第47話 星詠みの記録器 Star Voice Notary(SVN) 視聴率 30%
<シャドウ3世>
暗殺者集団からなる我らがエッジシャドウ社。社会の裏側で暗躍する組織として、歴史がはじまった。だが、今では、左右問わず、行政、司法、立法に対して強い影響力を持っている。それは、ある発明がきっかけだった。
カルマポイント。
それは、暗殺補助のために人工の魔法により導き出された。ポイントを稼ぐための行動を取れば取るほど、暗殺の成功率が上がる奇跡の数字だ。
未来予測魔法と企業秘密である「D」の計測魔法を組み合わせ算出したカルマポイントを世界各地のマジカルデータベースサーバに蓄積し、魔法電話のアプリで閲覧することができる。
夜中に潜入するとカルマポイントが高まると計測されれば、夜中に潜入し、白昼堂々やればいいと数値が示せば白昼堂々やる。それは、暗殺者たちにとって、仕事の指標となった。
カルマポイントの力によって、クライアントの信頼を勝ち取り、我々の経済活動は拡大していった。
カルマポイントを裏稼業だけに使うのはもったいない。そう提案した若手の技術者は、小さな個人経営の居酒屋に実験的に導入すると、客でごったがえすようになった。
その評判を聞きつけ、カルマポイントの組織導入をしたいと申し出たのが、エッジガード社の前身となるイーグルカンパニー、そして、エッジホープ社の前身の福祉法人ポエムの森だ。
どちらも、保守とリベラルを代表する半官半民組織だ。はじめは業務提携くらいのつもりだった。だが、やがては、我々とずぶずぶの関係に発展していく。
かくして、図らずも、行政へのコネクションができ、いつ、滅びても不思議ではない我が組織に、安定というものもたらされた。
初代が暗殺組織とカルマポイントを発明し、2代目が楽器魔法を取り入れて組織を広め、盤石なホールドカンパニー制を敷いた。
言うならば3代目の俺様は、寝ながら果実を食べているだけとも言える。
カードゲームで言うならば、デッキは先代までの努力で既に完成している。俺の仕事はデッキから配られた狂気のカードの中から気の向くまま、好きなものを選ぶだけ。
長年、運用されてきたデッキそのものを壊すことは、俺の強い権力であってもできない。そんなことをしたらトップである俺ですら命を失うことを覚悟しなければならないだろう。最初は人がシステムを作ったが、今やシステムが人を作る。我らは運命共同体なのだ。
そう。どこの世界においても独裁者が3代も続けば俺に限らずこうなる。もはや、悪事を働こうなどという企みすらなく、日次のあるいは月次のノルマを決め、職業的に淡々とこなす。いわば、俺ですら、ただの歯車だ。組織に頭脳があるとするならば、先代の亡霊だ。
そして、真面目が取り柄の人種ほど、組織に属した瞬間から、亡霊にそそのかされ、世紀の大悪党へと育つ。それは古今東西、歴史が証明してきた。そして、今日も、フレッシュな新人たちが我が組織の色に染まる。
大衆はプロ意識という美名に弱い。たとえ、貢献する組織のルールが狂っていてもだ。狂った人間がいれば、個人の心の問題に矮小化され、組織は批判を免れる。それでいい。それでこそ我が組織は平穏を保てる。
我が組織から、犯罪がバレるメンバーが出ても報道機関もアニメやゲームから引っこ抜いたBGMを流しながら卒業アルバムを読み上げ個人に恥をかかせれば大衆は満足すると理解している。やつらには現実社会を生きる人間と漫画のキャラクターとの間に線引きはない。それも、実に都合がいい。メディアも我々と同じプロ意識で数字を追いかけるように訓練されている。
実態が、コンピュータゲームの経験値のように、一度外の世界に出れば幻に代わる数字も、人間は組織に所属すれば、価値があるものだと信じる。大衆は、ゲームのシステムの欺瞞は批判するが、経済活動を行う組織の数字は、ゲームのそれと大差ないものであっても、批判しない。
もし、エッジシャドウ社にヒビがはいるとしたら何が起きたときだろうか。カルマポイントのマクロコードを管理している星詠みの記録器、Star Voice Notary(SVN)に異変が起きたら……。
いや、そんなことは起きるはずがない。星詠みの記録器はマジカルプライベートネットワーク(MPN)で厳重に管理されている。よほどのヒューマンエラーがない限りは大丈夫だ。




