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第66話 資本主義の歴史 産業革命16世紀

<ララ>


経済は信頼の元、発展する。


その考え方そのものはおそらく異世界欧州、資本主義がまだ明確に確立していなかった異世界中世イタリアのヴェネチアにおいて、すでに萌芽的に存在していたと考えられる。当時、複式簿記が発明され、商取引における信用の管理と記録が重要視されていた。


やがて近世に入り、イギリスで産業革命が起きると、数多くの学者たちがこの「信頼による経済発展」という考えを理論的に裏付け、体系化していくようになった。


今日ではこの考え方は、株式投資や金融など投資家や政府、銀行マンらエリートが大きなお金が動かすときに、しばし持ち出される。


だが、おそらく、これは、本来は、もっと素朴で温かみのある思想なのだ。企業と国家、地域社会と家庭、男と女、若者と老人、そして、人間と魔族、お互いの信頼関係の基盤の上に、社会は栄えるのだ。


世界中でかつて行われていた物々交換経済から、ただの数字に過ぎない貨幣経済を信用するに至るまでの間に、先人たちの涙ぐましい努力があったことは想像に難くない。


だが、巨大な何かが小さな何かの信頼を裏切り続けたり、目に見える数字を追いかけるあまり、信頼関係を損なう行いが横行する社会の仕組みになると、最初は成長していくように見えた社会も、やがて、衰退の一途をたどる。


最先端技術の姿だけを見た現代人が大昔の人間の叡智を軽んじはじめると、このような先人が残した重要な教訓を見落としてしまう。


未来予測魔法を使い3年後のドーパミンの総量を計算したカルマポイントもおそらくは、長い間、社会指標として、このまま君臨し続けると、人類に暗い影を落とすはずだ。


1年後の株主総会のために、重要かもしれないが絶対ではない虚飾された業務指標だけを追いかけ、百年の計を怠ったサラリーマン社長率いる大企業が、数十年単位では経営破綻へと向かうのと同じように。


農業においても、種を蒔かず、肥料をやらず、収穫ばかりすればやがて、土地は荒れ果て、収穫できなくなるということは、広く知られているが、同じことが、経済、政治、あるいは魔法においても、同じように起きるのだ。


新しく生まれ変わったカルマポイントは、ドーパミン、セロトニン、オキトキシンを掛け合わせて三乗根にした値、すなわち幾何平均の総量だ。幸せと安心と刺激、3本柱がすべてバランスよくそろわないと、数字を稼げない。これなら、少なくとも、今よりかは、人間を幸せにする数値指標に化けるはずだ。


ただ、3年後しか予測できないのは、今のマクロ魔法ライブラリの限界だ。本当は100年後を予測できるようになってほしい。未来の魔法技術者に期待を寄せるしかない。


そもそも、本当は、こんな数字自体なくなったらいいのに。


数字は、あくまで、人間社会の一側面を切り取って、説明するための道具だったはずだ。


理論が主で数式モデルはあくまで従だ。


データ主体のアプローチも、近年存在するが、その場合も、統計学に基づいたデータによる科学的証明を繰り返さないといけない。


必ずしもデータに基づかない、偉大な先人によって、あくまで説明を簡単にする目的で単純化されたにすぎない数式モデルを聖書として、微積分で彩られた数学パズルを解くのに明け暮れた結果、経済学や経営学が人間の営みを表すものではなくなり、社会全体の衰退につながるという錯誤には、ノーベル経済学賞を取るような賢人も陥りがちだ。


だけど、一度、発展した文明を白紙に戻すべきかと言えばそれは違う。原始社会の復活を志したとある独裁者は、全国民の1/4を殺害した。あくまで、未来の科学は、過去に積み重ねてきた叡智の上に存在しなければならないのだ。


社会科学の進化の迷路が袋小路に行き当たることは人類の歴史において珍しいことではない。一度、過ちに気付けば、少しだけ分岐元まで退却し、一進一退しながら、全体としては進歩しなくてはならない。


シャープくんが目を覚ます。


「よかった……。このまま目を覚さないものかと」


「わ、わ、抱きつくなっ! 恥ずかしいだろ」


「にひひっ」


フォルルンが抱きつくと、シャープくんは照れる。百合したいというのが彼の願望らしいけど、それは満たされたのだろうか。


「お前たちが葬り去ってくれたのか。カルマポイントを。意識が朦朧としながらも、うっすらと見ていたぞ」


「うん。君のおかげだよ。君がハッキングソング演奏してくれたおかげで」


「姉ちゃん。あの世で見てくれてるかな」


そのとき、私たちは、はじめて、シャープくんが、なぜ女体化したのか、エッジシャドウ社の手先になったのかを知ったのだった。

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