第0話 傷ついた3人 忘却度 100%
<ララ>
「けっ! 汚い魔族のばい菌が手についてしまったぜ!」
幼稚園で、いじめっこのグルーヴくんが、私を遊具から突き落とした手を見つめて言う。
私はリザードマンのハーフ。魔族は、少し昔、人間と戦いをしていたらしい。だから、それを理由にいじめられている。
思わず感情がこみ上げ、泣きそうな気持ちを我慢する。
「ララちゃんをいじめたら僕が許さないから!」
私を庇ってくれているのは、お友達のラルゴくん。男の子だけど、女の子みたいに穏やかな性格の子。いつも、意気投合して仲良くおままごとをしている。
強がってはいるけれど、少し震えている。
「けっ。弱虫のくせにでしゃばってくるなよな。女々しいやつは、女子に混じって編み物やお絵描きでもしてろよ! そんなんだから、男の友達ができないんだよ」
「な、なんだと。ぼ、僕は、僕は、うわああああああんん」
庇ってくれたのは嬉しいけど、泣き出してしまった。優しい性格だけど、優しすぎるんだよね。
「へっ。女みたいな男は、やっぱり、泣けばいいと思ってやがるんだな。魔族の女と同じで心が汚いぜ」
「あれー? 君たち、何をして遊んでいるの?」
場の空気を変えるかのように、赤い髪の毛の男の子が現れる。
「シャープか。てめぇは関係ないだろ。すっこんでろ!」
「関係ないことないよ。お友達が泣いているんだから」
そう言うと、お部屋にあったおもちゃのウクレレをかき鳴らす。
「お、お前、楽器で魔法を?」
風の刃が辺りを飛び交い、いじめっこの近くの地面に傷をつける。
「く、くそっ! 覚えてろよ!」
いじめっこはその場を立ち去る。
「ありがと」と私。
「なあに。気にするなよ」
「かっこいい。どうやったら、そんなにかっこよくなれるの?」と、女の子のようなキラキラの目線をラルゴくんはシャープくんに向ける。
「俺、お姉ちゃんにあこがれているんだ。お姉ちゃんも、今みたいに、いじめっこから俺を助けてくれたから。大人になったら、お姉ちゃんみたいなかっこいい女の子になりたいんだ」
「変なの! 男の子が女の子になりたいだなんて。ラルゴくんもおままごとでママ役やるの楽しそうだし、仲間だね! ふふふっ!」
私は、ふたりの握手を促す。
私たち3人は、この日の記憶を失っている。いじめっこを守るため、大人たちから記憶を消す魔法の施しを受けたのだ。
時が過ぎ、16歳になり、いじめっこも含めた4人が再会するとは、誰も知らない。