第43話 ラッパー グルーヴ登場! ボイパ完成度 80%
<シャープ>
毎晩のように夢を見ていた。夢の中の姉ちゃんはフォルテを殺れという。自分を殺したのはフォルテだからと。
だが、これは組織の洗脳だと俺には分かっていた。決して、やつらの言いなりになってはいけない。なんとしてでも、自我を保たねばならないのだ。
だが、毎晩のように悪夢を見せられ、俺の心は折れかけていた。ここらで、一発、ドカンとショッキングなものを見せられたらやつらの思うつぼになってしまいかねない。
俺は寄生虫のように組織の内部に潜み込み、腹の中から食い破らねばならないのだ。
「こいつがリリック、いや、シャープか」
チャラチャラとした鎖のような音を立てながら、誰かがつぶやく。
そうか。とっくに俺がリリック姉ちゃんではないことはバレているか。組織に泳がされていたのか。それとも、右殺義に戦いを挑んだ時点でバレてしまったのか。
顔をあげると、だぼだぼのズボンを腰下まで履いた同い年の少年が俺を見下す。見た感じラッパーのファッションだ。
異世界から持ち込んだレコードプレイヤーをくるくると回し、軽妙なラップで俺に語り掛ける。
「YO!元気か!シャープ!俺の名前はグルーヴ!俺とバンド組まないか!ドラムのラルゴと俺と3人!ドラム&ベース、ラップ!俺、いかしてる!クールなリズム!」
どうやら、謎バンドの勧誘のようだ。
「俺はそんなことをしている場合ではない……」
「フォルテを倒せ!俺と利害一致!憎き姉の仇打倒!倒すの妥当!お前の目的思い出せ!クラスメイト!お前を迫害!」
リズム良く言うものだから、こちらも乗せられてきた。
「フォルテが敵? 全部お前らの洗脳! あいつはいいやつ! 俺、仲間に入れてくれた!」
「知らないのか? あいつも男! 正体は男! お前は騙されてる! プリンセス指数の高さでカモフラージュ! 男のくせして女子寮入ってる! 女のふりをして生きてる! 明らかに友を装った敵! それもこれもぜんぶお前を見下すため!」
「デタラメ言うな! あいつが女? どう見ても生まれての乙女! 生粋の乙女! あいつは身も心も女! 男のはずない!」
「なら本人に確かめるか? 明日、学校行け! お前の目で確かめろ! チェケラ!」
それだけ言うと、コツコツと石床に革靴でいい音立てて去っていった。
う、嘘だろ。フォルテが男だなんて。あんな女の子らしいやつが。そんなことあるはずがない。ぐらぐらと心の中の拠り所のようなものが傾き始めていた。
俺がこんな目に遭ってるのに。女社会から、はみ出しているのに、あいつだけ、女のふりして馴染んでいる。俺をよそに百合百合した世界を実現している。もし、本当なら嫉妬の炎で妬けてしまいそうだ。くそおっ。
こ、こんなつまらないことで悩んでいる場合じゃない。俺の本当にやりたいことは復讐なんだ。姉ちゃんの仇を打たないと。百合も大事だけど、それが心の闇の原因になるとするならば、決して飲まれてはならない。
うがあああああっ。フォ、フォルテ! お、俺は! お前を!
体から赤いオーラが出ていることが自分でもわかった。そして、それがやつらの狙いだということも。
「カルマポイントがいい感じに上昇しています。ボスも喜びますよ」
囁くような声が聞こえる。こ、こんなやつらの言いなりになってたまるか。お、俺は、俺はっ!




