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第67話 さよなら フルハウスの確率 約0.14%

<シャープ>


小学6年の頃、姉ちゃんとポーカーをしていた。


「じゃーん。スリーカード!」


「へへーん。俺はフルハウスだ!」


「やったな! シャープったら強いんだから」


「ま、コツをつかめばこんなもんよ」


姉ちゃんは生暖かい視線を浮かべこちらを見つける。


「シャープって頭いいわよね」


「全然そんなことねぇよ。学校じゃ、みんなにバカだって言われてるんだぜ。テストの点数も全然だしさっ!」


「答案みたわよ。確かに、暗記の努力を必要とする問題は全然点数が取れてないわね。でも、難しい問題は正解している。三角形や台形、円なんかを組み合わせた複雑な図形の面積を求める問題なんかは途中の式も含めて全部。こういうのって、中学受験ガチ勢が、必死で徹夜しながらパターンを覚えながら解いていくタイプの問題のはずなのに、エンジョイ勢のあんたがセンスで解いてるの、普通に頭いいんだよ。自称、地頭のいい人って大抵そうでもないことが多いけど、あんたは違う。努力をしないのが本当にもったいない」


普段はバカにしてくる姉ちゃんの意外な言葉だったから記憶に残っている。


俺は、なんて返事しただろう。記憶の糸を辿る。


「俺は与太郎なんだよ」


「与太郎?」


「ジパング村に行ったとき、落語って芸に夢中になってさ。落語には熊さんだの八ちゃんだのと定番のキャラが出てくるんだけど、与太郎もその一人。呑気で能天気で何をやっても失敗ばかり。そんな与太郎をみんなが笑って和んでくれる。そんな役回りのキャラが俺には似合ってるのさ」


「あんたはキャラとかじゃないよ。ジパング村に入り浸ってるなら、三年寝太郎っていう山口県の昔話知ってるでしょ。寝てばかりいて、周囲から馬鹿にされた男が、実は昼寝しながら、ひそかに村を救う大計画を練ってたって話。あんたは、いつかみんながあっと驚く大きなことを成し遂げてくれる。そんな大物になるんだよ」


「寝太郎も与太郎と同じくらい名前カッコ悪いっ。フォローになってないよ。姉ちゃん。とほほ。まあ、どっちにしろ、俺ってそんな柄じゃないさ。これからもバカな顔してのほほんと生きていければそれでいいよ」


「あんたは、思考が深いんだよ。普通の人には潜れない海の底にある珊瑚礁や深海魚を見つけることができる。だけど、深く潜りすぎて、普通の人が見つけられるような浅瀬の砂浜の綺麗な貝殻を見つけられないから、バカにされる。あんたが視野の広さを身につけたら鬼に金棒だよ。もったいないよ! あんたの頭の良さを数字で測れないなんて! 数字なんてなければいいのに!」


姉ちゃん。あんたをずーっと苦しめてきたカルマポイントとやらはどうやらなんとか俺たちの手で滅ぼすことができたようだ。


星詠みの記録器の周囲には水仙が咲いていた。季節の花ではないが、こんな辺鄙な空間であっても、温度調整が行われていて、咲くように、誰かが手入れしているに違いない。


水仙の花言葉は「才能」「うぬぼれ」。姉ちゃんが好きな花だった。


その瞬間、涙が溢れ出て止まらなかった。やっと、姉ちゃんが死んだことを俺は心の中で受け入れられたのだ。さよなら。リリック姉ちゃん。仇はおそらく討てた。

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