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第64話 Dの正体 数式 3乗根

<ララ>


フォルルンは、Dの正体は、ドミナントだと推測した。不安の和音の総計がカルマポイントの正体。だが、それでは辻褄が合わないのだ。


登録されたマクロ魔法はすべて、魔法省のデータベースに登録され、一般公開される。


その中に、ドミナントの計測魔法など存在しないのだ。他にもDesireつまり欲望の可能性も考えたが、それも登録されていない。


Dの正体がわからない。それさえわかれば!


「ちくしょー。ドーパミンが脳内にドバドバ出るぜ。ガーネットプリンスってやつはパワーは出るが、体に優しくないぜ」


「はっ……」


誰? 今の発言誰? 横のモニタを覗き込むと監視カメラ越しにシャープくんが映し出されていた。どうやらこの部屋までもうすぐ着くらしい。


いや、それはともかく、ドーパミンだ。ドーパミンは、人間のやる気を司るなくてはならない脳内ホルモンだ。


そして、脳内物質計量魔法ならば、自然界に存在する。これが答えだとすると。


「安心ホルモンセロトニン、愛情ホルモンオキトキシン。この2つを計算式に組み込めば!」


ドーパミンが出れば出るほどわくわくした世の中になる。それは、間違いではない。だが、ドーパミンだけに社会が振り回されると、心に余白がなくなり、互いに傷つけあうようになってしまってもおかしな話ではない。ならば、他の大事なホルモンとのバランスを取れるようにすればひょっとして。


一つ懸念材料はある。中間データベースには、ドーパミンのデータは確かにあるようだ。だが、他のホルモンのデータがあるとは限らない。


いや、むしろ、一般的な魔法エンジニアなら処理速度を確保するために、余計なデータを中間計算しないはずだ。もし、計算されているとしたら、どういったケースが考えられるだろうか。


このカルマポイントの計算式が、将来的に他ホルモンを使った拡張を予定していたとしたら。カルマポイントを生み出した名も無き技術者によって、既に、他のホルモンの計算準備が整えられていたとしたら。


このマクロ魔法が、決して悪意の産物などではなく、未来への希望と人々の幸せを願って生み出されたものだとしたら。


全ては希望的観測でしかなかった。だけど、信じたかった。こんな美しいプログラムを書ける人が悪い人であって欲しくないと。


修正前: SUM(TMP.D)

修正後: SUM(POWER(TMP.D*TMP.O*TMP.S,1.0/3))


3つのホルモン、D、O、Sを織り込んだスクリプトをさっと書き換える。単体テスト魔法のトリガーを手早く見つけ、最低限の修正を施し、詠唱する。


他のホルモンが計算準備済みならば、エラーなく無事実行できるはずだ。開発者に技術者の良心の欠片があることを祈るしかない。


「テスト通過! やった! 本当にオキトキシンとセロトニンがあった! ダミーデータじゃなければいいけど!」


思わず歓喜の声をあげてしまう。


「どういうこと?」


「これから、最後の3つの合唱が終わると、カルマポイントは幸せの指標に生まれ変わる」


2人は無言でうなづいた。


「そこまでだ!」


無人空間に野太い声が響く。このうさちゃんには似つかわしくない声には聞き覚えがあった。

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