第44話 生徒会選挙開始 家族愛 95%
<ララ>
社会室に呼ばれていた。別名リベラルルーム。生徒会内のリベラル政党の党員が話し合う部屋だ。聞くところによると、エッジホープ社など、大人社会のリベラル政党とも結びつきがあると言われている。
「あんたが、ララ君だね。生徒会の書記に立候補したいと言っている」
「そうです」
政党無所属で、出てみるつもりだったが意外なところから声がかかったのだった。メガネをかけ、恰幅の良い元生徒副会長は言った。
「生徒会の書記は1年生がやる慣習になっているが、今年はリベラル系の家庭の子女で立候補したい入学生がいなくてね。君を公認まではできないが、推薦をしてもいいと思っているんだ」
「は、はあ……」
思いもよらぬ申し出だった。生徒会選挙は、支持母体がないまま立候補しても通るほど甘いものではない。
もし、ここで推薦を受ければ、本当に書記になれる可能性は大いにあるだろう
聞く限り悪くない申し出だと思った。
「そこでだ」
辞書のように分厚い本と、ホチキスで留められた30枚ほどの冊子が目の前に置かれた。
「ここに書いてある内容を頭に叩き込んでもらって、選挙演説をしてもらう」
「それって、私が自分の言葉で演説できないってことですか?」
「それが何か? 社会っていうのは、しがらみがあって自分の思ったことやりたいことをやっている人なんてそんな多くいるもんじゃないよ。自分がやりたいことは歳を重ねて70歳を超えた時にはじめてやれるもんだ。若いうちは忍耐して下積みをするのが世の倣いだよ」
「しかし……」
「君のことは噂には聞いているよ。将来、政治家になりたいんだろう? だったら、支持母体がないまま出馬するのは無謀だってわかるだろう。無党派層が、我が校の生徒会に入れることは稀だ。ならば、君には我が党のルールに従ってもらうまでだ」
「……」
本は後で読むとして、とりあえず冊子に書いてあることをパラパラと目を通す。
「公約まで決められているのですか」
「それが何か?」
「優等生は学費免除の公約についてですが……」
「ああ、実力のある人間はどんな性別、種族、身分でも平等に門戸を開かねばならない。これそこが自由競争だ。すばらしい平等の理念だとは思わないかね?」
「優等生の評価基準が古語の成績ですね」
「それが何か?」
「古語の辞書と発音魔法ソフトは高価です。ある程度裕福な家庭しか学習環境が整えられない。確かに性別、種族、身分分け隔てなく一見チャンスはある。だけど、結局は経済格差がそのまま成績になる。これでは、まるで、骨抜きの法案です」
「図書館に通えばいいではないか」
「古語の辞書などは常に順番待ち。裕福な家の子たちには学習に遅れを取ります」
「だが、君は古語が優秀な成績で入学したと聞いたがね。ララ君。君自身が、どのような境遇であっても、努力すれば何とかなることを証明しているではないか」
「それは父が私のために必死で命懸けの傭兵の仕事をしたから……」
それで、命を落とした、と言いかけて言葉を飲む。
「ほら、必死に働けば何とかなるではないか。自由市場には頑張った者にはチャンスが与えられる。で、他に気になる公約でも」
「多様性入校枠の拡充ですが」
「ああ、マイノリティでも学校に入るチャンスを与えているよ」
「選考基準が不透明なんです。本当に向学心のある人じゃなくて、結局、裕福なマイノリティが」
こんな制度ならば、種族を問わない声楽による完全実力性にした方が却ってフェアだ。種族によって下駄を履かせられたとあらば、マイノリティに対する世間の視線も厳しくなる。リベラルに不満を持つ者が増える。結果の平等ではなくあくまで機会の平等にしたい。優秀でやる気のあるマイノリティこそ割を食う。そう言おうとしたが遮られる。
「しつこいね。推薦、取り消すよ? いいの? 生徒会でキャリア築きたいんでしょ?」
「わかり……ました」
スカートの上に置いた手を強く握りしめる。
「わかったらいいんだよ。君は何を言い出すかわからんから台本を作ってあげるよ。演説会ではそれを読みなさい」
「……はい」
私は、社会室を後にした。
「ララ? どうしたの? すごい顔してるよ。大丈夫?」
私のルームメイト、フォルテが心配そうに私の顔を覗き込む。
「うう……うわあああああ!」
感情が抑えきれずに胸に飛び込んでしまう。大粒の涙が溢れる。
「ちょ……ちょっとララ! どうしたの? 言えないこと?」
こればかりはフォルテには相談できないことだ。自分の生き方の問題だから。
私は大きな岐路に立たされている。自分が何を成しどういう道を歩むべきなのか。試される時期が来たのだ。




