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ゴブリンのような男がゴブリンと共に大きな犬を殺した


「森は……広いな」


 ゴブリンの持つ松明が、男の姿を照らしだす。


 その髪は、ゴブリンの肌のようにあか紅葉色もみじいろをしていた。

 中央をポンパドールにまとめ、左右に垂れた髪は首元まで伸びている。


 歳はハタチ過ぎくらいに見えた。


 アリアを無関心に見るその瞳は深い琥珀色こはくいろ

 それはゴブリンの瞳のようだった。


 薄灰色うすはいいろの外套に包まれた身体は、お世辞にも体格が良いとは言えない。


 まるでゴブリンが人に化けているようだ、とアリアは思った。


「あなたは誰? 宮廷召喚士の人?」

「ふぅ。そう……だな。三日前までは」


 男は口から煙を吐いて、そう答えた。

 暗くて気付かなかったが、葉巻らしきものを右手に持っている。


「三日前まで……?」


 なんとも不気味な男だ。

 だがそれ以上に不愛想。そして無礼な男。


 アリアは王宮で生まれ、王宮で育った生粋の王族である。

 産まれてこの方、周囲の者から丁重な扱いしか受けたことが無い。


 これは自慢でも何でもなく、ただの事実。

 それ故に、家族――もちろんみんな王族だ――以外の者からこのような雑な対応をされるのは初めての経験であった。


「で、お前は誰だ?」

「お! おまえっ!?」


(この国の第二王女であるボクを知らない!?)


 一瞬驚いたアリアだったが、よくよく考えてみれば当然のことだった。

 王族たるもの軽々《けいけい》とその姿を見せることはない。

 アリアと謁見えっけんしたことのある者は、王族と高位貴族ばかりだ。

 貴族ですらない者達、貴族でも階級が低い者達は、アリアの容姿を知らなくて当然のこと。


 気を取り直して、自分から名乗ることにした。

 まずはコホン、と咳払いをひとつ。


「ボクの名は、アリア。この国の第二王女、アリアだ」

「ふぅ……、そうか。俺の名はラキスだ」


(え? それで終わり?)


 アリアはさっき以上の衝撃を受けた。

 王女と知らなければ、不愛想で無礼な反応も仕方のないこと。


 しかし、いまアリアははっきりと名乗ったはずだ。「この国の第二王女」だと。


 にもかかわらずこの男は、ラキスは「そうか」と言ったのだ。

 それも煙を吐きながら、である。


 驚愕し、平伏し、非礼を詫びる。

 それがアリアの知っている()()()()()だ。


 悠々と葉巻なんか吸っている場合ではない。

 王族とはそういう存在のはずだ。


 彼が何者かはわからない。

 だが少なくとも、貴族の子弟で構成されている宮廷召喚士では絶対にない――それだけは断言できる。


「そうか、って。あな――」

「話はあとにしろ。まずはこの犬だ」


 犬、と言われて思い出した。

 絶体絶命の状況から救われたとはいえ、アリアはまだ危機を脱したわけでは無い。


 アリアの目の前には、四つある瞳のうちのひとつを焼かれたオルトロス。

 双頭の狼が興奮した様子でこちらを睨みつけている。


 ラキスの隣に立つゴブリンが矢筒から三本の矢を取り出すと、もう一匹のゴブリンが松明から矢に火を点ける。


 燃え盛る矢尻。

 ゴブリンは三本の矢をまとめて弓につがえ、目にも止まらぬ速さでオルトロスに放った。


 ヒュウと風を切り、矢はオルトロスへと向かう。

 しかし、その矢は木に刺さり、地面に刺さり、草木を燃やした。

 炎は燃え盛りあたりを照らす。

 真っ暗だった森が、赤とオレンジの光に包まれていった。


 ターゲットであるオルトロスは、もはや元の場所にはいない。


 もちろん逃げたわけではない。

 少し離れた場所で、姿勢を低くして構えている。


「来るか」


 タンッ!

 オルトロスの脚が音を立てて地面を蹴った。


 巨狼の身体が、その重さを全く感じさせないスピードで空中を駆ける。

 しかし巨体はラキスに届く前に地へ落ちた。


 横向きで地面にぶつかったオルトロスが、

「ギャオ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ」と悲鳴を上げてもだえている。


 オルトロスに残った三つの瞳のうち、ふたつに矢が刺さっていた。


 アリアはラキスの隣に立つゴブリンを見た。

 彼は新たな火矢を用意している最中だ。

 ならばいったい、この矢はどこから飛んできたというのか。


 ラキスの横から、再び三本の火矢が飛ぶ。

 今度は三本ともオルトロスに命中した。


 首元、耳、鼻。

 硬質の毛に守られていない部分、つまり弱点。


 ピンポイントに矢が刺さり、炎が立ち昇る。

 三本同時に矢を放ったとは思えない精密なコントロールにアリアは目を奪われた。


「……すごい。これがゴブリン?」


 ゴブリンとはこれほどに精密な戦闘技術を持ったモンスターだったろうか。

 いや、アリアが教わったゴブリンは違う。

 もっと雑で、粗野で、力任せに武器を振るい、でたらめに矢を放つ。

 ゴブリンとはそういうものだと聞いていた。


「ゴブリンだ。練習は積ませたがな」

「練習……!?」


 この短い間に、アリアは驚かされてばかりだ。


 召喚とは、呼び出したモンスターの能力で戦うのが常識。

 だからこそ、召喚士には強力なモンスターを召喚できる能力を求められる。


 それを……モンスターを育てようだなんて。

 育成するのであれば、それこそ長時間召喚を維持し続けなくてはならない。

 少し召喚しただけで魔力が切れてしまうようでは土台ムリな話である。


 だからこそ、ゴブリン。

 どこにでも生息している雑魚モンスターは召喚コストも召喚維持コストも低い。

 彼がゴブリンを二匹同時に召喚出来ているのも、コストが低いからに違いない。


「ウ゛オ゛オ゛オ゛ォォォン」


 オルトロスがヨロヨロと立ち上がり、自らを鼓舞するように吠える。


 しかし、その声に力が入っていない。

 瞬間、オルトロスの後方から飛んできた矢が、尾の大蛇の根本に突き刺さる。

 さらにもう一本の矢が別の方向から飛んできて後ろ脚に刺さった。


 アリアは後から矢が飛んできた方へ視線を送る。

 燃え盛る炎に照らされて、木の上で弓を構えるゴブリンの姿が見えた。


(二匹じゃない!?)


 松明を持ったゴブリンと、火矢を射たゴブリン。

 ラキスが召喚しているゴブリンは、その二匹だと思っていた。

 だが、違った。

 暗闇にまぎれて、森の中にもゴブリンを潜ませていたのだ。


 少なくともさらに二匹のゴブリンを。


「ウ゛オ゛ォォン」


 立ち上がったオルトロスの脚がガクガクと揺れて、その巨体が崩れ落ちた。

 確かに矢はいくつも刺さっているが、オルトロスが動けなくなるほどのダメージが入っているとは思えない。

 

「やっと効いてきたか」


 ラキスの言葉を聞いて、アリアも答えにたどりついた。


「……毒」

「そうだ。並みのモンスターなら一射で動けなくなるんだが」


 デカいヤツはしぶとい、とつぶやきながら、彼は倒れ込んだオルトロスへ近づく。


 そのあとは一方的だった。

 毒で動けなくなったオルトロスは、ゴブリンによってすみやかに息の根を止められた。


 ラキスは、というと。

 オルトロスが息絶えるのを待って、その死骸に手をかざしている。


「サクリファイス」


 ラキスがつぶやくと、オルトロスの身体が光に包まれて球となった。

 光の球は弓を持ったゴブリンの身体に吸い込まれていく。

 すると、ゴブリンの身体が発光し――。

 次の瞬間には、小型の狼に乗ったゴブリンが姿を現した。

 かたやオルトロスの亡骸はきれいさっぱり消えてしまった。


「……これは?」

「ゴブリンの弓騎兵マウンテッドアーチャーだ」


 アリアは、そうじゃなくてと首を振った。


「なんでオルトロスの死体が消えて、ゴブリンの姿が変わったのか聞いてるんだ」

「ああ。生贄サクリファイス、と俺は呼んでいる」


 目の前で起こった事実と、ラキスの言葉からアリアは想像する。

 おそらく、倒したモンスターを生贄に、モンスターを強化する術なのだろう。


 それはさておき――。


「ラキスさん。助けて頂いたこと感謝する」

「別に構わない。俺はロゴールの邪魔をしたかっただけだ」

「なるほど、ロゴールの邪魔を……ロゴール!?」


 お礼の気持ちを伝えたら、思いがけない名前が飛び出してきた。


「宮廷召喚士長の? なんで今、ロゴールの名前が出てきたんだ!?」


 そこからしばらくの記憶がアリアには無い。

 どうやらひどく取り乱していたらしい。

 見かねたラキスが「ちょっと落ち着け」となだめるくらいには。


【おねがい】


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あっ、ほしが、ほすぃーんだ♪

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