今回の話にでてくるラリーは、互いにボールを打ち返すほうのラリーである。
俺とツインテ少女はテニスコート内でラリーをやっていた。
パーン、パーン、パーン、ガシャ!
パーン、パーン、パーン、パーン、パーン、ガシャ!
パーン、パサッ!
テニスボールがラケットに当たる音、そしてフェンスに当たってしまう音、たまにネットに当たる音。
「んもぅ、どうしてラリーが10回も続かないかなぁ?ちゃんと手を抜いてあげてる?相手は女の子で、男の子とは違うんだよ」
「力込めてないし、ちゃんとラリーを続けやすいように同じ場所にボールを返してますよ」
「へ~2人は知り合いだったんだ、世の中って狭いね」と会長は俺とツインテ少女の間柄を詮索することなく、さっさと特訓を開始させた。
まずは力量を測るためにとラリーをすることになった。
昔、小学生相手にテニスを教えたことが何度かあったが、それと同じ要領でやっている。
「だったらなんで10回いかないの!もう始めてからかれこれ1時間はたつよ、最長記録は7回じゃないの」
審判席に座っている会長の少々イラだった声がコートに響く。
文句を言いたいのはこっちもだ。なんせ俺はミスを一切していない、ラリーを途切れさせているのはいつもツインテ少女のほうだ。
ただ簡単に力量を測るためだけなのに、特訓内容と化していた。
俺の見立てでは、辛辣にいえばおそらく小学生以下。ボールを目でおっかけて打ち返すのがせいぜいに見える。というか運動神経がひどい。
だというのに、少女はミスのたびに俺を睨みつけてくる。まるで俺に非があろうかのように。
「その子は今年からテニスを始めたばかりの初心者なのでしょう?ましてやまだ1ヶ月も経ってない。なら5回続けばいいほうでしょう会長」
悪意しか向けられていないのに、なぜ俺は少女を擁護しているのだ。
「乃愛ちゃんなら大丈夫。できるよね?乃愛ちゃん?」
「え?あっはい!できます」
会長が言う「乃愛ちゃん」とは、俺がいままでツインテ少女と呼称してた少女の名前。
本名を茨城乃愛というらしい。
「ほら、乃愛ちゃんはできるって。やる気がないのは野間くんのほうだよ。10回続くまで今日はずっとラリーだからね。見てるだけのこっちの都合も考えてよ」
「なら会長が代わりにやってくれ」なんて言葉は言いたくても声に出せない。
出してしまったら学生人生どころか人生そのものが終わりそうだし。そもそも会長への恩返しなのだから、無理難題でも引き受けるしかない。
それにだ、ここまでヘタなら教えごたえがありそう、とかポジティブに思ってしまう。
夕方。
結局、ノルマを達成することはできなかった。
「あーあー、もう、どうして2人ともラリー10回できないのかな?」
ノルマを達成できずにかなりお怒りのごようす。
ここはテニスコートだというのに、ストレスを発散しているのか野球バットをぶんぶんと振り回している。
怒りたいのはこちらだ。
しかし、ただのヘタクソなら「こいつには才能がありません」と一刀両断してやってもいいのだが、どうも向こうはしっかりと努力している様子。
あんまり酷いことは言えない。
「こんなんじゃ明日からの特訓も思いやられるよ。私がいっしょにいられるのは今日だけなのに」
はい?
「明日から!?ちょっと会長聞いてませんよ、今日だけじゃないんですか!?しかも会長なしで、この子と2人っきりで?」
「そりゃ言ってないもん」
「なんで言わないでんですか」
「電話じゃなくてメールなんだから言えるわけないでしょ」
「屁理屈ですよそれは、だいたいやっぱメールしたこと憶えてるじゃないですか」
「んんー?なんのことかなー?」
くっ、杜撰なウソを……もはや好き放題だ。まあいまさらだけど。
「てわけで、明日から乃愛ちゃんのことをよろしくね野間くん。乃愛ちゃんが部活が終わってから練習の付き合いよろしくね」
「……はい」
まあ断れるわけもなし。
バットを振り回している人に対して断れる奴がいるだろうか。
いくら会長に恩があるからといえど、なんだかな。
「乃愛ちゃんもあまり野間くんを困らせないように頑張るんだよ」
「先輩は教えてくれないんですか?私、先輩とがいいです」
「ごめんねーちょっとばかし予定が立て込んでてさ忙しいの」
「そう……ですか……あまり先輩を困らせたくないから、仕方ありません」
「がんばってね乃愛ちゃん。相手は知らない相手でもないんだし、乃愛ちゃんはやればできる子だから」
「頑張ります」
茨城は成果がでなかったことに対して会長に申し訳なさそうな目をする。
その一方、俺のほうに対して「なんでこの人なんかと明日から練習を」という目をしている。
いったいこの子のどこかが「内向的で人見知り」なのか。
こうして、なし崩し的に俺と茨城乃愛の特訓が始まった。




