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追放された“元”宮廷召喚士とボクっ娘王女が出会った


 

 春になったとはいえ、夕方はまだまだ(くら)いし肌寒い。

 侯爵家主催のティーパーティーの帰り道。

 ソルピアニ王国の第二王女、アリア・ルピアニは馬車に揺られて王宮へと向かっていた。


「母上が倒れられたというのに、ロビー活動(ティーパーティー)だなんて……」

「王宮が大変な時だからこそ、有力貴族との繋がりを強固にする必要があるのです」


 アリアからこぼれた不安を、隣に座るパーラがたしなめる。


「ボクはこういうの苦手なんだよ」

「アリア様」

「わ、私はこういうことが苦手……です」


 アリアには小さい頃から『ボク』という一人称を使うクセがある。

 言葉遣いだって、お世辞にも丁寧とは言えない。

 アリアが『ボク』と言うたび、いつも付き人兼教育係のパーラからたしなめられる。


 馬車の窓に差し込んでいた夕陽が途切れ、不意に車内が暗くなった。

 不思議に思ったアリアが窓の外に目をやると、馬車は森の中を走っていた。


「なんで、森に?」

「おかしいですね。いつもなら遠回りでも平地の道を走るのに」


 森の中は昼でもうす暗く、平地に比べてモンスターも多い。

 王族を乗せた馬車が森の中を進むなど聞いたことが無い。


 ましてや夕刻ともなればなおのこと。

 パーラが御者――馬を操り、馬車を操縦している者――を問い詰める。


「止まりなさい! なぜ森に入ったのですか!?」

「へ、へぇ。あっしはただ、宮廷から、こ、ここを通るように、言われたもんで」


 御者の男はパーラの剣幕に怯え、しどろもどろになりながら質問に答える。


「宮廷からですって? 誰がそのような……まさか!!」


 パーラがおどろきの表情を浮かべた。

 それと同時に「ひ、ひいいぃぃぃっ、ぎゃっ!!」と御者の悲鳴があがる。


「ヒヒィィィン!!」と馬がいななき、馬車が歩みを止める。

 窓の外を覗くと、馬車は狼のような小型のモンスターに取り囲まれていた。


「くっ、私がついていながら申し訳ありません」

「パーラ……これは一体」

「馬も御者も、すでにやられたようです。このままでは袋のネズミ。外に出ましょう」


 パーラの提案に、アリアも頷いて馬車を降りる。


 なぜこんなことになったのか、はわからない。

 だが何者かにハメられたのだということくらいは、アリアにも理解できた。


 馬車の外。

 馬はノドを食いちぎられ、御者は地面にうつ伏せに倒れていた。

 御者の生死はアリアの位置から確認が出来ない。


 馬と御者を襲ったのはキラーウルフ。

 小さいながらも獰猛な肉食のモンスターだ。


 一匹のキラーウルフが、御者の頭に前脚を乗せ「アオーーーーン!!」と吠えた。

 その様子はまるで、()(どき)のようだった。

 

 ちなみに……。

 周囲を取り囲むキラーウルフの群れに、アリアはまったく勝てる気がしない。


「ここはお任せください。……サモン!!」


 パーラの呼び掛けに、大地が震え、地面が盛り上がる。

 瞬く間に全長三メートルはあろうかというアースゴーレムが姿を現した。


「ゴオオオオォォォ」と低い唸り声を上げたアースゴーレムが腕を薙ぐ。

 巨大な拳とぶつかったキラーウルフの頭がひしゃげ、胴がぐにゃりと捻じ曲がった。

 キラーウルフは、そのまま十メートル以上向こうへ吹っ飛んでいく。


「すごい!! パーラって強いんだ!!」

「……アリア様。ユニコーンを呼べますか?」


 アースゴーレムの強さに興奮が冷めやらないアリアとは対照的に、パーラの表情は険しかった。


 ユニコーンはアリアが唯一召喚できるモンスターだ。

 聖獣であり貴族からの人気は高いが、その戦闘力はアースゴーレムに遠く及ばない。

 なぜ今、ユニコーンを呼ぶ必要があるのか、とアリアは首を傾げた。


「うん。呼べる……けど。アースゴーレムなら勝てるんじゃない?」


 事実、アースゴーレムが腕を振り回すたびにキラーウルフが宙を舞っている。

 もう五、六回も腕を回せば、キラーウルフはあらかた始末できるだろう。


「相手がバカでなければ、私がアリア様と一緒にいることは織り込み済みのはず」


 そう。物心がついたときから、パーラはいつだってアリアの側にいる。

 女王である母、ルーシアよりもパーラの方が長い時間を共に過ごしてきた。


「ならば、こいつらだけで終わるとは思えません。

 今のうちにアリア様だけでもお逃げください」


 その言葉に、アリアは必死で首を横に振る。

 パーラをおいて、自分だけ逃げ出すなど出来ようはずがない。

 

「いや……嫌だよ!! ボクはパーラと一緒じゃなきゃイヤだ!!」

「ワガママをおっしゃらないでくださ――」

「ウ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ォォォォォン」


 パーラの声にかぶさるように、一際大きな遠吠えが森にこだました。


 キラーウルフの吠え声の何倍も大きな声。

 空気が震え、身体にビリビリと振動が伝わる。


「グゴオオオオォォォ」


 今度はアースゴーレムの声。

 先ほどの勇ましさがなく、悲鳴のような声だ。


 声の方を見遣ると、アースゴーレムの腕がない。

 キラーウルフをなぎ倒していた頼もしい右腕が失われていた。


 アースゴーレムの右腕を奪った犯人。

 もちろん、人ではない。

 キラーウルフの何倍も大きい、双頭の巨狼(オルトロス)悠然ゆうぜんと姿を現した。


「お、オルト、ロス」


 パーラの顔から表情が失われていく。


 オルトロスにある二つの頭の片側が、よだれを垂らしながらくわえているのはアースゴーレムの右腕。

 アリアは自分でも気づかないうちに、尻もちをついて座り込んでいた。


 足に力が入らない。

 アリアは生まれて初めて腰を抜かした。


「くっ……。リペア!!」


 パーラが魔力を消費してアースゴーレムの右腕を再生させる。

 アースゴーレムは両腕をクロスさせると、防御姿勢のままパーラとアリアの前に立った。


「腰を抜かしている場合ではありませんよ」


 パーラが伸ばした手を掴み、アリアは再び立ち上がる。


「さあ、ユニコーンを呼んで」


 そうだ。もはやアースゴーレムに勝ちの目は無い。

 アースゴーレムを囮にしてふたりでユニコーンに乗れば、もしかしたら逃げ切れるかもしれない。


「サモン!!」


 もう日が落ちた暗い森の中。

 アリアの呼び声に応え、白く燦然さんぜんと輝く一角獣ユニコーンが姿を現した。


――――――――――――――――――――

【名称】ユニコーン


【説明】

 額に大きな一本の角を持つ白馬。角は毒物を無効化するという。

 好きなものは処女。ニセモノの処女は絶対に容赦しない。


「君が本当に処女なのか、この馬はそれを確かめる最もスマートな方法さ」


【パラメータ】

 レアリティ A

 攻撃力   E

 耐久力   C

 素早さ   A

 コスト   E

 成長性   C


【スキル】

 駿足

 解毒


――――――――――――――――――――


「パーラ!! あなたも早く乗って!!」


 ユニコーンの背に乗ったアリアが、パーラへ手を差し伸べる。

 しかしパーラは哀しげな表情で首を横に振った。


「アリア様。私は貴女(あなた)にお仕え出来て幸せでした」

「パーラ……なにを言って!?」

不敬(ふけい)と承知で申し上げますが、本当の……娘のように想っておりました」

「ボ、ボクもそうだ。パーラは……、パーラは!!」

「娘を護るのは母の務め。どうか、私の最期の願いを叶えてくださいませ」


 パーラが優しく笑った。

 その目尻から涙がツゥと流れていく。


「さあ! 行きなさい!!」


 パーラの左手がユニコーンの臀部を叩いた。

 その衝撃にユニコーンは「ヒヒィィィン」と鳴き、アリアを乗せたまま走り出す。


「ユニコーン、待って! パーラが!!」


 ユニコーンが駆ける。

 みるみるうちにパーラが小さくなっていく。


 遠くにアースゴーレムとオルトロスがぶつかる音が聞こえたような気がした。


 しばらく疾走はしったユニコーンは、足を止め姿を消した。

 アリアの魔力が底をついたのだ。

 モンスターは召喚状態を維持しているだけで魔力を消費する。

 聖獣であるユニコーンは、戦闘力に見合わず召喚維持コストが高い。

 

 魔力切れ特有の気だるさを感じながら森を歩く。

 どちらの方向へ向かえば森を抜けられるのかもわからない。

 だが、歩かないことには森は抜けられない。


 パーラが、もうひとりの母が繋いでくれた命。

 決して無駄にすることは出来ない。




 一歩。もう一歩。

 歩みを進めるアリアの前に、大きな黒い影が立ちふさがった。


「ウ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ォォォォォン」


 ついさっき見たばかりの二つの頭。

 大きく割れたその口に、別れたばかりの()()()()()()()の姿があった。


 腕はもげ、脚は千切れ、その命がとうに身体を離れているのは一目瞭然。

 オルトロスはパーラの亡骸を嚙み砕き、ゴクリとその体内へ取り込んだ。


 まるでアリアに見せつけるかのように。


「おる……とろ、す」


 アリアは膝から崩れ落ちた。

 魔力は尽き、戦う術も逃げる術もない。


 目の前に座り込んでいるアリアは、オルトロスにとってはただのエサ。

 よだれを垂らす巨狼の表情は、戦う獣のものではなく、戦い終えて獲物を吟味する獣のそれだった。


「……母上、プレシア姉さん。……パーラ。ごめんなさい」


 アリアは茫然(ぼうぜん)とオルトロスの瞳を見つめていた。


 その巨狼の瞳が、突如として燃え上がる。


「ウ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛」


 さっきまでの吠え声とは明らかに違う。

 これは、オルトロスの悲鳴。

 よく見ると、瞳に刺さっているのは火矢だ。


「誰!?」


 もしや、宮廷召喚士達が救援に来たのだろうか。

 期待に胸をふくらませ、アリアは火矢が飛んできた方を振り返る。


「森は……広いな」


 そこに立っていたのは松明を持ったゴブリンと弓を構えたゴブリン、そして――。


 二匹を従えた、若い男だった。

 若いとはいっても、アリアよりは年かさであるようだが。




 ――宮廷を追放された元宮廷召喚士ラキスと、命を狙われた第二王女アリア。

 ふたりの出会いが、やがてソルピアニ王国の未来を左右することになる。

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