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第39話 ヒミツの特訓 楽曲完成度 30%

<ラルゴ>


ここが……。シェルターと言うのはあまりに広すぎる。石のような謎物質で舗装されただだっぴろい空間に僕は案内された。


テヌートは説明をはじめた。


「このシェルターには3つの特徴がある。1つ、真空を使った絶対防音。1つ、温度と湿度が常に適度に保たれる。そして、1つ、時の流れが遅い」


「時の流れ?」


「僕もよく分からないが、ブラックホールという危険な天体に似ていて、それでいて安全に保たれている奇跡に近いバランスが保たれている空間らしい。相対性理論によると、このブラックホールでは、外の30分が24時間に感じられるという」


「24時間!」


敵が女子寮に着くまでおそらく30分、つまり24時間だ。それだけ時間があれば新しい魔法楽譜の一つは覚えられるかもしれない。


「再生のブルース」の譜面をざっと見た。


ブルース特有のシンコペーションや変拍子が多用されリズムそのものが難しい。また、高音から低音まで幅広く、喉のコントロールの難度が高い。アーティキュレーションやタッチの統一ができるか。さらに、コード進行が複雑で、これは、おそらく、ピアノ伴奏者であるテヌートの負荷が高い。


そして、おそらく最大の課題は、アドリブパートだ。ブルーススケールの範囲内で自由に演奏するパートがある。エリーゼさん一人で書いたであろう譜面には、アドリブはそこまで登場しないが、アキラさんが口を出しているとされる譜面には、頻繁に登場する。彼の音楽の自由度に対するこだわりが見え隠れする。


アドリブの出来により、この魔法の効果の大小は変わる。僕は、今、おそろしい課題を突き付けられていることを実感する。


「君にできるか?」


「ふふっ。あなたこそ」


なんか男と女の会話をしているみたいでドキドキする。こんな場所で男女が二人きりになったら、手籠めにできなくもないけど、そこは、テヌートはちゃんと紳士だなと思った。


魔法で防音壁を作り、お互い、パート練習からはじめる。


Aパート、Bパートときて、アドリブパートをちゃんと演奏したら、魔法が発動するが、まず、入り口のAパートから難しい。こんなの24時間ではAパートしか完成させられないんじゃないかとすら思った。


だが、反復練習で少しずつ精度を上げていく。リズムをつかみにくい難曲なだけあって、参考音源があれば助かるのだが、それを準備する余裕すらなかったのだろう。メトロノームに合わせて、コツコツと仕上げていく。


6時間かけて、AパートとBパートはまずまず形になってきた。テヌートと音合わせをするか。そして、それがうまく合えば、アドリブパートだ。時間がない。このまま、間に合うのだろうか。


そういえば、ウサモフはどうしているだろう。「カルマポイント」という謎の数式については、ララが読めるとは言ったものの。


<ララ>


「ちょっと何よ。こんなもの渡されても私は何もわかんないわよ」


ウサモフくんに変な数式が書かれた紙を渡されるものだから、ついつい文句を言ってしまう。


「フォルテが君なら解読できるかもしれないなんて言ってたから」


「フォルテったら、まったく。私のこと買いかぶりすぎなんだから。こんなものわかるわけないでしょ。そもそもカルマポイントってなに?」


「さ、さあ」


「わかんないもの渡したの? もういい! 調べる」


魔法スマホの検索エンジンを使ってカルマポイントについて調べる。


「ゲームとかパチンコ関連ばかり出てくるわね。もしかして、パチプロ攻略法だったりする? んー。そんなわけないか。マイナス検索でゲームとかは弾いて、他のキーワード、何がいいかな。『エッジシャドウ』と組み合わせるとなんか出てくるか。お、あった」


検索結果の中に、マイナーな個人ブログがかかる。


『エッジホープ社はブラック企業だ。社内ではカルマポイントというクソ指標が作られていて、俺たちはその数字を稼ぐような行動を常に迫られる。【かる魔チームズ】なるふざけた名前のアプリを入れさせられ、俺たちの行動はアプリと連動し、逐一監視される。この数字がどういうルールで割り出されているかは謎のベールに包まれているが、どうやら、人を騙したり追い詰めたりすると、上がるような仕組みになっているらしい。このままだと人の心が壊れる』


「んー、なるほどっていうことは、このカルマポイントの方程式が、この紙に書かれてるってわけね。なるほどなるほど」


とりあえず、概要はわかったので数式と改めてにらめっこする。


「当たり前のように記号が使われているけど、どれが何を表しているのかよくわからない」


「ララでも難しいか」とウサモフが言うからさすがに頭にきた。


「事前情報がない中で人間ができることって限られてるでしょ? どんな高性能なコンピュータだって、自分に与えられた情報の中でしか計算できないじゃない。それと一緒よ」


と突き放してみたものの、紙に書かれている中からでも読み取れる情報はあるはずだ。


「細かい部分はわかんないけど、この数式はDって変数がカギを握っているわね」


「D?」


「ここ、『…+ kΣD +..』って書いてある場所があるんだけど、これが何を示しているかっていうと、エッジシャドウホールディングスの社員全員のDの数字が最大化されるように行動すれば、カルマポイントはおそらくかなりの量が稼げるはず。おそらく、組織の連中はDによって動いていると言っても過言ではない。Dの正体さえわかれば、もしかしたら……。そして、ここの式を何らかの方法でハッキングして書き換えることができれば、もしかしたら……。ねえ、ウサモフ。Dに心当たりない?」


「わかんないよ。Dと言われても、アキラとそんな会話したことないし」


そこまで会話したとき、表でドスンと言う音がし、「キャー!」と絶叫が聞こえた。


そして、バイオリンの音が聞こえる。どうやら、敵のおでましのようだ。


地下に潜った二人を早く呼ばないと。

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