真夏の決意①
トモっち ――私服・ゴスロリ
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いろいろあった花火大会も終わって、それから2週間が経った――
お盆休みが終わって地獄の得練が再開したワケだけど、ワタシは1日も休むコトなくそれに参加していた。
これまでは、ただなんとなくといった感じで続けていたけど、あの日から――シーコと優勝を目指すと決めた時から、ワタシは自分の意志でここに来ている。
シーコ以外のメンバーは、どんな心境の変化だ、と驚いているみたいだけど、ワタシ自身も驚いている。
もしかしたら、シーコにまんまと乗せられているだけなのかも知れない。だけど、それでもイイと思った。
もう一度だけがんばってみよう――
そう決めたのだから。
「大澤! ただ闇雲に打てばいいというとものではないぞ。よく考えるのだ‼︎」
「ハイッッッ‼︎」
「黒須! お前は慎重になりすぎだ。自分から動いて相手の隙を引き出してみろ‼︎」
「ハイッ‼︎」
地稽古の最中、顧問の緒方先生の檄にも熱がこもる。それに応える部員たちも真剣そのものだ。
そしてワタシは今、シーコと対峙していた。
地稽古は1対1で打ち合う試合形式に近い練習で、お互いの力量差を量るにはうってつけの稽古だ。
面をつけた狭い視界越しに映るシーコ。背筋をピンと伸ばし、中段に竹刀を構えたその姿には、つけ入るスキなんてどこにも見当たらなかった。
この夏休み期間だけでも、もう何度もこうして竹刀を交えているけど、ワタシは1回たりとも彼女に有効打を与えられたコトはないし、ただただ打ち返される一方だ。
力の差は歴然だけど、ひとつでもイイから何かを掴まなくちゃ。
ワタシは反撃されるのを覚悟で、面を打ちこむべく間合いをつめる。
そして、面を――
「小手ェェェェェッ‼︎」
打とうと竹刀を上げた瞬間、それを待っていたとばかりにシーコが繰り出した一撃は、素早く的確にワタシの右手首を捉えた。完璧な出小手――相手の動きに応じた小手打ち――だった。
「雲越! そんな見え見えの攻撃では当たらんぞ。もっと工夫するのだ‼︎」
すかさず先生の檄が飛ぶ。
「ハイッ‼︎」
と返事はしてものの、何をどう工夫すればイイのかぜんぜんわからなかった。何しろ相手はまるでこちらの動きがわかっているかのように応じ技を繰り出してくる。かといってこちらが相手の出をうかがっていると、目にも止まらぬ瞬撃を打ち込まれてしまう。
どう考えても八方塞がりだった。
――どうすれば……
あれこれと迷っているその時だった――
急にワタシの右膝がガクリと脱力して、前方にバランスを崩してしまう。
「ッ⁉︎」
その時、偶然の産物によって生じた動きにシーコが反応したように感じたワタシの体は、無意識のうちに動いて、そして――
「「面ーーーんッッッ‼︎」」
ワタシとシーコは同時に面打ちを放っていた。
「……え?」
ワタシは思わず惚けてしまう。
ワタシの面の頭頂部にはたしかにシーコから打ちこまれた感触があったけど、同時にワタシの竹刀もシーコの面をしっかりと捉えていたのだった。
あとは、どちらが先だったか、それだけの差。
「惜しかったな、雲越。わずかだか中原の方が早かった」
先生のジャッジが下る。
「マジかよ……。シーコがまともに打ちこまれたの、はじめてじゃね?」
「ミカ姐……スゴい」
周囲からも驚きの声が上がる。そして、ワタシ自身も驚きをかくせなかった。
一撃を与えたというたしかな感触が、この手にまだ残っている。その手は震えている。手だけじゃない、体全体が今まで感じたコトのないくらいの高揚感に包まれて、心臓の鼓動も早まっている。
「お前たち、まだ時間になっておらぬぞ! 集中しろ、集中‼︎」
「「は、ハイッ‼︎」」
止まっていた時が再び動き出したように、みんなそれぞれの相手と対峙する。
ワタシも残り時間、シーコに全力で向かっていった。だけど、それ以降はまた一方的に打ちこまれるばかりでまったく歯が立たなかった。
「さっきは完全にやられたよ」
その後の小休憩時に、シーコがワタシに言う。
「アレはホントに無意識で……。体のバランス崩したのも偶然だったし」
「なるほど……。自然な動きだったからつい釣られて動いてしまったよ」
シーコはかすかに笑ってそう言うと、別の場所に向かう。
――アレは……なんだったんだろう?
さっきの一撃――まぐれとはいえ、あのシーコに有効打を与えられたあの一連の動きは、もう一度同じコトをやれと言われても出来ないと思う。
それだけ無意識で無我夢中だったから。
「みな、ここまでよくついて来てくれた。以前とは見違えるほど成長したと思うぞ」
その日の稽古が終わり先生と正座で向かい合うと、締めの挨拶で先生からそんなお褒めの言葉が向けられる。
「明日で夏休みが終了する訳だが、実は練習試合を予定している」
続けて向けられたその言葉に、周囲が少しざわつく。
「それで先生、相手はどこなのですか?」
アッキーがたずねると先生は小さくうなずいて、
「四中だ」
言葉少なに答えた。
「四中ッ⁉︎」
とたんに驚きの声が湧き上がる。
――四中と……
ワタシの頭の中で、もんじゃ焼き屋での出来事がフラッシュバックする。
『上等じゃん! アンタたち四中みたいだけど、今度試合で当たったら吠えヅラかかせてやるよ‼︎』
『ほう、貴女がたが、ですか。それは楽しみですね』
『どちらが吠えヅラをかくことになるのか、対戦を楽しみにしてますよ』
非公式の練習試合とはいえ、こんなに早く対戦の機会がやって来るとは思わなかった。
「今回、無理を言って先方にお願いしたところ快諾いただき、あまつさえあちらから来てくださる運びとなった。みな、思う存分力を出しつくすがよいぞ」
「そっか、四中か……。たしかに腕試しするにはゼッコウの相手だぜ!」
先生の言葉に触発されたのか、トモっちが右こぶしと左手のひらをぶつけ合い、気合いを示す。
そしてワタシはというと、不安と高揚の入り交じったなんとも複雑な心境だった。
その試合のメンバーに選ばれるかどうかもまだわからないのに。




