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断る理由がない、というか断わる理由を提示できない

 次の日。

 今日は一日だらけていようかと思いきや、朝っぱらから予定は狂うことになった。

 休日だというのに学園へと俺はやってきていた。


 「いや~ごめんね、貴重な青春の1ページを私なんかにわけてくれちゃって」


 そう謝ってそうで全然そうではないこの人は蛇野道(じゃのみち)風雅(ふうが)会長。

 会長と言っても元だ。前生徒会長で今年の3月に砕氷学園を卒業したばかりのOBで、現在は砕氷学園の大学部に所属している。一言で言えばかなりエキサイティングな人。


 「わけてませんよ。無理矢理奪われたんです。『いますぐ学園に来なければ前生徒会長権限で退学させる』なんてメールを送られれば来るしかないでしょう。あなたならやりかねませんからね」

 「あれれ?そんなメール送った憶えがないんだけどな?」

 「とぼけないでください。ちゃんとこっちの受信ボックスに先輩が送ったメールがありますから。ほら、これが証拠ですよ」

 「どれどれ~」


 蛇野道先輩は俺の手から携帯をひったくると、勝手に操作を始める。


 「あれれ~?どこにもメールが見当たらないんだけど、どこにもないんじゃない?もしかしてウソついちゃった?ウソはいけないことなんだよ。でも今回は許してあげる。だって私は心が広いから」


 つまるところ証拠隠滅をするために。


 「かってに人の携帯のデータを削除しないでくださいよ」

 「削除してません~かってに消えただけです~」

 「メールがなかったのか、消えたのか、ウソをつくならつくでどっちかちゃんと設定を練っていてくださいよ」


 まあこの人は昔からこんな人だからいまさらだ。

 なんせ、初めて会ったときのセリフが、

 『君さ、テニス強いんだって?それでお願いがあるんだけど、テニス部にはいるか、生徒会にはいるか、死ぬか。どれか選んで?OK?』

 これだ。

 しかも目のまえで金属バットをフルスイングさせて俺の前髪を揺らしながら。

 

 「相変わらずですね蛇野道会長は」

 「んんー?蛇野道会長?もう他人行儀だなぁ、私たちは、同じ屋根の下で同じ釜のメシを食べた特別な仲でしょ?気安く風雅ちゃんって呼んでくれいいのに」

 「それだと生徒の大半が特別な仲になりますよ」

 「細かいことは言いっこなしだってば。アハハ!」


 そう先輩は愛くるしい顔に笑顔を浮かべながら俺の背中をバンバンと愉快そうに叩く。

 なるほど、これ以上追求するならもっと酷いことをすると。

 この人は、俺の肩ほどまでしか背丈がなく、どちらかといえば小柄よりな人だけど、行動的で攻撃的な人だ。この弱そうに見た目は敵を騙すためのフェイクとしか思えない。


 「あとそうだ、今の私は会長じゃなくて、ただの蛇野道風雅だからそこんとこよろしく」

 「俺のなかは会長は会長です。それでわざわざ学園まで俺を呼び出した用事はなんなんですか?」

 「私の幼馴染みにテニスを教えてもらいたくてさ。なんか入部してから最初の大会が近いらしくて、特訓中らしいの。で、中学時代にテニスで名をはせた君の出番ってわけ」

 「高校でもテニス部だった会長が教えればいいでしょうに」

 「私のことを知ってて言ってる?私はね、相手をコテンパンにするのが好きなだけで、教えるのはヘタなの」

 「ああー」

 「そこは素直に納得してほしくないなぁ。私への恩返しだと思ってよ。特別入学枠でもない生徒を生徒会に推薦するのは大変なんだよ?人生でトップ3に入る大学受験をスルーできる権利を授けたのは誰のおかげかな?」


 生徒会の仕事は簡単に言えば教師と生徒のパシリ。忙しいだけで理になることは少ない。なので生徒が自主的に生徒会になりたがることは滅多にない。それじゃあ学園側としては困ったものだ。なので学園側は救済措置というか、恩恵として、生徒会を1年間勤め上げたものへと様々な特典が用意することにした。

 その1つが、砕氷学園の大学部への無条件進学であり、入学試験を受けることなく進学が可能となる。

 蛇野道会長が言うように、俺はこの人へ感謝をするべきだろう。本来なら予備校やらなんやらと進学に向けた準備時間をすべて百合ウォッチングにささげれるのだから。

 生徒会の仕事に費やされる時間とイーブンじゃないかって?たしかに、細かく数えてはいないが、進学に費やされるのと同等の時間を生徒会に捧げていることだろう。

 だが、現生徒会長と書記(もちろん両名ともに女子)が百合でなくレズに近いくらい仲が良いのを、間近という特等席で拝めることができている。

 のだから特しているほうだ。


 「恩をもちだされたのならしかたありません。で、どんな子なんです?」

 「内向的な性格でちょっと人見知りしやすいタイプなんだよ。だから、まさかあの子が自ら特訓を請うてくるなんて、私ビックリしちゃったよ。だからすぐOKの返事だしちゃった」

 「人見知りか、会長の幼馴染みなのにそんな性格は想像できませんね。活発な人ばかりとつるんでるイメージがあるんですけど。会長の幼馴染みってことは会長と同じ大学生ですか?」

 「年下の子だよ、私の3つ下。今年学園に入学したての1年生」

 「年下か……前から思ってましたけどガサツなわりに意外と会長って面倒見いいですね」

 「あれ?私もしかして褒められてる?いやーまいったなーアハハ!!」


 バシバシと再度背中が叩かれる。

 照れ隠しだと思うことにしよう。


 「家が近所でよく遊んでたし、妹と同い年だからね。まあ、活発な正確の妹とはウマが合わないというかソリが合わないというか、だから妹じゃなくて私がずっと遊び相手してたわけだけど」

 「普通は同い年同士で遊ぶもんかと思いますけどね」

 「私としても野原を駆け回って遊びたいところだったけど『お姉ちゃん、お姉ちゃん』って懐いてくれてかわいいんだよ、こりゃもう他の子と遊んでる暇なんてないなってくらいに。本物の妹がいなかったら、あの手この手をつかって妹にしてたかも。中学に上がってから『先輩』呼びになったことは残念だけど」


 どうやら会長は「先輩」よりも「姉」をご所望らしい。


 「てなわけで私の可愛い妹分の相手をよろしくね、野間くん」


 わざとらしくウインクする会長。

 どうせ俺に断るなんて選択肢はないのだから、やれやれ気味に依頼を受けておく。まあ人にあてにされるのがイヤだが頼られるのは嫌いじゃない。

 だが、あとで俺は後悔することになる。正確にいえば30秒後に。

 なんせ到着したテニスコートには、


 「あっ先輩……って、なんであなたがここに!?」


 顔見知りといっていいほどの相手……ツインテ少女がいたのだから。

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