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僕はヒーロー  作者: 星空 夢華
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名は無き戦士

―20XX年


世界は突如現れた、未知なる生物に脅威を抱いていた。

どこから発生したのかも不明。

いつから生息していたのかも不明。

ただ、一つわかるのは

人間に対して明らかに敵意を持っていることのみ。

人間と同じか少し大きいサイズ、見た目は様々だがお世辞にも整っているとはいえない。

悪臭を放っていたり、大きな牙をもっていたりと姿かたちは様々だった。

政府はその生物たちをまとめて『害獣がいじゅう』と名付けた。


害獣は毎日各国に現れ、人々に容赦なく襲い掛かった。

急いで開発された害獣討伐用兵器を、自衛隊や時には警官が使用してなんとか討伐することが可能になったが、それでも犠牲者は後を絶たなかった。

討伐最中に怪我をする人も多く、それでも次々と休むことなく出現する害獣により、数年で深刻な人不足に陥った。

そこで『害獣』を専門とする特殊生物討伐部隊を新たに作ることを、世界に向けて発表したのだった。

やがて『特殊生物討伐部隊』は『ヒーロー』と呼ばれるようになった。







『ヒーロー』が誕生してから、約20年。

いつしかそれは誰もが一度、なりたいと夢に見る職業となった。

大学生が公務員試験を受けるのと同じように、ヒーローになるためにも試験を受け、資格を取得することが法律で定められ、近年だと、ヒーローになるための専門学校が設立されている。

ヒーローは命がけの職業だ。だからこそ才能がなければ試験に合格することができない。

毎年沢山の人々が試験に挑み、その中で合格できるのは、ほんの一握りだった。

また試験を受けるのにも3つの条件を満たす必要性があり、それを満たせない場合はどんなにその人物が優秀であってもスタートラインにすら立たせてもらえなかった。


1つめの条件は、中学・高校で行われる体力測定と学力検査の成績が優秀であること。

2つめの条件は、高校生までに、なんらかの形で住んでいる町に貢献し、市長から推薦状を受け取ること。

3つめの条件は、国が指定した専門機関で性格審査を受け、異常なしと診断されることだった。

試験に受ける前に振り落としがされるくらい、ヒーローの役目は責任重大であるとされており、生半可な気持ちでは絶対になることが出来なかった。









「・・・くそっ、やっぱりデマだったか」

鈴木誠二すずきせいじは抱えていたカメラをおろし、身体を大きく伸ばした。

公園の茂みに長時間、身体を小さく丸めて潜んでいたせいで、色んな箇所から骨が鳴る音が聞こえてくる。

一週間ほど前にタレコミで、この公園に担当カラーが青色の『ヒーロー』が深夜に休憩を取っていると聞きつけ、毎日深夜二時過ぎにこうしてシャッターチャンスを狙っていたが、今の所は全く成果を得られていない。

鈴木は今年で27だ。20代前半ならまだしもアラサーと呼ばれる人にとって、この時間帯に連日張り込みを行うのはだいぶ厳しい。極力昼間は寝るようにして、少しでも疲れが取れるように努力はしているが、それでも積み重なった疲労がそろそろ限界をむかえていた。


昔は鈴木もヒーローに強い憧れを抱いていた。

幼稚園、小学校の卒業文集には『将来、ヒーローになりたいです』と書いていたし、誕生日にはヒーローなりきりグッズを親にねだったものだ。

それが今や、鈴木にとってヒーローは自分の記事を掲載するためのネタだった。

鈴木は小さな出版社でライターをやっていた。

鈴木が書くのは『ヒーローレッド、知られざる素顔!親の正体は某国会議員?!』や『ヒーローピンクの元カレが暴露!学生時代にやらかした危険行為!!』などのゴシップ記事だ。

一応、ヒーローになった人の情報は明かされていない。政府が個人情報を保護していることになっている。しかし、SNSが中心となった今の世界だと、残念ながらどこからともなく流失してしまう。

出所はヒーローの家族だったり、親戚だったり、知り合いだったりと様々だ。

こういう記事を書いている鈴木にとってはありがたいが、それと同時に内心呆れてもいた。

いくら自分の周りの人間がヒーローになったからといって、他人にべらべらと話すのはヒーロー本人にとってとても迷惑な話だろう。

これは社会問題としても取り上げられており、ニュース番組の街角インタビューで「ヒーローは自分たちの生活を守ってくれている素晴らしい人だ。だからこそ余計な詮索をしてはいけない」と沢山の人が主張していたが・・・

先日、自社が発行した週刊誌の売り上げからすると、それは表面上の意見でしかないことは一目瞭然だった。



鈴木自身も、ヒーローに対しては良い意味でも悪い意味でも関心が強かったからこそ、ゴシップ記事担当になったのだ。良いことではないとわかっている。けれど、人間は好奇心に勝つことなどできない。綺麗なものばかりを見ていると、逆に見えない裏側を知りたくなるものだ。

そういう人々の欲求にこたえるために鈴木は日々、ゴシップネタを集めていた。

もちろん、タレコミが全て事実ということはない。ガセネタを掴まされることだって多々ある。

それでも僅かに本当の可能性がある限り、鈴木はこうして身体をはって調査を続けていた。

「駄目そうだな・・・」

鈴木はボソッと呟いた。時間帯もあるだろうが、閑散とした住宅街にポツンと設置されている公園には全く人の気配がしない。こんな公園だからこそ逆に、ヒーローにとっては休憩が取りやすいのではと思ったが違ったようだ。

幸いにも、季節は5月半ばなので凍え死ぬことはないが、ガセネタだった場合はここにいるだけで時間の無駄になってしまう。

ライターになって3年。鈴木はタレコミが真実か嘘かを判断する力がついていた。

鈴木の勘だと、このタレコミに関しては真実である可能性が濃厚だったが、外れてしまったようだ。

ポケットに入っている携帯を取り出し、同僚にメッセージを送る。

『ガセの可能性高め、今日は撤退する。そっちは?』

同僚も鈴木とは別の場所で、担当カラーがピンクのヒーローを張り込んでいた。

『こっちも微妙・・・会社戻るかな。鈴木は?』

返信を見るかぎり、向こうも駄目そうだった。

『りょーかい、俺も一服したら戻るわ』

同僚に返信を済ませ、もう一度携帯をポケットにしまった。

鈴木はそれからカメラを鞄にしまい、1本のたばこを出して口にくわえた。

内ポケットからライターを取り出そうとしたところ、手を滑らせて地面に落としてしまう。

それだけならよかったのだが、拾おうと足を前にだすと運悪くライターに足がぶつかり、より遠くまでいってしまった。

「・・・はあ」

鈴木はため息をつき、ライターの行方を捜す。

どうやら公園内のベンチの隣にある、自動販売機の下にいってしまったようだ。

今日はとことんついていないなと鈴木は肩を落とした。



「ライター、残念でしたね」



自分以外いないはずの公園に、知らない声がした。

驚いて後ろを振り向くと、そこには20代前半だと思われる容姿端麗の青年が立っていた。

「えっと・・・こんばんは」

鈴木はそう言いながらも、この青年はいつから自分のそばにいたのだろうと思っていた。

「こんばんは、今日も良い月ですね」

青年はにっこり微笑んだ。

「はあ・・・そうですね」

何者だろう、もしかして警察かもしれない。鈴木は少し警戒していた。

「そんなに警戒しないでください。僕はあなたが探していた人ですよ」

思わぬ発言に、鈴木はポカンとした表情になる。まさか、この男は・・・そう考えた瞬間、青年は楽し気な表情で鈴木に挨拶をした。

「はじめまして、僕は担当カラーがブルーのヒーローです」

月の光に照らされた、ヒーローブルーの顔はとても美しかった。









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