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礼にはじまり、礼に終わらず

 「あらためてこのあいだはありがとう、野間くん」


 月曜の朝。

 2年A組の教室内、自分の席で頬杖をついて朝礼の開始を待っていると、清楚な佇まいをまとう百合鴎が話しかけてきた。 

 |クラスで1番の有名人であり人気者《百合鴎》が、たかが一般人である俺に話しかけたとあってクラス内がざわめく。


 「べつに。礼はいいさ。言ったろ、困った人がいたら見捨てるなと教わってると。わざわざ律儀だな百合鴎は」

 「あら?妙な輩の方たちから助けてもらったのだからお礼をしないほうが不躾というものじゃない?それとも野間くんは人から感謝されるのが苦手?」

 「感謝されるほどのことをしたとは思ってないからな」


 若干ながら下心があったから素直に感謝を受け取れないのは事実だし。


 「意外に謙虚なのね。これ口にあうといいのだけど、受け取ってもらえるかしら」


 包装紙に包まれた箱が机にそっと置かれる。


 「お茶菓子か。こういうのは好物だ。素直に、ありがたく受け取ろう」

 「それはよかったわ。そろそろ朝礼の始まりね、じゃあまたあとでお話をしましょう。お礼の内容をたくさん考えてきたのだけど、一部でもいいから聞いてもらえないかしら?」

 「いいや悪いが遠慮しておこう。あまり人の視線を浴びるのは得意じゃなくてな」


 さっきから「なんの会話だ?」とクラスメイトたちの視線を浴びせられ、このままでは挙動不審になってしまいかねない。


 「それもそうね。悪かったわね、じゃあまた今度」


 察しがよくて理解が早いようで助かる。そのまま百合鴎は去ってくれる。

 踵をかえすのにあわせて腰まで伸びたつややかな黒髪が一緒に揺れた。




 「また今度」っていつ?「すぐ」だった。


 「……」


 昼休みの昼食時間。

 俺は黙々と食事を取っていた。

 べつにカニを食べてるから無言で食べることに集中しているわけじゃない。 

 クラスメイトや友人とかと和気藹々と食事だってする。頻度でいえば、よくする。

 だけど今日は無言。

 なんせ目の前には友人とかではなく、百合鴎がいるのだから。


 「……」

 「……」


 俺も百合鴎も無言で食事を続ける。

 昼休みが始まるやいなや「ここいいかしら?」と空席になった俺の前の席に座り込んだ百合鴎は、俺から返事がないことを了承と受け取ったのか、俺の机の上に弁当箱を広げたのであった。

 「いただきます」という声を最後に、ずっと互いに無言のままで食事をとりつづけていた。

 おかげでクラスメイトの視線を再び集めてしまい、馴れないプレッシャーからか、食事の味がわからず食べるスピードがいつもより遅い。

 途中で他クラスに在籍する友人たちがやってくるも、クラス内の異様な空気を察して、教室に入る前に帰ったりもしたし。

 非常に気まずいから誰か壊してくれないものだろうか?

 食べ終わったのは同時だった。


 「ごちそうさま」


 品のある声。

 つられて俺も声をだす。


 「ごちそうさま……じゃない、今更聞くが何しにきた?」

 「何って、一緒にお昼ご飯を食べてたじゃない?」

 「そうじゃない、そういうことを聞いてるんじゃない。なぜ俺と食事をとった?」

 「断りをいれたけど、断られなかったかしら」

 「たしかに断らなかったが」


 断るほど俺は性格悪くはない。

 それにそんな勇気は無い。百合鴎の誘いを断ったとなったらどんな噂がたつことやら。


 「無言で食事しあうなんて楽しくないだろう?」

 「食事中なのだから静かでいいじゃない」

 「百合鴎がそれでいいのならいいが……」

 

 正論ではある。


 「野間くんと一緒に食事した理由は、このさいだから野間くんのことをよく知っておこうと思って、これが私の答えよ」

 「俺のことなんて知ってどうするつもりだ?なんの価値もないだろうに」

 「あら?そうかしら?そうね……クラスメイトのことをよく知っておけば、順風満帆な学生生活がおくれるから、と言えば納得してくれるかしら?それともどんな理由がご所望かしら?」


 1年間ものあいだを共に過ごす仲なのだし、たしかに男女問わずクラスメイトと仲良くするに越したことはない。

 

 「ああ、そうだな」


 ただ少しだけ腑に落ちないところがあった。



 放課後。

 突拍子もなく急に説明をするが。

 俺は砕氷学園の生徒会に属している。役職は副会長だ。前生徒会長に誘われて1年生の後期から続けていたりする。

 今日も無事に生徒会業務が終わり、これから帰宅しようと下駄箱から外履きを取り出す。

 その時だった。


 「ちょっといいですか」 


 そう強気な声を後ろからかけられ、振り返る。

 が、誰もいなかった。

 左右を見渡すも、どこにもいない。


 「ちょっとなんでキョロキョロしてるんですか?」


 再度、下の方から声。

 視界の下の方に頭頂部らしきものが見えた。なので少しアゴを下げて視線を下に逸らすと、そこには仁王立ちして俺を睨む小さな子がいた。

 背丈の小ささから中学生(悪くて小学生高学年)くらいにしか見えず、「部外者かな?」と思うも、砕氷学園のブレザー服に袖を通しているのを見ると、ちゃんとしたここの生徒らしい。

 髪型はツインテールで、って、どこかで見覚えが……ああ、この子は百合鴎の後輩か。

 土曜日に百合鴎といっしょに絡まれていた子。


 「君はたしか、百合鴎の後輩であってるよな?このまえの土曜日に一緒にいた……」

 「ええ、そうですその通りです」


 百合鴎みたいに土曜のことでお礼をしにきたのか?

 だが、この子が醸し出す雰囲気(オーラ)は違うと直感が告げる。


 「なんであの時、ジャマをしてくれたんですか、あんなやつら私1人で大丈夫だったのに」


 声にこもっていたのは、小柄な姿から予想もできない怨嗟ともとれる怒声。

 感謝どころか喧嘩を売られたのであった。

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