第56話 親父は何もわかっちゃいない アウェイ度 80%
<グルーヴ>
親父のやつは何もわかっちゃいない。この俺様に、シャドウ4世は継がせないと言いやがった。
どうしてだ!? シャドウ2世は爺ちゃんだし、初代シャドウは曾祖父ちゃんだ! なのになぜ、この俺に継がせない!
歴史を見ても、封建的な独裁政権は、血筋は長男に継がせると相場が決まっている。なぜなら、さもなくば遺産争いで血みどろの争いになり、家も支配領地も衰退するからだ。
そういえば、ジパング村に行った時にも耳にした。
長子相続が成立していなかった室町時代には戦乱が絶えず、ついに応仁の乱というおぞましい戦まで引き起こした。幕府内の争いを口実に、全国の有力者が隣地に侵入し、多くの血を流したと。だが、江戸時代になると、長子相続のおかげで、権力は世襲により制度化され戦乱が収まったのだと。
エッジシャドウ社の盤石な地盤を固めるためには、俺様が継がなければならないのだ。
だから、実力を見せつけるためにこうして、生徒会選挙にも出たんだ。だが、親父のやつ、俺を推薦をするのに反対しやがった。
結局は、社内の有力者に圧力かけて推薦は、ゲットしたものの、ララのやつめ、魔族のくせして、生意気にも拍手喝采をゲットしやがって。気に食わない。
こうなりゃ力づくだ。マイクに口を寄せ一言。
「俺はグルーヴ! この後、演説! カミングスーン!」
するとエッジガード社の黒子が口を挟む。
「まずいですよ! カルマポイントを下げる行動です!」
「やかましい! ポイントポイントばかり言いやがって! てめぇらは数字に操られた人形か?」
親父のやつが俺を後継にしなかった理由の一つが、カルマポイントだとか。なめた数値指標には、いい加減、うんざりだ。
一気に会場に乗り込む。
「どけどけ! グルーヴ様の出番だ!」
会場がざわつく。そして、しばらくした後、ブーイングが会場に鳴り響く。
くそっ。ここでも俺様はアウェイだというのか。家でもアウェイ。学校でもアウェイ。
むかつくから、ここらで、いっちょ大暴れしてやるぜ。
黒子がちょうど近くに来たので命令する。
「おい! 結界を張れ!」
「何のためですか!」
「対立候補を物理的に葬る! 生命活動を停止させる! そうすれば、俺様の繰り上げ当選だ!」
「それは、退学になりますよぉ!」
「やかましい! 結界の中での密室殺人だ。誰がやったかなんて、すっとぼければいい! エッジガード社なら、隠蔽工作も簡単なことだろ?」
「し、しかし。わ、わかりました」
黒子は手早く、虚空からテルミンを取り出し、音を奏でると、緑色の鱗のようなバリアが俺たちを包み込む。
そうだ。これでいい。こうすれば、誰にも侵入できない。
じっくりと目の前に怯えた目でこちらを見ている汚れた魔族の女を葬ればいい。
「やれ、シャープよ」
シャープを舞台袖に連れてきて良かった。やつならば、確実に目の前の女を仕留めることができる。くっくっく。
そのとき、メキメキっと何かが折れるような音がする。バカな。この結界は、完全防音のはずだ。
この結界を破壊できるわけがない。できるとしたら、ガーネットプリンスかコバルトプリンセスだけ。
ま、まさか!
「ララ! 遅れてごめん! 本当は演説見てたんだけど、後で驚かそうと思ってたの」
青い髪の美少女がコバルト色のオーラに包まれて現れる。横に燕尾服を着た貴公子風の男もいた。
ララは侵入者を見て叫ぶ!
「フォルルン! テヌート!」
俺は驚いたが、クックックと笑いが込み上げる。
「ちょうどいい。殺人の濡れ衣を着せるのにおあつらえ向きの連中がのこのこ出てきたわけだ。鴨がネギを背負ってやってきたというべきか」




