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第40話 Tシャツで変身? コバルトプリンセス 変態度 80%

<ラルゴ>


地下室の薄暗い空気に慣れきっていたせいか、ララに揺さぶられて目を開けたとき、最初は何が起きているのか理解できなかった。


「でっかいウサチャンの化け物来てるよ! みんな襲われてる」


むにゃむにゃ。いい夢見てたのに。


でも、次の瞬間には全身に戦慄が走った。今まで準備してきた時間を思い返す。これまでの練習の成果をぶつけるときが来たのだ。


「行くぞ!」


「ええ!」


テヌートと声掛けのリズムが一致した。呼吸を合わせて掛け声を発し、階段を駆け上がった。足音が地下室の壁に何度も反響し、心臓の鼓動をさらに速める。


地上へ出ると、そこには不気味な兎、黒服で頬に傷のある「殺し屋ウサギ」が威圧感たっぷりに立っていた。

あまりの大きさと鋭い目つきに、まるで鋼鉄の鎧を身につけた騎士のような恐怖感がある。


「ウサギと聞いていたのに思ったよりいかついな」


テヌートがぽつりと率直な感想を漏らす。これには殺し屋ウサギもニヤリと牙を見せた。


「そこの女がフォルテか?」


「だったらなに?」


緊張から声が少し上ずる。敵の圧力が強烈だ。


「ならば、エッジシャドウ社にとって、邪魔者だ。くたばりな」


バイオリンを構えて演奏しだす。


ウサモフの情報が正しければ、影のカノンという目が見えなくなる魔法を演奏してくるはず。ところが、殺し屋うさぎが演奏したのは、カノンらしき曲ではなかった。


想外の魔曲が流れ出し、空気がピリピリと震える。


「ふっふっふ。この曲は一年に一度しか演奏できない高度な魔法楽曲だ。この日、この瞬間のために取っておいたのだ。名付けて消滅のアリア!」


まずい。名前からして相当ヤバい魔法、演奏を最後まで許せば何か取り返しのつかない大技を放たれそうだ。


何がどうなるかはわからないが、ともかく妨害するしかない。


威力の低くて演奏に時間がかからない魔法、ベーシックファイアーを連続で打ち込み、火球を相手に叩きつける。


しかし、殺し屋ウサギは慌てる様子もなく、今度は声楽魔法でベーシックアイスを放ち、冷気のバリアを展開して火球を容易に相殺してしまう。


声楽と楽器魔法の二重行動。弦楽器魔法の使い手はこれができるからずるい。声楽魔法と楽器魔法を同時に使えるわけだ。シャープなんかも訓練すればギター兼ボーカル的な魔法を使いこなすに違いない。


「フォルテ、手分けして一斉に攻めるぞ!」


「分かった!」


2人がかりでタイミングをずらし、複数の簡易魔法を撃ち込むが、ことごとく防がれてしまう。


バイオリンの旋律は止まらない。息苦しいほどの魔力が周囲を満たしはじめる。


「そろそろ終わりだ……!」


決定的な瞬間に、殺し屋ウサギのバイオリン演奏が高音をきしませるように響き、周囲の空気が歪んだ。


次の瞬間、空間にぽっかりと黒い穴――まるでブラックホールのようなものが現れた。


「なっ!」


「しまった!」


吸い込まれそうな重圧に身をこわばらせた次の一瞬、テヌートが横合いから黒い渦に呑み込まれ――そのまま穴はピシャリと閉じてしまった。


「テヌート! 行かないで!」


手を伸ばしたが、もう遅い。虚空を掴むだけで、彼は消え失せてしまった。


悠々とこちらを見下すうさぎは、優雅に弓先を下ろし、薄く嘲笑する。


「ふっふっふ。あの男がいなければ、君はコバルトプリンセスに変身できないのだったね」


「そうか……。それが狙いか」


とは、冷静に返してみたものの、相当恥ずかしいことが、ばれちゃってる。


きっと、敵組織のコンピュータには、プレゼンテーションソフトで作られたドキュメントが格納されていて、『コバルトプリンセスを変身させない方法 彼氏を消し去る』なんてタイトルのナレッジが広く社内SNSで共有されているに違いなかった。そんなの恥ずかしすぎる。消えたい。いやあああああ。


いや、恥ずかしがっている場合じゃない。ピンチを乗り越えないと。どうやって?


なんて考えていると、天から何かが降ってきて、僕の頭にかかる。リボン? いや、その割にはサイズが大きいな。帽子かな? 


「ふぉるるん!今すぐそれの匂いを嗅ぐのよ!」


ララの号令が飛ぶ。一体、何を考えているのだろうか。言われたままに頭に降ってきたものを顔に寄せて匂いを嗅ぐ。


夏草のようなにおい。なんだか、温かい抱擁感を感じる。んー!? これは。もしかして……。


「テヌートのTシャツよ!」


テヌートのTシャツの匂いを僕は白昼堂々と嗅いでいるだって。でも、僕は男だ。そんなことで、そんなことで、テヌートの男の匂いが僕の鼻孔を、いやあ。


「いやああ!やだああああ!そんなのだめええ!」


しかし、恥ずかしさで混乱するのと同時に、体の奥底から何かが込み上げてくる。


青く煌めく光が僕の体を優しくも力強く包み込み、頭の先から足先まで電流が走るようにビリビリと震え上がった。

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