秋の初陣③
カッシー ――膳須羽
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「それでは、発表する」
ワタシたちの最初の対戦相手は、因縁の三中――ヤンキー軍団だ。
その試合のスタメン……じゃなかった、メンバー編成が緒方先生から発表される。
「先鋒……雲越緋美華‼︎」
「ッ! ハイッ‼︎」
いきなり名前を呼ばれてちょっとビックリ。
この前の練習試合の時は大将だったけど、今度はリードオフマン……じゃなかった、切込隊長的ポジションの先鋒だ。
そして次々と発表され、
次鋒――ツム
中堅――トモっち
副将――アッキー
大将――シーコ
結局、この前の練習試合のオーダーからワタシとシーコのポジションを入れ替えた編成となっていた。
「ミカ姐……」
先鋒なので先に面をつけているワタシの後ろで、ツムがポツリと呼びかける。
「ツム、どうしたの?」
「さっき三中の人たちと話してたの、聞いてたよ。なんであんな約束しちゃったの?」
咎めるような、悲しんでいるような口調で彼女はたずねる。
「だってムカつくじゃん。このままじゃアイツら、どっかで会う度にちょっかい出してくると思う。そんなのウザいじゃん? だからハッキリと白黒つけときたいの」
「だからって……ミカ姐が犠牲になることないのに……」
そう言って目を伏せるツム。
「あのさ」
面をつけ終えたワタシは振り返り、
「犠牲って、負けが決まってるみたいに言わないでよ、縁起でもない。それともツムは信じられない? ワタシを。ワタシたちを」
苦笑しながらたずねる。
ツムはふるふるとかぶりを振った。
「勝てる。勝とうよ、みんなで。そのために今までがんばってきたんだから」
ワタシはそう言ってツムの頭をなでる。
こうしてツムをはげますの、ひさしぶりだな。最近はずっとはげまされてばっかだったから。
「……そうだね、ミカ姐。勝たなきゃだよね!」
笑顔を取り戻すツム。
「あ、このコトは他のみんなにはナイショだよ? ヘンに気合い入れちゃいそうなヤツだっているし。先生とかアッキーが知ったら怒られると思うし」
「あはは、たしかに」
ワタシたちは笑い合う。
「ミカ姐、後ろ向いて。帯つけるよ」
「うん、お願いね」
ワタシは背中を向けて座る。
「……ミカ姐はやっぱりミカ姐だなぁ」
ワタシの背中にある胴ヒモに白帯を結びながら、ツムがそんな言葉をもらす。
「え? 何それ?」
「強くて、優しくて、頼りになって、ピンチの時には必ず助けてくれる……わたしのあこがれの人」
「え〜? なんか照れるなぁ」
ちょっとこそばゆいけど、そう言ってくれるのは素直にうれしかった。
「でもワタシ、まだまだ弱いよ。地稽古でもツムからまだ一本も取れたコトないし」
「ううん、ミカ姐は強いし、もっともっと強くなる……。ハイ、OKだよ!」
帯を結び終えたツムが、ワタシの背中をポンとたたく。
「ありがとう。次はワタシが結ぶね」
そして今度はワタシがツムの背中に白帯を結ぶ。
「……ミカ姐。わたし、うれしいんだ」
背中を向けながらツムがポツリとつぶやく。
「何が?」
「ミカ姐がまた昔みたいにやる気を取り戻して、こうして一緒に剣道できることが、スゴくうれしい」
「ツム……」
それはワタシも同じ。
去年、やる気をなくしてただ腐っていただけのワタシ。すべてがムダに思えて、やる前からあきらめていた不甲斐ないこんなワタシを、ツムは見捨てなかった。
今年の春に入学して来たツムは、ムリヤリではあったけどワタシをまた剣道部に引っ張って来てくれた。
ツムがいなかったら、またこうして剣道をやるコトはなかっただろうし、今も腐ったまま部屋で膝を抱える日々を送っていたと思う。
「ミカ姐……大好きだよ」
「ワタシも……大好きだよ、ツム」
お互いの思いをたしかめ合うように、ワタシたちはそれを言葉にして伝え合う。
『これより、第三コートにて女子の部Aチーム、三中と二中の試合を行います』
その時、会場内にアナウンスが流れる。
「さあ、いざ出陣だ! ゼッタイに勝つよ!」
自分を鼓舞する意味もこめてそう言うと、ワタシはツムの背中をポンとたたいて立ち上がる。
「ミカ姐に土下座させるワケにはいかないもんね!」
ツムも気合いをこめてそう言うと立ち上がり、笑顔を見せる。
そしてワタシたちは、試合場へと歩み出した。
――ホント、因縁めいてるなぁ……
試合場で初戦の相手である三中チームと向かい合い、それぞれの対戦相手と相見えているワケなんだけど……
「ヘッヘッヘ、こりゃあおもしろくなってきたぜ」
ワタシの正面で楽しそうに笑っているのは、<竜宮>の文字が書かれた垂ネームを下げているタッつんだった。
今は面をつけているからヤンキー感は鳴りをひそめてるけど、その口調は相変わらずガラがワルかった。
「直接対決でもオマエをぶちのめして、ウチらが完全勝利してやるぜ」
などと軽口をたたくタッつんに、
「審判の前だぞ、タッつん。少しは行儀よくしとけ」
次鋒としてその隣に立っているカッシーにたしなめられ、タッつんは、へいへい、などと言って肩をすくめる。
そして今きづいたんだけど、カッシーの垂ネームには<膳>のひと文字が書かれている。たしかトイレで『カシワ』って名乗ってたけど、<膳>で『カシワ』なんて、フツー読めないよ。
そして、事前に情報通のアッキーから聞いた話だと、三中は部長のカッシーと赤毛のタッつんがポイントゲッター――主戦力らしい。
つまり、三中は最初の方に主力をぶつけてきたワケで、その戦法はこの前の四中との練習試合でワタシたちがやってた『先行逃げ切り作戦』と同じ、というコトだ。
「つまり、ワタシから確実に勝ちが見こめると……」
おもしろいじゃない。
そんな目論み、ワタシがつぶしてやる!
ハートに火がついたワタシは、大きな歩幅で試合場内へと足を踏み入れた。




