表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

60/78

第59話 僕の可愛い大革命 乙女の真実 95%

<ラルゴ>


「僕には婚約者がいる。だけど、本当に愛している人は別にいるんだ。愛する彼女の本当の人格は男の子。だけど、そんなアンバランスな彼女のことが好きで好きでたまらない。彼女の髪を嗅ぎたい。彼女のパンツを見たい。どうすればこの欲望を処理できますか。……だってよ。くっくっく。エロすぎだろ。パンツだぜパンツ。クールな仮面を被った貴公子の正体がこれだ。面目丸潰れだな。ざまあねえぜ。どうだ? コバルトプリンセスさんよ。今の気分は」


「ち、違うんだ。俺は、君のこと!お願いだから嫌わないでくれ」


テヌートが必死で懇願する。この慌てぶりはどうやら、本当の内容らしい。


「ふははは!ばらしてやったぞ!これで乙女パワーアップ変身解除だな。この男に幻滅しただろう。ふっふっふつ」


彼のこと完璧超人だと思っていた。そんな彼が僕に情けなく泣きついている。普通、幻滅するはずだ。


なのに、何故だろう。胸騒ぎが止まらない。


僕の中で、大革命が起きようとしていた。彼のことが好きな理由がカッコいいから可愛いに変貌しつつあったのだ。


クールな彼が見せた油ぎった欲望。繊細そうに見えたのに実は単純だった男の顔。一瞬、驚いたが自分がそれを受け止められるかと考えたとき、彼にとって僕がそうなるくらいに可愛い女の子でいられることに自尊心がくすぐられた。


そして、男の欲望を受け止める自分自身が健気で可愛い花のそうな存在であるかのように心躍り、舞い上がってしまった。


ぼ、僕、そんな可憐な存在じゃないのに。でも、幸せが胸に集まる。いや。嬉しいけど少し消えたい。


「僕は可愛いんだぞ。えっへん」と「そんな大層な人間じゃないのに……」の間で心が揺れる。


言葉や態度の裏の裏の裏にある心の迷宮に僕の真実はあった。


指先が震え、心臓の鼓動が止まらない。


「テ、テヌートくん……」


「そんな目で見ないでくれ」


そういう自分は濡れた子犬のような瞳をこちらに向ける。そんな目で見ないで。


ぼ、ぼく、わたし。僕が私になっちゃう。身も心も女だって自覚しちゃう。あなただけのフォルテになっちゃう。魂が体とシンクロしちゃう。僕は男なのに女として人生歩みたくなっちゃう。君のそばでたたずんでいたくなっちゃう。


あなたの日陰で苦労したくなっちゃう。普通の名も無きお嫁さん、お母さんになりたくなっちゃう。


男だった頃から、心の奥にひた隠しにしていた私だけの真実が、明るみに出ちゃう。君のまぶしい笑顔に導かれ、男社会の仮面の裏で、いつも泣いていた本当の自分がガラスの靴を心の形にぴったり合わせてひらひらのドレスを着て日陰から日向に出てきちゃう。 ソプラノボイスで乙女のときめきを歌い始めちゃう。


見ないで。恥ずかしい私を見ないで。


彼に下着は見られていないけど、下着以上に見られたくない乙女心の深層が明るみに出そう。どうしよう。


僕は男なのに。


「見ちゃいやあああああああ!やだああああああ!」


全身を光が包み込む。身体から制服がはじけ飛び、そして、中世のお姫様の衣装のような青いドレスが、表れ全身を包み込む。


「こ、これは、女体化男子が心の奥底から女に染まってしまったときに変身するスーパーコバルトプリンセス。ばかな!」


ご丁寧にグルーヴくんが解説してくれる。しなくていいって!


やだー。彼の顔がまっすぐ見られない。母性本能くすぐられて変身しただなんて説明できないよ。


かっこいいに根差した恋は冷めることはあるが、かわいいに根差した恋は沼から簡単に抜け出せそうにない。


どうしよう。こんなのずるい。男に戻りたくなくなっちゃうじゃない。


わーん。僕は変態だー。男なのに、乙女心の沼に沈んじゃうなんて。


だけど、これは僕の真実だった。体が入れ替わる前からの本当の僕の心の在り方。僕は、男だった頃から、根っこが乙女だったのだ。


「と、と、とにかく、戦おう!」


どれだけどもるの! 動揺しすぎ! もう、可愛すぎでしょ。


「テヌートくん、後でおしおきだからねっ!」


「ごめんなさいいい」


ちょっとだけ、尻に弾いてしまった。胸がきゅんって締め付けられる。こんな関係性もちょっと楽しいかななんて。わあああん。こんなこと考える僕は恥ずかしい人間です。お母さんごめんなさい。


とにかく、演奏だ。深く情緒をこめて、リードに息を吹き込む。ピアノもそれに合わせて鳴らされると、今までにない完成度の音とリズムと抑揚。魂のレベルで僕たちの演奏は一致していた。


慌てて、シャープくんたちも演奏を始める。


サックスから放たれる蔦とギターから放たれる雷撃の戦い。一進一退をくりかしつつも、少しずつ追い詰めていく。


「危ない!」


フォルテがそう叫ぶも遅かった。退きすぎて足を踏み外し転倒。


サックスが奏でるイバラの蔦が、シャープの喉元に。勝負あったか。


元より、命を取る気はないが、取りかねないくらい喉元に深く突きつける。そこまでやらないと、反撃される。


「ぐぐ……うぐ」


シャープに圧をかけることには成功しているようだ。


次の瞬間、シャープの目力が弱まり、優しい目つきになった。何かをこちらに訴えかけている。


なに? 何を伝えようとしてるの?


そして、グルーヴの方に視線を投げかけると、腰を抜かして倒れていた。そして、何やら詠唱している。逃げるための魔法か?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界サックス!元男子の美少女ジャズ奏者の揺れる乙女心 魔法と音楽の男女入れ替わりファンタジー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ