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ボクのフェアリー育成計画(超長期)


 ラキスの思惑はピタリとハマった。

 ルブスト連合国へ向かうという商隊がふたりを護衛に雇ってくれたのだ。


 報酬はルブスト連合国へ到着してからの成果報酬ということで話がついた。


 退職金で潤っているラキスにとって、成果報酬など微々たる稼ぎだ。

 それでも、この報酬は絶対に必要である。


「元々の目的はこの国を出ることなんだから、報酬なんか要らないだろ?」


 これは、どこの元王女の寝言もだったか。

 バカを言うのもほどほどにして欲しい。


 報酬無しで護衛を名乗り出る冒険者はきな臭い。

 そんな冒険者を雇ったら積み荷と有り金すべてを奪われるのがオチだ。

 もしその冒険者が裏切らなかったとしても、そいつは危なくなったら逃げる。

 護衛ではなく、ただの話し相手のようなものだ。


 結論、報酬不要の冒険者など百害あって一利なし。


 冒険者が護衛の報酬を求めるのは仕事だからだ。

 仕事だから責任が生まれる。当たり前のことだ。


 当たり前のことだから、商隊の連中だって当然知っている。

 だからしっかり報酬を要求した方が怪しまれない――ということを、アリアに小一時間かけて説明した。


 こうして二人きりの冒険者パーティによる『商隊を護衛するお仕事』が始まった。



   §   §   §   §   §



「前に二。右二、左一。後ろも一」


 ラキスが出す指示はたったそれだけ。

 それでも、ゴブリンが放った矢は的確にモンスターの急所を貫く。


 商隊の馬車を囲むは六匹のドラゴンベビー。

 瞬く間に、二匹。

 鳴き声も出せぬ屍へと変わっていった。


 アリアもフェアリーを召喚してみたものの、やることが何もない。

 ただただ、ヒマだ。


――――――――――――――――――――

【名称】フェアリー


【説明】

 蝶のような翅をもつ小人。あまり人前に姿を見せないが人里近くに生息している。

 見た目に違わず戦闘能力はとても低いが、癒しの力を持つため人気は高い。


「ねぇ、知ってる? フェアリーを一緒に見たふたりは結ばれるって伝説」

「え? じゃあ、フェアリーを見られなかったらどうなっちゃうの?」


【パラメータ】

 レアリティ E

 攻撃力   F

 耐久力   E

 素早さ   B

 コスト   C

 成長性   B


【スキル】

 飛行

 下級治癒術


――――――――――――――――――――


「おお、また眉間に命中した」


 ラキスの召喚したゴブリンが、矢で敵を仕留める。


 今日はめずらしく曇っていて風も強い。

 春の強風も計算に入れた見事な射撃術だ。


 アリアはパチパチと拍手をし、

 フェアリーはパタパタと宙を舞う。


 ひとりと一匹は並んで戦闘を見ていた。

 ラキスもゴブリンも、かすり傷ひとつ負わないのだから仕方がない。

 せっかく手に入れたフェアリーの治癒術に、出番が回ってくることはない。


「これ、ボクがこの子と召喚契約した意味ある?」


 アリアの疑問に、ラキスは「もちろんだ」と答えた。


 ラキスが言ったとおり、数分後にフェアリーに出番が回ってきた。

 モンスターとの戦闘はすべて終わった後のことだ。


「ああぁぁ。ありがとうございます! マリオさん」


 治癒術を施され、礼を述べているのは、商隊の馬車を預かる御者だ。


 それは街道でドラゴンベビーが飛び出してきたときのこと。

 馬車を引いていた馬は、驚きのあまり前脚を大きく上げていなないた。

 その勢いのままに放り出された彼は、地面でしたたかに腰を打ちつけたらしい。


 このままでは馬の手綱を握るのもひと苦労。

 と、ここでフェアリーの出番というわけだ。


 ちなみに『マリオ』はアリアの偽名だ。

 ラキスの()ということになっている。


 性別も変えておいた方が安全だろう、というラキスの発案だ。

 まあ、一理ある。だから従った。


 服装は男性らしい装いに着替えた。

 肩まである銀髪をうなじの上あたりで結んだ。

 冒険者のたしなみとして短剣も腰に差した。


 だからと言って、アリアは決してこの案に納得しているわけでは無い。

 うら若き乙女に「弟でも通用する」と言ってのけたラキスは絶対に許さない。

 アリアを男として受け入れている、この商隊の面々にも思うところがある。


 この護衛が始まってからこちら、アリアの心中は穏やかでない。




 商隊はそのまま小休止を取ることになった。

 御者の体調回復もだが、馬が暴れたときに積み荷が少し崩れたからだ。


 ちなみにこれは本日三回目の小休止。


「ねえ、ラキス。これって国を出るまで何日かかるんだ?」

「早ければ七日くらいだ」

「そんなに!?」

「そんなものだ」


 重い荷を引いた馬車というのはかなり遅い。

 王家の馬車にしか乗ったことが無いアリアには信じられない速度だ。


 人が歩くよりは早いが、走るよりはやや遅い。


「馬も生き物だから疲れる。馬の替えがいるわけでもない。ならば馬も休憩させねばならない」


 そうラキスに言われて理解はした。

 理解はしたが、はやる気持ちは押さえられない。


 もしロゴールに見つかったら、この商隊の人たちまで巻き込んでしまう。

 アリアの問題に関係の無い商隊を巻き込むのは本意ではない。


 急ぎゴールへ向かいたいのに、その方法がわからない。

 もどかしさが心をジクジクと浸食する。


ほうけているヒマがあるならこっちへ来い」


 ラキスに呼ばれて向かった先にあったのは死骸の山だった。


 さきほどの戦闘でゴブリンが射殺いころした六匹のドラゴンベビー。

 その死骸を集めたらしい。


 モンスターとはいえ、死骸を見せられるのは良い気分ではない。

 それとも、墓でも作ってやろうと言うのだろうか。


「これは、なんの真似だ?」

「お前のためだ」


 なにを言っているのだコイツは、と口には出さないが表情でアリアは抗議する。


「これをフェアリーの生贄にする」

「ああ! サクリファイス!!」


 アリアはようやく合点がいった。

 戦闘能力が低いフェアリーを育てるためのエサということだ。


「オルトロスとは格が違うからな。先に言っておくが、変な期待はするな」


 ラキスはそんなことを言っていたが、アリアは期待せずにはいられなかった。

 あの夜、ゴブリンが姿を変えるその瞬間をこの目で見ているのだ。


 このフェアリーがどのように姿を変えるのか。

 期待に小さな胸をふくらませて、アリアは「サクリファイス」とつぶやいた。


 ドラゴンベビーの骸が光に包まれて球となる。

 光の球はフェアリーの身体に吸い込まれていく。


 そしてついにフェアリーの姿が……まったく変わらなかった。


「ラキス。……なにも変わらないんだけど」

「ふむ。ステータスはどうだ?」


――――――――――――――――――――

【名称】フェアリー


【説明】省略


【パラメータ】省略


【スキル】

 飛行

 下級治癒術

 ブレス耐性(極小) 《NEW!!》


――――――――――――――――――――


「あ! スキルが増えてる!! えーっと、ブレス耐性……極小?」

「もうスキルを増やしたのか。よほど食い合わせが良かったようだな」


 ラキスによるとスキルが増えるだけでも大成功らしい。

 生贄サクリファイスはする側とされる側の、強さの差と相性で結果が大きく変わるそうだ。


「でも、極小だぞ?」

「もっと食わせれば成長する」

「どれくらい?」

「さあ、な。百も食えば『小』くらいにはなるんじゃないか」


 アリアはその数にめまいがした。

 一方で、ものすごく納得できたところもある。


 アリアは初めてこの術を見たとき、なんて画期的な術だと思った。


 同時に、なぜ自分は教えて貰えなかったのか。

 まさか宮廷召喚士たちは、この術を知らないのだろうか。という疑問を持った。


 だが、今回のことでハッキリわかった。

 この術は……強力なモンスターを金で買う召喚士にはまったく向いていない。


 強さの差で効果が変わるのが一番のネック。

 少なくとも自分のモンスターよりも強いモンスターを生贄にすることが前提だ。


 初めから強力なモンスターは、生贄にできるモンスターも限られる。


 たとえ魔神クラスの死骸を高額で買ったとしても、相性次第では無価値だ。

 運よく相性がハマったとしても手に入るスキルが『極小』ではコスパが悪すぎる。


 雑魚モンスターの代名詞ともいえるゴブリン。

 それをコツコツ育てる根気があるラキスだから活かせる術だ。


 世の中、簡単に強くなれる方法などないのだと改めて突きつけられた気分だ。

 アリアは途方もないフェアリー育成計画に、心を折られながら商隊の元へ戻った。




「やあ、ラシック。……その鳥はなんだ?」


 そこでは商隊のリーダーであるラシックが、白い鳥を数羽、空へと飛ばしていた。


「あ、ああ。あなたはマリオさん、でしたかな。これはメッセージバードですよ」

「メッセージバード?」

「手紙を足に括って、我々の進行状況を国に伝えているのです」

「ははぁ、なるほど。あと何日くらいで着くか、向こうも気にしているわけか」

「ええ、ええ。そういうことです」


 空へと飛び立った鳥が空中を旋回し、ほとんどがルブスト連合国へと飛んでいく。

 だが、何羽かはルブスト連合国とは逆の方へと飛んで行った。


「あの鳥はどうして逆の方へいったんだ?」

「ああ。あれは道に迷ったのでしょう」

「ええ!? 出発して間もないのにか?」

「鳥なんてそんなものです。

 だからこうして何羽も飛ばすのですよ」


 真っ直ぐ目的地へ飛んでも、他の鳥やモンスターに襲われることもあるそうだ。

 連絡をひとつ送るのも大変だ、とアリアは感心した。


 メッセージバードを見送ったあと、商隊は再び歩みを進める。

 ルブスト連合国までの道のりは、まだまだ先が長い。



【おねがい】


もし「面白そう!」「期待できる!」「男の子みたいな王女、好き」と思ったら、広告下の★★★★★を押して応援してもらえませんかね?


お星さまをアナタの色に染めてください。

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