汽車と駅
僕はね、汽車の窓から身を乗り出して、遠ざかっていく駅のホームをいつまでも見ているんだ。思い出という名のホームをね。でもさ、もし簡単に戻れたら、あんな駅ちっとも見ないんだろうね。簡単に忘れてしまうんだろうね。変だなあ。
かけがえのなさっていうのは、「二度とない」って修飾がついてのものなんだね。そのものの価値ではないんだなあ。
過ぎ去りゆく駅もあれば、向かう駅もある。まだ見ぬ駅に僕は心を躍らせる。不安混じりに見据えるんだ。汽車の窓から身を乗り出して前を見て後ろを見る。どっちも長く見ていたい。選ぶなんてできないや。
ただ前はちゃんと見ておかないと危ないよ。たまに頭をぶつけそうになっちゃうから……。