第75話 交差親権 データ多重度 N:N
<ラルゴ>
倉塚りこ様 絵
温泉宿の和室、女子が10人布団を並べていた。夜更けすぎ、僕は一人で悶々として眠れないでいた。
テヌートに告られた。僕は男だ。彼を不幸にしたくない。気持ちに応えたい。でも、僕はっ! 僕はっ!
「夜中に光らないでくれる!眠れないから!」
ララにびしっと突っ込まれる。
「心が乙女になると光る体質いやああああああ!」
そんなこんなで、楽しい旅行は終わり、元の世界に帰ってきたわけだけど、そのまま、エリーゼさんに自宅に呼び出されたわけだった。
広くて片付けが行き届いたリビングルームには、フォルテもアキラさん、そして、僕の本当の両親もいた。
「パパ、ママ……」
「ラルゴ、女の子の体になっても元気そうで何よりだ」
何やら厳かな雰囲気。両方の家族を集めてなんの話だろうか。
「ラルゴ。お前が女の子のような性格だってこと、今まで見て見ぬふりをしてきた。でも、こうして、フォルテちゃんと入れ替わって、生活に馴染んでいる様子を見ると、この方が良かったかもしれないと思ってね。交差親権の手続きを取ろうかと考えているんだ」
「交差親権?」
役所のパンフレットが差し出されるのでまじまじと眺める。
体が入れ替わる呪い、それは、かつては、禁呪として封印されてきたが、近年、呪いにかかる人が急増し、元の体に戻らない選択をする人も増えてきた。
入れ替わってはいけないと禁じるのは容易いが、現実の法運用はただ禁止するだけではうまくいかない。
保守政党曰く、少子化解消には血族の絆が不可欠で、行き過ぎた個人主義は許されない。
そこで、入れ替わったもの同士の家族として民法上、親族でも姻族でもない魂族関係になる法手続きが整備されたという。
その一つが交差親権で、これを経ると僕もフォルテも親が4人いる状態になるらしい。
金持ちの家だとかだと、遺産相続が難しくなりそうな制度だなあ。
「ふむふむなるほど」
「まあ、入れ替わってこのまま生きるも良し、元に戻るも良し。君たちの人生だ。自分たちで決めるといい」
「私は……」
フォルテが口火を切った。
「元の体に戻ろうと思う」
先日、電話で言われたのと同じことをみんなの前で言う。
そうだよね。普通、元の体に戻りたいよね。フォルテの人生を奪ってはいけない。と、思ったところにさらにフォルテは続ける。
「一日だけ、元の体に戻りたいんだ。そうすれば、フォルテとしての人生、ラルゴとしての人生、どっちがしっくりくるか分かると思うんだ。私、シャープっていう彼女ができたけど、彼女と共に生きることが本心から望んだことなのか、フォルテの体から見える風景で確かめたい」
思いもよらぬ提案だった。でも、言われてみれば確かに、フォルテの目から見える風景だけで、今後の人生に関わる重大な決断をするわけにはいかない。
「僕も一日だけ戻って判断したい」
僕がそう言うとアキラさんは立ち上がった。
「わかった。お前たちの言うとおり結論を急いではいけない。元に戻ってみてそれから決めなさい」
その場に居る全員の合意が取れその場は解散となった。




