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第70話 いじめのメカニズム 信頼関係 60%

<ララ>


時は過ぎ、平穏な日常が戻ってきた。逮捕されることを覚悟したけど、見えざる力が働き、不問になっていた。


私たちの味方になってくれる大人たちが、きっと水面下にたくさん居たに違いない。感謝してもしきれないくらいだ。


エリーゼさんやアキラさんは解放され、それぞれの生活に戻っている。シャープくんも検査入院はしたけど、1週間もすれば学校に復帰することになった。


「おっはよー! 1週間ぶり!」


元気な声が響き渡る。英雄の帰還だ。


「シャープきも」


「ねー」


聞いてはいけない会話を耳にしてしまった。そっか。そうすぐにはシャープくんもクラスに受け入れられないよね。


カルマポイントをめぐる彼の活躍については、魔法警察から、口止めされている。学校と世界を救った英雄だと言いたいのに言えないのが歯痒い。


だから、言い返してやりたくても、言葉を選んでいるうちに何も言えなくなってしまう。これから、大人社会に旅立つと、このような難しいシチュエーションでもうまく立ち回れるようにならないといけないのに!


頭でっかちで理屈屋な自分の能力不足に悔しい思いをする。


本質的に互いの心が通わせておらず、コミュニケーションに解決困難な課題と不安を抱えている大小の集団が、無理やり価値観の共通項を探しはじめたとき、擬似的な結束を固める手段として、いじめは起きる。一度、いじめが起きると、さらに疑心暗鬼に陥り、不安は再生産され、いじめはエスカレートする。


いや、いじめだけじゃない。カルトによる集団殺人や民族差別に基づく虐殺、歴史の教科書に出てくる魔女狩りなんかも、加害者グループが本質的に自分たち自身の絆を内心信じていないのだ。そう。彼らは絆に対する不安を解消する一時的なカンフル剤として、時に暴力さえ振るう。


彼らが本当に恐れているのは、自分たちの絆が偽物であることを白日の元に晒されることだ。偽りの絆を続ける手段であるいじめはやめられない。


ある種の少年漫画で、敵対していた人間が、仲間になり更なる強敵と戦うことは熱い展開だと見なされているが、光と闇は表裏一体、紙一重である。


シャープくんに対するいじめが始まった日、何が起きたか振り返ってみる。


あの日、プリンセス検査があった。値踏みしてくださいと言わんばかりの心の性別の値札を付けられたクラスメイトたちは互いに擬似暗鬼に陥る。いじめが発生する土壌としては十分だ。外れ値を与えられたシャープくんは、不安を解消するための格好のターゲットとなった。


本質的な解決手段は、クラスメイト同士の信頼関係の回復である。そのためには、地道に様々な積み重ねをしないといけないだろう。シャープくんがクラスで受け入れられるのは、おそらくその最後の仕上げの作業だ。結果を急いではいけない。


既に良い兆しはある。生徒会会長のミド先輩がこの問題の解決のために水面下で動いてくれていること。そして、カルマポイントが健全化されたことにより学校の運営方針が、ヒューマニズムに基づくものに少しずつ変わりつつあることだ。


「シャープくん、結構、話せばわかる子だよ。そんなこと言っちゃダメ」


その言葉にはっとさせられる。発信者は、ストリデンテだった。あんなにシャープくんを辛辣に罵っていたのに……。彼女も何か心変わりするきっかけがあったのだろうか。私たちの知らないところで和解したのかもしれない。


「えー。よりによって、あんたがそれを言うの?」


「私たち、仲直りして友達になったんだ。あいつの悪口言うの許さないから」


陰口を言っていた2人は、顔を見合わすと、それぞれの自席に戻って行った。私、物事を難しく考えすぎていたのかもしれない。


プリンセス検査。やはり、これからたくさん、座学だけではわからない大人社会について勉強して経験を積んで、戦わないといけない数字かもしれない。

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