秋の初陣④
開始線のところでお互い竹刀を構え、蹲踞をする。
袴を履いてるから脚は見えないんだけど、タッつんのは蹲踞というより、ただのヤンキー座りにしか見えなかった。
――コイツ、ホントにナメてるな……
とても武道にはげむ者の態度とは思えないその姿に、ワタシはあるひとつの決意をする。
それは――
「始めッ‼︎」
主審の掛け声が発せられて、立ち上がるのと同時に、
「面ェェェェェンッ‼︎」
バシィィィィィッ‼︎
開幕早々繰り出したワタシの面打ちは、ガニ股ですぐには立ち上がるコトができないタッつんの面をしっかりと捉えていた。
3人の審判が一斉に白旗を上げる。
まずはワタシが一本先取だ。
剣道では開始直後からこうした攻防が繰り広げられるコトもある。要は、常に備えてなければいけない、ってコト。
で、それを怠っていたタッつんは呆然としたまま、いまだ立ち上がるコトができないでいた。
「おい、タッつん!」
その時、三中の次鋒としてすでに面をつけたカッシーが、場外から叫ぶ。
だけど、結局名前を呼んだだけで、後はジッと睨むようにタッつんに鋭い眼光を向けている。
「……チッ! わーてるよ。ちょっと油断しただけだっつーの」
ようやく立ち上がると、タッつんは自分に喝を入れるように竹刀で何度も面の金具部分を打ちつける。
そして、再び開始線のところで竹刀を交える。
今度は立った状態からのスタートなので、タッつんも出遅れるコトはないだろう。
「面あり。2本目ッ‼︎」
主審が試合再開を告げたその直後――
「どおりゃァァァァァッ‼︎」
今度はタッつんが面を打ちこんでくる。
――あれ?
ワタシは左側によけてそれをかわしながら、ひとつの違和感を感じていた。
「せやアァァァァァッ‼︎」
こちらに体を向き直して、もう一度面を狙って竹刀を振り上げるタッつん。
――こんなに……遅いの?
その動きがハッキリと見て取れるコトに気づいたワタシは、それもヒラリと横に回ってかわす。
「テんメェ……ちょこまか逃げてんじゃねェェェェェッ‼︎」
ついには恨み言を叫びながらやみくもに面を打ってくるタッつん。
ワタシはそれをかわしながら彼女の背後に回ると、
――メイやツムにちょっかい出したコト、後悔させてやる!
大きく竹刀を振りかぶり、
「面ェェェェェンッ‼︎」
ワタシの姿が見えなくなってあわてているタッつんがこちらに振り返る瞬間、彼女の面を目がけてそれを目一杯打ちこんだ。
バキャアァァァァァッ‼︎
「ッ⁉︎」
その瞬間だった――
相手がちょうどこちらを向いた瞬間にその面を完全に捉えた竹刀は、普段聞くコトのないような破壊音を発してグシャリとへし折れ、
「……」
タッつんは糸の切れたマリオネットのように、ガクリとその場に膝から崩れ落ち、その場に倒れてしまった。
しん、と静まり返る会場。
「……や、止めッ‼︎」
ハッと我に返った主審が両手の旗を真上に上げて、試合の中断を告げる。
「タッつん!」
三中のメンバーと審判団、役員などがその場にかけ寄って、倒れているタッつんを抱き起こす。
「脳震盪かもしれない。医務室へ連れて行こう」
そしてタッつんは役員の人たちが持って来た担架に乗せられ、試合場を後にした。
――やりすぎちゃった……
ここまで大事になってしまい、ワタシは心の中で反省する。
そして審判団が定位置に戻ると、
「勝負あり!」
白旗を掲げてそう告げる。
さっきの一撃は一本とはみなされなかったみたい。まあ、ワタシ自身ビックリしちゃって残心どころじゃなかったし、仕方ないよね。
結局、相手が途中負傷退場したコトによって試合は強制終了。一本取ってワタシの勝ちで終わった。
ワタシは相手のいない中、完全にひしゃげて使い物にならなくなった竹刀を帯刀し、試合場を後にした。
総括をいただきに緒方先生の元に行ったワタシは、『感情にまかせたような不要な攻撃』とおしかりを受けた……。
それで試合の方なんだけど、タッつんの負傷退場に動揺したのかどうかわからないけど、次鋒のカッシーから副将までみんな引き分け。そして、大将戦はシーコが鮮やかな2本勝ちを収めて、初戦を2-0の勝利で飾るコトができたのだった。




