第46話 音楽の神話 理科の点数 85点
<ラルゴ>
「うーん。そうねぇ」
ララは腕組みしつつ、頬を押さえながら言った。
「確かにドミナントの可能性は十分あるわね。確証はないけどさ。エッジホープの社員の間に不安定な心を広げた方が、冒険心がそそられて、ベンチャー気質な体質になることはありうる話ね。安定と不安が行き来するか……。なるほど」
何かを思いついた顔をしたララは、ノートの上に「~」のマークを書き、続けて言った。
「波よ」
「波?」
「近年、異世界地球から物理学というものが輸入されているの。それによると、音って波で構成されているらしくて」
「へえ、ララって物知りだねえ」
「音だけじゃないのよ」
ララはニヤリと笑い、女声魔法を唱える。すると、目の前のコップが震え、小さな波紋が水面に広がり虹が映し出された。しばらくすると軽めの沸騰をしはじめる。
「きれい。これも波?」
「そう。音も、光も、熱も、魔法も、トニックとドミナントの関係性もすべて波の性質を持っている。大地も、木々も、今しゃべっている私たちも、原子という粒子にまで分解するとすべて波になる」
「なんか、そういう話を聞いていると、私たちがこうして音楽を使って魔法を唱えると、物質を操ったり、炎を出したり、人の心を操ったりできるのも、そのうち波の力として、合理的な説明ができそうだねえ」
「そそ。異世界地球の学問が魔法のメカニズムを解き明かす日が、近い日に来るかもしれない。なぜ、地球では魔法が唱えられなくて、私たちが住むこの世界では唱えられるのかも含めて」
僕たちは、義務教育の神学の授業ではこう教わった。神様が人類に、科学と魔法、どちらで社会を発展させたいかを選ばせた。人類は魔法を選び、魔法を使って社会は発展した。そして、地球はおそらく、科学が発展したのだろう。
この神話に隠された種明かしがいつかなされるのだろうか。知的好奇心で、ワクワクする一方で、まるで、神への冒涜のようにも思われた。
「ま、この辺りの知識は全部パパの受け売りなんだけどさ」
「パパってララのパパ?」
「そ。ママが人間でパパはリザードマン。物理学者を目指していたけど、魔族だから、叡智を論文に書く機会が与えられなくてさ」
ララは表情を隠すように後ろを向いた。
「パパのような人が、悲しい思いをしない社会を作りたい。学問をしたい人が学問できる、そんな社会を作りたいんだ」
涙声になっていた。どうやら、ララの悲しい過去に触れてしまったようだ。
「できるよ! ララにならできる!」
気を利かせてもう一言、明るい声を作って、ララに寄り添える言葉を捻り出そうとしたが、余計な一言にならないか不安になり、続きを言えなかった。だが、気持ちは伝わったようだ。
「ありがとう。私、フォルルンの友達でよかった」
ララが手を握る。
そして、自信に満ちた目でこちらの顔を見た。
「私たちならできるかもしれない。複律魔法、マクロ魔法のオーバーライドを」
「複律魔法? オーバーライド?」
「そうよ。テヌート君を連れて3人で話がしたい。放課後いいかしら?」
「いいけど……」
ララは、何かものすごいことを企んでいる。そんな予感がした。




