第49話 戦闘兵器 赤い悪魔誕生 闇堕ち度 95%
<シャープ>
「ここはどこだ」
目前には、青く茂った木々が見える。花壇には季節の花が咲いている。高くそびえる校舎。そうだ。ここは。
「ライオジアハイスクール」
「そうだ。送ってやったんだ。感謝しろよ」
声のした方を向くと、グルーヴの姿が。学校には似つかわしくないだぼだぼの服着てるな。まあ、俺も男だった頃は、スキニージーンズにドラゴンのデザインが入ったTシャツで登校して叱られたことはあるが。
そうか。俺は、右殺義との戦いの末に、投獄され、しばらく不登校に扱いになっていたのか。まずは、職員室に事情を説明しないと。
でも、なんて言って説明するんだ? エッジシャドウ社の陰謀に巻き込まれてましたとでも言うのか。いや、それよりも前提の話として。
「いいのか? 俺を解放して。教員に助けを求めるぞ」
「この学校は、エッジガード社の影響下にある。もちろん全ての教員ではないが、告発してもろくなことはない。やめておけ」
「リベラルルームという部屋も見かけたが」
「そっちはそっちで、エッジホープ社の影響下だ。いずれにせよ、貴様の味方ではない」
「なるほど。なるほどね。学校なんかも含めた行政機関は、お前たちの手中にあると。大したもんだよ」
気の利いた皮肉を言おうにも思い浮かばないので、わざとらしく褒める。
「とりあえず、貴様のことは、教員には説明済みだ。これから、2限目がはじまる。選択授業の地理の時間だ」
地理か。自分の興味に従って選んだ授業だ。ララやフォルテのようなやつらは、おおよそ歴史の授業を選んでいるから、わりと面識が薄いメンバーと受けている。全体的に女子が多かった気はするが、なんというか、顔と名前も一致しないやつらだらけだ。
とりあえず、言われるがまま、教室に向かうことにした。まだ、先生が来る時間じゃないな。
「帰れ!」
プライドの高そうなブロンド女に締め出されてしまった。
「どうしてだい? 久々に授業に復帰したって言うのに」
一応、初手は紳士的に接してみるか。返事次第では、きついこと言い返してやる。
「女ばかりだからって地理選んだんだろ? きめぇな!」
うっ。側からそう見えていたのか。確かに、百合百合したいオーラは隠していなかったが、こいつらはその対象ではない。言いようのない惨めさと悔しさが込み上げてくる。
「ち、違う。俺は、単純に学問目的興味で選んだだけで!」
「どうだか? エロい視線隠せてねぇんだよ! 変態トランス野郎!」
「なんで、そんなきついこと言うんだよ。フォルテのやつにはそんな態度取ってないだろ? あいつも元男なんだぜ」
してはならない質問をぶつける。まるで、この俺が、女社会で受け入れられているあいつに嫉妬しているみたいじゃないか。
「知ってるよ。かわいいかかわいくないかの差だよ? わかる?」
挑発的な言葉をぶつけられる。ブロンドはさらに言う。
「いい? 可愛いっていうのは外見だけじゃないんだよ。日常の細かい一挙一動や人間関係も含めた日々の謙虚さに裏付けられた努力の積み重ねでできているんだ。女社会をなめんな! そんな魔法薬の1つや2つで、女のかわいいは簡単に手に入るもんじゃないんだよ!」
心がえぐられる。だ、だめだ。全身が赤く光る。俺が俺でなくなっていく。ここで、意識を手放し、暴力を振るったら絶対にダメだ。この女が言っていることが正しいと証明されてしまう。
肉体言語では、勝利できるかもしれないが、精神言語の戦いには完全敗北してしまう。
「何が起きてるの?」
ざわざわと人が集まってくる。その中にはフォルテも居た。
「シャープ! 君は……」
そう言いかけたところに、ブロンズ女が当てつけのように、フォルテの腕に抱きつく。
「あたしたち、女の子同士だもんねー。あんな偽物、いらないわよね」
どうしてフォルテばかり。同じ女体化男子なのに……。頭の中の糸がぷつんと切れ、俺は意識を失った。何かが、悪意のようなものが俺の内面を燃えたぎらせ突き動かしている。
「きゃー!」
耳につんざくような叫び声が聞こえる。どうやら、俺は、風の刃を手元のギターで奏でたようだ。チョーキングを使って。
学校で暴力を振るってしまった。退学になる。いや、その前に、ブロンズ女、嫌なやつではあるが、深傷を負っていなければいいが。心配だ。
俺は! 俺は! こんなことをするために女になったわけじゃないのに!
意識が遠く薄れていく。俺ではない誰かがこの体の主導権を握る。
生物兵器、スーパーガーネットプリンスが完成したのかもしれない。




