第34話 女の子同士の合言葉 数字こそ全てか 社会科テスト80点
<ラルゴ>
魔法警察から叱られ、僕たちは解放された。公共の場で戦っちゃいけないって。でも、襲われた時、どうやって身を守ればいいのやら。
女子寮に帰った僕は、部屋着に着替え、ジパング村で買ったコンピュータゲームを遊んでいた。
「あああ、ゲームオーバー。うまくいかないものだねぇ」
「なんのゲーム? フォルルン」
「ふぉ、ふぉるるん?」
おかしな呼び方をララがするので、思わずまじまじと見つめてしまう。ベッドに寝転がりながら、髪の毛をくるくると人差し指で巻きながら、ララは言った。
「ニックネーム付けた方が可愛いかなって。ほら、女の子やってる感が出て、生活にうるおい出るでしょ」
ララの提案は、少し恥ずかしいけど、ちょっと女の子の仲間になった感じがしてうれしくもあった。
「私のことはランランって呼んでくてていいよ。フォルルン」
「ら、らんらん」
わくわく。ちょっと楽しいかも。
「で、どうしたのふぉるるん? なんのゲームやってたの?」
「ケーキ屋さんを経営するゲーム。目先の会社の時価総額とか純利益増やすよう経営してたら、だんだんお客さん来なくなって、お店つぶれちゃって」
「なんで、また。お金儲かってるんでしょ?」
「攻略本見てると、プレイヤーには見えない隠しパラメータに顧客満足度とかパティシエ忠誠度とかあってさ。お金のためじゃなくて、従業員やお客さんを満足させるのが回り道だけど、結果的にお金が儲かる仕組みになっているみたい。そんな、プレイヤーが追いかけなきゃいけない大事な数字だったら、はじめから、目に見えるようにしてほしいよね」
「でもさ、現実社会も本当に大事な数字は目に見えないものかもね。楽しく遊べるように現実社会から複雑な変数を切り捨てて、シンプルにモデル化したゲームですらそうなんだから」
ララは鋭いことを言うので、僕は目を瞬いた。ベッドに寝転がりながらバタバタさせる足の速度が速くなる。そして、前々から思っていたけど、口に出せなかった疑問を勇気出してぶつけることにした。
「プリンセス指数も本当に心の性別の実態を反映しているのかわかんないんだよね。私、本当に心が女の子だって言えるかどうか」
「フォルルンは私の目からみてもすごく女の子らしいと思うよ」
「ありがと。そう言われると失いかけてた自信も戻るかな。でもさ、ゲームを遊んでいても思ったけど、現実社会も本当に大事な数字は隠しパラメータになっていると思うんだ。たとえば、シャープくんみたいな女体化男子が女社会でうまくやっていくには、プリンセス指数以外のいろんな大事な目に見えないものが隠れていると思うんだよ」
自分が女社会でうまくやっていけるかという漠然とした不安。それをシャープに託して言ったのは僕のずるいところだ。ララは僕の言おうとしていたことに続けた。
「目に見える数字だけを追いかける。それは、きっと、目標設定を数値化することで、成長の実感を得られたり、他人を枠にはめて評価する役には立つ便利な道具だとは思う。数字に根差した人間の欲望によって、テクノロジーや経済は成長してきた側面もある。だけど、目の前の数字を疑わず、それだけに振り回されることで、人間や社会っておかしな方向に向かって歩んでいくことが、世の中、たくさんあるような気がしていて。世の中を騒がせる悪人も、はじめから悪人を目指してなった人もいるけど、お金とかステータスとか目に見える何かを目指して目に見えない何かを切り捨てた結果、悪に手を染めてることってあるじゃない。そして、そんなやり方を続けていると、中長期的には、本来、追い求めていた数値目標すら、結果的に達成できない」
ただのゲームの話のつもりだったのに深い話になってしまった。
「らんらんって賢いな」
「ふふっ。夢を叶えるためにはこういうことも勉強しなきゃいけないのよ。私が目指すのは最大多数の最大幸福。異世界イギリスの法学者の言葉なんだけどね」
「幸福こそ目に見えない数字じゃない」
「そうね。幸福や不幸を目に見える数字にできて、それを追いかけるだけで、みんなが幸せになれる世の中がきたらどれだけ楽だろうね」
「それはそうと、お腹いたたたたた……トイレに行ってくるね」
「いってらっしゃい」




