという立場をキチンとわきまえていただきたいものですね」
今度は、一番前に座っている四中のイヤミ女――菊池が顔を後ろに向けて、相変わらずの高圧的な口調で言う。
「チッ!」
「フンッ!」
ワタシたちはそれぞれ不満をあらわにする。
だけど、菊池の言うコトはごもっともだ。
そもそも今回の遠征合宿は四中が招待されていたものであり、それを四中の顧問のありがたいご厚意により、二中と三中も一緒に参加させてもらうコトが実現したのだ。
四中の顧問――かなりの老齢でもう防具をつけるコトもなく、とても穏やかでまるでお地蔵様のような仏様のような印象だけど、どうやらものすごく顔の広いヒトらしく、今回もこの先生の口ぞえがあったから参加できたのだ。
だから当然、ワタシたちは四中に――特に四中の顧問の先生には頭が上がらない。
「でもよぉ、バスは2台あったんだろ? それなのになんでこのメンツを同じバスにしたのかねぇ?
タッつんが再びゴネだす。
それに関しては、ワタシも同意。
このバスの中にはワタシたち二中メンバーの他には、三中からカッシーとタッつんをふくめた5人と、四中からヒメカミさんとその取り巻きの菊池と瀧川をふくめた10人。そして各校の顧問が乗り合わせている。
これから試合場で顔を合わせる機会が増えるから、親睦を深めて欲しいという顧問の思惑があるのだろうけど、この組み合わせはハッキリ言って水と油――ううん、塩素系と酸性みたいな危険な化学反応を起こしかねない。
「ったく、空気がワルいったらありゃしねぇ」
「でしたら、今すぐ降りられたらどうです? きっと車内の空気もよくなりますよ」
「はぁ? そしたらウチはどうやって現場まで行きゃイイんだよ?」
「走って追いかけてくればよろしいのでは? いい運動になりますよ」
「んだと、テメェ! ウチをナメてんのか⁉︎」
「本当に単純ですね、アナタみたいな単細胞は」
いよいよヒートアップしたタッつんと菊池が立ち上がり、にらみ合う。一触即発のムードだ。
「それくらいにしておけ、タッつん」
「菊池、およしなさい。お行儀が悪くてよ」
カッシーとヒメカミさんが、それぞれの部員をいさめる。
「……チッ! わーたよ」
「お見苦しいところをお見せして申し訳ございませんでした、お嬢さま」
2人は着席して、とりあえず危機は回避。だけど、こんな雰囲気のままずっとこの閉鎖空間の中にいなければならないワタシたちは、ちょっとした拷問でも受けているような気分だった。
「ホント、カンベンして欲しいよね、あの2人」
ワタシは後ろの席に振り返り、トモっちに同意を求める。
「ん? ……ああ」
するとトモっちは、虚ろな表情のまま気のない返事をする。
どうしたんだろ?
こんな時、真っ先に面白がって口論に参戦しそうなくらい好戦的なトモっちが、今まで見たコトがないくらい静かだ。
その隣にも目をやると、アッキーも無言のままただ窓の外に目を向けていた。
アッキーも、いつもなら呆れたように文句言いながらため息をついている場面なのに、今日はぜんぜん違う。
期待した反応が得られなかったワタシが体を戻すと、
「センパイたち、今日はずっとあんな感じなんだ」
隣に座るツムが、小声でワタシに伝える。
「そうなんだ……」
いつも小言を言い合っているけど、結局一緒にいる2人。
そんな彼女たちの変化に疑問を抱きながらも、とりあえずワタシはイヤホンを装着して音楽を聴く。
バスは自然豊かな志賀草津高原ルートを走行し、途中渋峠で休憩をとる。そして再び走り出し、伊勢崎を出発してから約5時間、バスはようやく志賀高原にあるホテルへと到着した。
ようやく解放されたワタシたちだけど、結局泊まる場所も同じなんだから、合宿期間中ほとんど一緒に行動しなければならないコトに気づく。
とりあえず部屋に着いて荷物を下ろし、ホッとひと息。さすがに部屋は学校ごとに分けられていたので安心。
ワタシたち二中メンバーは、6人とも同じ大部屋。窓も大きくて、一面真っ赤に燃え上がっているかのような山々の色づいた景色が目の前に広がっている。
「ほら、スゴいキレイな景色だよ、トモっち! アッキー!」
振り返って呼びかけるけれど、
「ああ……」
「そうですね……」
2人とも心ここにあらず、といった感じでこちらを向くコトもなく、黙々と荷物の整理をしている。
――ホント、どうしちゃったんだろ?
バスの中でもそうだったけど、いつも憎まれ口をたたきながらも、なんだかんだ一緒にやってきていた2人がこんな風に無口になるのははじめてだ。
ケンカでもしてるのかと思ったけど、バスの席は隣同士だったし、今も隣同士だ。たぶん、お互いのコトがイヤになったとかキライになったとかではないのだと思う。
と、その時部屋のドアがノックされて緒方先生が現れると、
「これからの予定だが、13時から下の食堂で昼食を摂り、14時までに体育館に移動すること。なお、体育館の更衣室は他校の者が利用するので、お前たちは部屋で防具をつけてから行くように」
要件だけ告げると、先生はさっさと部屋を後にする。
――まずはお昼ごはんか……
トモっちとアッキーのコトも気になるけど、何はともあれ腹ごしらえだ。




