第12話 冷たい態度 政略度 50%
<ラルゴ>
「やったぜ! 今度こそ魔女の脅威が消え去った」
フォルテのその言葉を合図に僕は女の子座りでへなへなとへたり込む。
ハイタッチをフォルテがテヌートとしようとした瞬間、テヌートはそっぽを向いて拒絶した。
「君たち、迷惑だから出ていってくれないか。とんでもない戦いに巻き込んでくれたね。死ぬかと思ったよ」
「戦いに巻き込んだのは悪かったよ。でも、そんな言い方ないだろ」
「君たちが魔女に手を出さなければこんなことにならなかったんだ。彼女だって、平穏に暮らしてたところを君たちに荒らされた上に退治されてさぞかし迷惑だったろうよ」
彼の言っていることは正しいように思えた。僕たちが魔女の屋敷に向かわなければこんなことにはなっていないのだ。僕たちがやったことは、怪しい館にに近づき、身に降りかかった火の粉を振り払っただけに過ぎない。だが、相手が悪人と言って差し支えないとはいえ、一つの魂を消滅させてしまったのだ。
「ああ、そうかよ。せっかく仲良くなれたと思ったんだがな」
出て行こうとするフォルテを執事さんが制止する。
「まあまあ、こんな夜更けですし、一晩だけでもここに泊まっていただいていいじゃないですか。坊ちゃま。魔女が棲む森です。魔物が出ても不思議ではありません」
「好きにしろ。明日の朝には出ていってもらうからな」
僕たちは部屋を追い出された。
「坊ちゃまのことを悪く思わないでくださいね。ああ見えて、お優しい方なのです」
ツインベットがある広い部屋に案内される。夫婦が寝るような部屋だろう。フォルテとふたりきりでそんな部屋に泊まるなんて。しかも、体が入れ替わったままで。胸の高鳴りが止まらなかった。
<テヌート>
気づいてしまった。彼女の体が光る理由を。
僕は、色覚異常だとさっきとっさの嘘をついた。彼女が光っていることについて、気付いていないふりをするために。
コバルトプリンセス。女体を持つ男子のハートが100%乙女に覚醒するとクリスマスツリーのように全身が光るという。
間違いない。あの二人は入れ替わりの呪いを受けている。フォルテという女がラルゴだし、ラルゴという男がフォルテなのだ。
呪いについて、興味を持って論文を読んだことがある。そこには、入れ替わりがバレたら死に至ること、1年間放置したら元に戻ること、妊娠したら二度と戻れないことなどが記載されていた。
僕は入れ替わりに気づいているが、あのふたりはなぜか死なない。理由は分からないが、仮説として一つ考えられることがある。
僕は気付いている素振りを見せていないのだ。気付いている素振りを見せた瞬間、あのふたりはこの世を去る可能性がある。だから、このまま気付いていない素振りを続けるしかない。
あのふたりに対して突き放すようなことを言ったのにも理由がある。恋をしそうなのだ。フォルテの体を持ったラルゴに。
彼女を守ろうとして押し倒したあの瞬間、お恥ずかしながら、発情してしまった。彼女の髪の匂いを嗅いでしまった。あのまま食べてしまいたくなった。
あれ以上、彼女と親睦を深めてはいけない。彼女のことが好きになってしまうから。恋人にしたくなってしまうから。
僕には親が決めた婚約者がいる。婚約は破棄できない。父が貴族の地位から失脚してしまうのだから。僕は男だが婚姻を通じて親の身分を保証するための道具にすぎないのだ。




