第60話 タイムアウトブレーカー 小田原征伐 約5ヶ月
<グルーヴ>
くそっ! 万事休すか。
まあいい。落ち着くんだ。体制を立て直して再戦を挑めばいいだけのことだ。
ガーネットプリンスを誕生させる技術は我が手中にある。
シャープの覚醒で培った大技術を応用して、適当な男を女体化させ、戦闘兵器として目覚めさせればいい。量産型の兵器として、世界中の戦場で活躍してくれることだろう。そうだ。悪は滅びぬのだ。
とにかく、今は逃げの一手だ。逃げるが勝ちだ。持久戦になればなるほど我に勝利はある。
戦争でもそうだ。物量で勝る陣営は、ひたすら長引かせることを考えればいい。弱者は資源が尽きて自滅するのは歴史が証明している。
異世界戦国武将、豊臣秀吉が鳥取城や小田原城を攻めたときのように、後からじわじわと追い詰めればいい。兵糧攻めで飢えをもたらし、包囲戦で希望を削り尽くすのだ。お前たちは無力化されるまで、ただもがき続けるしかない。
マジカルプライベートネットワーク。あそこなら、誰にも侵入できない。ゆっくりと休息を取ることができるだろう。
落ち着いて男声魔法を唱え、ネットワークへの接続セッションを起動する。指紋認証と声紋認証を潜り抜ける。セキュリティホールが開く。急いで穴の中に入る。
よし! 入り終わった。これで、すぐに穴は閉じる。誰にも入ってこれないはずだ。
異変に気づいたのは、ぼんやりしはじめて5秒も経った頃だろうか。
あれ? おかしい。穴が開きっぱなしだ。 なぜだ! なぜ閉じないのだ!
「行くぞ! みんな!」
その号令をかけたテヌートが真っ先に穴に入り込む。続いて、ラルゴが続く。
まずい。まずすぎる。このネットワークの先には、星詠みの記録機がある。エッジシャドウ社の最高機密だ。
「なぜだぁっ!? なぜセキュリティホールが閉じない!」
ぽろろん。
耳を澄ますとシャープが、クラシックギターを取り出し、曲を演奏していた。
この曲はっ! まさか!
「この日のために! この日、この瞬間がくるために、俺は、必死で人知れず、この曲をずっと練習してきた! タイムアウトブレーカーを!」
聞いたことがある、セッションが閉じるのを防ぐことのできるハッキングソングがあるということを。そして、それは、高度な演奏技術が求められる。高校生レベルの曲じゃないはずだ。よほど、執念を燃やして、長期間にわたってシャープのやつは、この曲を練習してきたに違いない。この一瞬のために。なんて執念だ!
なぜだ! なぜ、シャープが正気に戻れる! スーパーガーネットプリンスになった以上、簡単に狂気の世界から脱出できないはずだ。
ララの方を見る。ハープで悪夢を追い払う曲を演奏している。こんな初歩的な曲で、悪夢を追い払えるわけがない。そんなことが。
む? 小さな伴奏が聞こえる。パーカッションの音が。まさか、この音は!
「フォルテ! 貴様裏切ったな!」




