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第76話 ヒーローとヴィランのリバーシゲーム 64マス

<ララ>


中身がラルゴくんなフォルルンは男として生きるか女として生きるか二択を迫られていると聞いた。今夜、女子寮で眠りについたフォルルンは、明朝、ラルゴくんとして男子寮で目が覚めるらしい。


つまり、明日、うちの部屋で目が覚めるのは、フォルテちゃんなフォルテちゃん。なんだかややこしいな……。


それと、テヌートくん、軍隊のキャンプから明日の朝、男子寮に帰るとかで、戻ったことを知らないまま、ふたりに遭遇する可能性あるな。まあ、本人たちに会ったら、たぶん、直接、説明受けるでしょう。


ラルゴくんなフォルルン、絶対、女の子の人生の方が向いてると思うけどな。私が保証する。


女体化した男性は、一度、妊娠すると元の体に戻れないという。きっと、彼女は女の子として生きることを決意したとしたら、おそらく妊活をすることになるだろう。


異世界の東アジアでは、未成年の子作りは、さほど推奨されるものではなく、子育ても自己責任であることが多い。だが、こちらの世界はそれをやって一度、滅びかけているため、子を産み育てるのは、社会全体の責任という認識が広がっている。


エッジガード社が中心とした地域社会が、あるいは、エッジホープ社を中心とした行政機関がそれぞれ責任を持って、次の世代を育てていく。


彼らはただの悪の組織ではない。悪行が大人社会で知れ渡っているのにも関わらずそれでも一定の支持を集めているのにはそれなりの理由があるのだ。


悪行三昧を働いた組織を、ただ、コミックにおける悪役、ヴィランのように扱い断罪することで溜飲を下すのは、一時的なストレス解消にはなるかもしれないが、真摯な歴史の向かい合い方ではない。


歴史を勧善懲悪の物語のように消費しては、悲劇から正しい教訓を得られないのだ。


歴史を善と悪の二元論で捉えたとき、ただ、加害者と被害者となるマイノリティの種類がただすげ替わっただけの同じ構造のジェノサイドを正当性や正義の名の下に繰り返したり、また、ヴィランとして扱われた人物や組織が、カルトによってダークヒーローのゾンビのような存在として時を超え精神的支柱として蘇ったりする。


世界は、グレーでできている。悪名高い独裁者ですらもだ。グレーをグレーとして見ることはとても疲れることだが、歴史の教科書を白や黒に染めると、正義と悪の名の元に、残酷なオセロゲームを人々ははじめるだろう。


まあ、そんなわけで、子育て本をフォルルンにプレゼントしようと企んで書店に来たわけだ。


新書のコーナーを巡ると、派手なタイトルの本が陳列されている。


『エリート魔法使いになるために捨てなきゃいけない10の心得』


『魔法省で出世するために20代のうちにやらなきゃいけないこと』


数字が踊っている。出版社に限らずビジネスマン全般の心得として、数字を操ればプレゼンテーション相手の気を引けるというのは、優れたテクニックとして一般化しているらしい。


わざわざ魔法なんて使わなくても、数字にはまるで魔法が宿っているようだ。


だけど、法に触れたり、それに準ずる罪ではないものの、本質的に他人の不安を煽ることで消費を促す、恐怖症法と同根であることは留意しないといけない。


他人が商売目的で用意しただけの数字に人生を操られてはいけない。


とは言うものの、私もこれから大人になっていくにつれ、選挙に出るとなると、当選を目指すために扇情的な数字を操っていく大人になるのだろう。


目当ての本をレジに持っていく。柔らかいイラストで赤ちゃんの絵が描かれている。


フォルルンお母さんになるのかなあ。不思議な感じかも。

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