第27話 お風呂にて女同士の会話 友情度 85%
<ラルゴ>
夜なのに、先輩から外に待ち合わせだと呼ばれて行ってみたけど、誰もいないじゃないか。いったいなんなんだ。ううう。今日はなんか色々あってストレスがたまる日だ。女の子の生活も楽じゃないなあ。
「ただいまー」
女子寮に戻り、ドアを開けると、隣のクラスの女の子が歩いていた。下着姿で。
「わーっ!」と僕が叫ぶと「おかえりー」と、真顔で返事。
「だ、だめだよ。こんなところ下着でうろついちゃ!」
「なんで?男子が見てるわけじゃなし。女の子同士じゃんねー」と、同意を求めてくる。
「だ、ダメだよ。女の子同士でも、お行儀悪いからダメなものはダメ!」
目を逸らしながらしばらく問答をしてたら、2年生の先輩がやってくる。
「こら! 真面目な子からからかうんじゃないの。服着ろ」
「はーい」
僕はからかわれていたのか。通りすがりの女の子がちらちらと僕を見る。ぼ、僕、何かした?
あたふたしていると、どこのクラスかわからない女の子がふたり僕の両脇に現れる。
「ねー。お風呂一緒に入りましょ? あなた、いつも、誰もいない深夜に入ってるでしょ」
「うう。裸が見られたくないんです。ごめんなさい」
「いいじゃないの。女の子同士、誰も気にしないよ」
やけに、お誘いが多い日だ。
「ごめんなさい。やっぱり一人で入らせてください。一人がいいんです」
2人は驚いたような表情で顔を見合わせると去っていった。
別の同級生がさらに現れて「人狼で遊びましょ」とのお誘いが。
「ルールあまりわかんないです」
「いいからいいから、手取り足取り教えてあげるから」
ルールを教えられるがままにゲームをこなしていく。
「この子、嘘つくの下手だ」
「ごめんなさい……」
嘘をうまくつかなきゃいけないゲームなのに、僕のゲームスキルのなさが露わにされる。
「いいんだよ。それはいいことなんだよ。君の長所」
「そ、そうかな」
褒められているようなそうでもないような。
「あ、そうだ。ララって子が君の悪口を言ってたよ。ブスだし気持ち悪いってさ」
「ララはそんなこと言う子じゃないよ!」
1人の女の子が口に出すから、反射神経で思ったことを返してしまった。
「ご、ごめんなさい。生意気言って」
部屋にいる女の子たちは考え込むような表情をする。何か変なこと言ったかな。
「いい子だよ」
「うん。いい子だよ」
僕のことを言ってるのだろうか。
「うん。もういい。部屋に帰って」
誘ったかと思ったら追い出されてしまった。何が起きているのやらさっぱりだ。
部屋に戻ると、ララが手招きをする。
「夜風に当たろっか。夜景見たくない?」
誘われるままに、外に出て、少しだけ山登りをする。ハイスクールと女子寮は、標高が高いところにあり、少し上ると街を眺め下せる。美しい夜景だ。
「きれいな街ね。魔界とは大違い」
感激したようにララは言う。
「魔界って、どんな風景なの?」
「薄暗くって気味が悪いかな。だから、魔族は人間界に侵略戦争をしかけたの。気持ちはわかるけど、人間たちもそりゃ怒るわよね。誰だってこんな美しい風景を守りたいって思うもの」
ララの瞳がキラキラと宝石色に光る。深呼吸をした後、ゆっくりと僕の瞳を見つめる。
「私、何があってもあなたの味方だから。私、あなたに何かがあったら……」
言葉の途中で言いよどむ。何を言おうとしているのだろうか。
そのとき、ララのバイブの音が鳴りポケットの中が光る。
「あ、魔法メールだわ。うんうん」
ララは何かの文章を息を止めて読み、泣いているような笑っているような不思議な表情になった。
「来週、3人が寮を引っ越すってさ」
「3人も!? いったいなんで? 何があったの?」
本当に寮で何が起きているのだろうか。寮長を巡った仲間割れ?
「たった3人だよ! 日頃の行いの良さと人徳としか言いようがないよ! 認められてるよ!」
ララは涙を拭うような仕草をした。
どういう話だ。寮長が人望を取り戻したとでもいうのか。
「私たち、これからも一緒だからね」
両肩に手を伸ばしぎゅっと握りしめられる。
「う、うん。ちょっと夜景を見ただけで大げさじゃないかな」
変なララ。
深夜になり、いつものように、誰も居なくなったお風呂に入っていると、ドアの音が鳴る。
だ、誰? どうしよう! 女の子の裸を見てしまう。
「よっ!」
「せ、先輩!」
3年生の先輩が入ってきた。タオルで隠すべきところを隠しているとはいえ居心地悪い。
「で、出ます」
「出なくていいから、女の子同士の話をしようじゃない」
「は、はい」
圧に気おされて風呂に押し戻される。
「どう? 女子寮生活慣れた?」
無言でうなづく。
「んじゃあ、自分語りさせもらうよ。あたしさー。ミドっていうんだけど、子どもの頃から男の子と喧嘩ばっかしててさ。ここの学校に来ても、裏ボスだとか王子様だとかゴリラとか言われててさ、女らしさの欠片もないんだ」
男のように豪快に笑う。
「は、はあ」
「男だとか女だとかどうでもいいと思わない? まあ、あんたはあたしから見たらお姫様かっ! ってほど女の子らしいけどさ」
「そ、そんなことは」
「まあ、褒め言葉は素直に受け取っとくもんだよ。女の子らしく振舞いたくても振舞えない子が多い中で、あんたは恵まれている。天性の乙女の才能があると思うんだ」
「う、うう。あ、ありがとうございます」
「奥ゆかしい反応がかわいい。好きな子いるの? 男でも女でもいいけど」
「ええっ」
「なんかさ。誰かに恋してそうな顔してるんだよね。ま、言わなくてもいいけどね」
がっはっはと豪快に再び笑う。
「誰かにいじめられそうになったら言ってよ。私がガツーンとやってあげるから」
それだけ言うと、ミド先輩はお風呂を上がっていった。怒涛の一日が過ぎ、僕は、眠りについた。




