真夏の休息⑤
メイ 飯田芽衣
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そしてワタシたちは人だかりの中を再び歩き出す。
通りはもうこれでもか、ってくらいの人で埋めつくされていてなかなか進めない。
「あ……」
スニーカーのヒモがほどけているのに気づいたワタシは、いったん脇によけてからそれを結び直す。
「みんな、もう見えないや……」
気づくとみんなの姿は見えなくなっていた。完全に遅れてしまってみんなとはぐれてしまったワタシは、とぼとぼと重い足取りで歩き出す。
――この距離のへだたりは、ワタシとシーコの距離だ
不意にそんな考えが頭に浮かんだ。
どんなに追いかけても、相手はそれ以上の速さで前へ進んでしまう。一向に埋まるコトのない、それどころか開いてゆくばかりの差。
――なんかしんどいな……
さっきまでお祭りを楽しんでいたはずのワタシの心は、はどんよりとした憂鬱にとらわれていく。
「クモコシ!」
その時だった――
前方からコジマが呼びかける声がすると、彼がこちらへ手を伸ばしているのが見える。
「ッ‼︎」
そして大きな手が、ワタシの手を掴んだ。
固くて、ゴツゴツしてて。その手はワタシを力強く引っ張った。
「大丈夫か? 急にいなくなってたから心配したぞ」
「う、うん……。靴ヒモがほどけちゃって……」
伏し目がちに言うと、コジマは、言ってくれればよかったのに、と言って軽く笑う。
――あれ? どうしちゃったんだろ……
ほんの数年前までは、ワタシがコジマやツムの手を引っ張って歩いていたはずなのに。
その手のぬくもりはもう知っているはずなのに。
この時感じたぬくもりは、過去のものとは違う驚きと戸惑いをもたらした。
どくん
その瞬間、ワタシの心臓がはね上がったみたいに大きな脈を打って、鼓動が一気に早まっていくのを感じる。
「人多いからな。油断してるとすぐにはぐれちゃうよな」
「……うん」
そしてコジマは、そのままワタシの手を引いて歩き出す。
以前のワタシがそうしていたように。
「あ、ミカ姐! よかったぁ、心配したんだよぉ」
人ごみから少し離れたところで待っていたみんなのところに追いつくと、ツムがかけ寄って来てワタシにしがみつく。
「うん……ゴメン」
ワタシはその甘えん坊を愛おしく思いながら小さくうなずいた。
「あ、あの、コジマ……。もう大丈夫だから……」
「え? あ、ああ……」
ワタシが言うと、コジマはつないでいた手をあわてて離した。
――コジマの手、もう大人の手だった……
まだそこにかすかに残るぬくもり。早まった心臓の鼓動はまだ治まりそうもなかった。
「すまないが、私は少し別行動をとらせてもらうよ」
ちょうど夜店を抜けたあたりで、不意にシーコが相変わらずの涼しげな声でみんなに告げる。
「何かあるのですか?」
「ああ。少しごあいさつをしていきたいのだ」
アッキーの問いに、シーコは花火大会の役員のヒトたちが集まっているテントの方を示して言う。
「シーコんち、祭りの協賛者だもんな」
「ああ。そういう訳だからすまない。花火が上がるころには合流する」
「おう、土手んトコで待ってるから。がんばって来いよ」
トモっちが手を振って見送る。
その後ろ姿を目で追うと、シーコは物怖じすることもなく大人たちのいる方へ向かい、礼儀正しくあいさつを交わす。
「んじゃあ、アタシらは先に行ってようぜ」
トモっちが言うと、みんな一斉に移動を開始する。
ワタシは、まだシーコの方に目を向けたままだ。
「ミカ姐、どうしたの?」
ツムが呼びかける。
ワタシは、なぜかシーコのことが気になって仕方がなかった。
同い年のはずなのに、どうしてあのコはあんなにも大人びているんだろ?
家のしきたりとかルールとかあるんだろうけど、そういうの、ツラくはないのかな?
ワタシはシーコのことを知りたいと思った。
「ゴメン。ワタシ、シーコと一緒に行くよ。だから先に行ってて」
ワタシはシーコの方に目を向けたままそう告げる。
「……うん、わかった」
小さくうなづくと、ツムもみんなと一緒に花火が見える土手の方へと向かう。
ひとりそこに残ったワタシは、その場からずっとシーコを見ていた。
何を話しているのかわからない。
でも、相手はかなり年の離れた男性ばかりだし、中にはお年寄りもいる。それなのに、シーコたちは楽しそうに談笑していた。
――シーコも大人なんだなぁ……
さっきもコジマから大人の雰囲気を感じた。
周りがどんどん大人になっていく中で、ワタシだけが取り残されているような疎外感。
だけど、何をすればいいのかわからないまま焦燥感だけが募ってモヤモヤが増していく。
どれくらいの時間その場に立っていたのかわからないけど、役員のヒトたちとのあいさつを終えたシーコがこちらの方を振り返る。
すぐに目が合った。
「……ずっと見てたのかい?」
シーコはそう言って苦笑すると、ワタシのところへやって来る。
「えっと……何て言うかその、敵情視察?」
「敵?」
「あ、ううん、ゴメン、今の忘れてッ‼︎」
ヘンなことを口走ってしまったワタシは、あわててそれをなかったコトにする。
「キミはヘンなヤツだね」
クスッと笑うシーコ。その小さな仕草でさえどこか上品さを感じさせる。
「少し、話をしないかい?」
不意にシーコがそんなコトを言う。
基本的に自分のコトを話したがらない彼女がそんなコトを言って来るのは意外だった。
ワタシはコクリとうなずいた。




