秋の東京①
秋の新人戦からひと月近く経った――
空気もだんだんと肌寒くなってきて、少しずつ紅葉も進んでいく、まさに秋といった時期。
そして今日は日曜日。天気も秋晴れの快晴。
ワタシはツムと一緒に朝早くから電車に乗りこみ、東京に向かっていた。
新伊勢崎駅から東武伊勢崎線に乗って電車を乗り継ぐコト約2時間半――
ワタシたちは目的地――綾瀬駅に降り立った。
渋谷でも原宿でもない、東京観光にしてはめずらしいチョイスと思われるかもしれない。
それもそう。今日は観光で来たワケじゃないんだから。
「うわ、でっか……」
ワタシは目的の建物――東京武道館を目の前にして、イナカモノ丸出しの反応をしてしまう。
「スゴいよねー。国際大会とかにも使われるらしいよ、ここ」
「マジで? ふえぇ……」
ツムの解説を聞いて、ますます呆けた顔になってしまう。
今日ワタシたちがここまでやって来た理由。それは、ここで行われる柔道の大きな大会にコジマが出場するコトになって、それを応援するためにかけつけたのだ。
秋の新人戦では、二中柔道部は団体戦では惜しくも優勝を逃したけど、個人戦でコジマが優勝。続く県大会でも優勝したため、全国の猛者たちが集うこの大会に招待されたらしい。
ワタシも小学生の時に野球の大会で他県まで行くコトも多かったけど、その度にツムとコジマはわざわざ応援に来てくれた。だから今度はワタシが応援する番だ。
まあ、ワタシなんかの応援をコジマがよろこぶかどうかはわからないんだけどね。
――こんな大きなところで、コジマは……
会場周辺は関係者らしき人たちが集い、マスコミ関係者らしき人たちの姿もちらほら見受けられる。
ワタシはコジマのコトを尊敬する反面、うらやましいとか、嫉妬にも似た感情を抱いてしまっているのも事実だった。
晴れ舞台――それはかつてワタシが立っていた場所。輝きを失った舞台俳優みたいに、今のワタシはそれを羨望の眼差しで見上げるだけ。
いまだ過去の栄光に囚われて、友人の晴れ舞台すら素直に祝福できないワタシは、なんて狭量なんだろう。
――ダメだダメだ!
ワタシはそんなネガティブな思考を振り払うように、大きくかぶりを振った。今は応援に集中するんだ。
「どうしたの、ミカ姐?」
「なんでもないよ。さ、入ろっか?」
そしてワタシたちは館内に足を踏み入れる。
ロビーはたくさんのヒトであふれかえっていて、談笑する声だけでも騒然としていた。
「こん中からコジマを探すのは、さすがにムリっぽいね」
ワタシはウンザリとした口調で言う。
コジマには<MAIN>で、「行けたら行く」程度の返信しかしてない。だから、会場でワタシたちを見かけて驚く顔を見てみたいと思ってたんだけどなぁ。
大事な試合当日に私用で連絡取るのも気が引けるし、これはギャラリー席からこっそり応援するしかないかな?
「んとねぇ……たぶん、こっち」
だけど、ツムはスマホの画面を見ながらそうつぶやくと、人ごみをかき分けて奥へと進んでいく。
「え? ちょっと待って」
ワタシははぐれないように、あわててその後を追う。
――会場の案内図でも見てるのかな?
大会公式サイトみたいなものがあるなら、大会参加者の居場所とかも割り出せるかもしれない。
さすが、ツムは頭が回る。
まるで彼女が貸してくれた小説――<乙女ちっく戦国策>に登場する天才美少女軍師のガクキみたいだ。
そして、柔道着姿の学生たちがたくさん控えている会場内の一画で、ワタシたちは奇跡的にコジマの姿を発見した。
「やっほー、ソウちゃん。応援に来たよー!」
「ん? おお、お前らマジで来てくれたのかよ!」
上を見上げて立っていたコジマにツムが声をかけると、彼はすぐに振り返り、笑顔でワタシたちを迎え入れる。
「そうだぞ。わざわざ東京までこうして来てやったんだから、あっさり負けたら許さないよ」
「おーおー、来て早々プレッシャーかけてくれんじゃん、クモコシ」
ワタシの軽口に笑って答えるコジマ。思ってた以上にリラックスしてるみたいで安心だ。
まあ、ワタシたちの登場に思ったより驚かなかったのには、ちょっと不満だけどね。
近くには柔道部顧問の先生もいて、ワタシたちをよろこんで迎えてくれた。
「ソウちゃん、こんなスゴいところで試合するんだねぇ。緊張しない?」
「そりゃするさ。相手も全国レベルのつえぇヤツばっかだしな」
ぐるりと会場内を瞥見して、コジマが少し真剣な眼差しになって答える。
――コジマのヤツ、すっかり戦う男の顔になってるんだなぁ……
昔はむしろかわいらしい顔立ちをしていたから、ホントに激変したなぁ、と感じる。
「そうだ、ミカ姐。ソウちゃんがもっとがんばれるように、何かご褒美的なモノあげようよ!」
「え? ご褒美?」
突然のツムの提案に、ワタシは首をかしげる。
「うん。ソウちゃんがスゴくやる気出しそうなヤツ。そうだなぁ……もし優勝したら、ミカ姐がデートしてしてくれるとか?」
「ふぅん、デートねぇ……って、なんでよッッッ‼︎」
ツムのムチャ振りにワタシは断固抗議する。
「そもそもなんでワタシなの? ツムの方がカワイイんだからそっちの方がよろこぶでしょうよ。ねえ、コジマ?」
「え? あ、うん。……いや、それは……」
ワタシがたずねると、コジマはとたんに煮え切らない態度で戸惑っていた。
「そんなことないよー。ゼッタイにミカ姐の方がよろこぶよ。ね、ソウちゃん?」
「え? あ、うん。まあ……」
ツムは口調こそ柔らかいのに、その眼光は有無を言わせない力強さがこもっていて、コジマもしどろもどろになってしまう。
なんか、押しつけられてる気がしないでもないんだけど……。
ツムはコジマと一緒にいるの、あまり気乗りしないのかな?
「……まあ、どっか遊びに行くくらいなら別にイイけど」
もしそうだとしたらツムに押しつけるのもかわいそうだし、ここはワタシが一肌脱ぐコトにしよう。
「だって、ソウちゃん。これでやる気マシマシだね!」
「お、おう」
「でも、あくまでも<優勝したら>、だからね!」
ワタシはそこを強調する。
ていうか、コジマはワタシなんかと遊んで楽しいのかな?
「わかってるって。でも、これで無様な試合はできなくなったな」
そう言って、コジマの目は再び戦う男の闘志をまとう。
その瞬間、どくん、とワタシの心臓が大きく高鳴る。
夏祭りで手を引かれた時も――
一緒に下校した時も――
最近、コジマを見ているとなぜかこういうコトが頻繁に起こる。
なんでだろ……?
「じゃあ、ソウちゃん。わたしたちは上で応援してるから、がんばってねー!」
「おう。サンキューな!」
軽く手を振って、コジマは試合会場の方にじっと目を向ける。
「行こ、ミカ姐」
「……うん」
ワタシは胸のざわめきを抱えたまま、ツムと一緒に2階席へと上がっていった。




