第99話 ゲームクリア
「待て、Jよ。その刃で我ごと貫け。」
『なぜだ?』
「弟がこのような蛮逆の徒になり果てた一端は我にある。そして我も生き過ぎた。そろそろ、身を引こうかと思うてな。」
シスネが狼狽する。
「そんな……!何をおっしゃいます父上!父上がいなくなったら、アニマリア公国はどうなりましょう!それに私はどうすればよいのですか!?」
「シスネよ。そなたはもう1人前の王女だ。我の後を継ぐにふさわしい。それにウィレナもおる。姉妹揃って樹上世界を治めるがいい。ウィレナよ。」
「はい。」
「不届きものの父をどうか許してくれ。」
「いいえ、許しません。あなたが私やJに行った所業。忘れることはありません。」
「これは手厳しいな。」
「ですので、生きて下さい。生き続けて使命を全うしてください。ただ、Jの判断も聞かねばなりません。」
「そうか。Jよ、お前はどう思う?不死殺しの刃はお前のものだ。お前の判断に委ねよう。」
①『レーヴェリオンのみ殺す』
②『ヴォルクルプスも殺す』
③『どちらも殺さない』
Jは②番目の選択肢を選んだ。
『ヴォルクルプスも殺す。』
「そう……Jがそう判断するなら構わないわ。シスネ……覚悟を決めなさい。」
「お姉さま……はい、分かりました。」
「兄……上……。」
「レーヴェリオンよ。ともに逝こう。話はあの世でたっぷりとな。」
「余は……俺は……ただ……兄上と仲直りがしたかっただけなんだ……」
「そうか……馬鹿な弟だ……。」
Jはヴォルクルプスの額に剣を突き立てる。そして力を入れずにスッと剣を突き刺す。まるで水の中に刀を通すかのようにするりと刃が入っていった。そしてレーヴェリオンの体が発光し、巨大だったからだが小さくなっていく。人の姿に戻ったレーヴェリオンは既に絶命しており、その両手にはヴォルクルプスの首を抱えている。Jは不死殺しの刃を二人の前に突き立てた。すると突如魔王城に地鳴りが鳴り響く。
「お姉さま!大変ですわ!先ほどの戦いの余波で魔王城が崩落を始めました!直ちに帰還してください!お手持ちのワープホールで!早く!」
――ワープホールを持ってない場合は、徒歩での脱出になる。持ってれば下層世界へ帰れる。
Jはワープホールを地面に投げ入り口を展開した。
「さようなら、お父様……。」
ウィレナはヴォルクルプスとレーヴェリオンを一瞥するとワープホールに入る。そしてJの目の前が明転し、背後から魔王城が崩れ去る音が聞こえてきた。
≪7日後≫
――急に飛んだわね。
――エピローグだから。
樹上世界。そこは白き衣を纏った樹上人の住む世界。人々は今までにない不安と、それと同じだけの期待があった。ある人々は家庭内で通信機器でその儀式を見守り、ある人々は王城前の広場に集まっている。
「皆の者静粛に!女王陛下の御前であられるぞ!」
兵士はどよめく群衆を制止する。だが、その意味はなさない。群衆は城内より現れた新たなる国王に夢中であるからだ。
「アニマリア公国王女!シスネ・アニマリア様のおなりである!」
わぁあああッと歓声が響く。王城前広場の高台に豪華なドレスを身に纏ったシスネが現れる。その右後ろには、同じようなドレスやスーツに身を包んだJ達の姿があった。
――何てこと!?
――どうした!?
――服を着ているなんて!
―……そんなに驚きます?
シスネは手を振り群衆の声に応える。そしてしばらくの間手を振っていたが、一度手を下ろし、群衆の前に掌を向け制止する。群衆の歓声がピタッと鳴りやんだ。シスネの口の前に魔法陣が展開される。シスネの息遣いが国中に広がる。どうやら拡声の魔法のようだ。
「アニマリア公国の皆さん。」
シスネが演説を始める。
「わたくしはアニマリア公国王女、シスネ・アニマリアです。父王、ヴォルクルプス王が先日崩御されました。この1週間、国を挙げての葬儀と喪に服すこと、心より感謝いたしますわ。この度を持って、正式に先王の後を継ぎ、アニマリア公国第二代女王として拝命致します!」
城内から拍手とどよめき沸き起こる。シスネはその拍手とどよめきを掌を向けることで制し、言葉を続ける。
「下層の王、レーヴェリオンは樹上世界を侵攻するといい、今から7日前、私の姉上はそのお仲間とともにレーヴェリオンの本拠地へ奇襲をかけ、これを打破。その際に我が父王、ヴォルクルプスはその命を犠牲にレーヴェリオンを冥府へといざないました。その時の奇襲隊を紹介いたしますわ。」
J達が前に出ていく。広場はさらにどよめいた。
「あれ……魔人族か!?」
「子供もいるぞ!それでよくレーヴェリオンを倒せたもんだ!」
「あれがシスネ様の姉君……お美しい……」
シスネは言葉を続ける。
「そしてこの方たちはこの樹上世界の人間ではありません。皆、下層世界の出身ですわ。」
群衆が騒ぎ始める。
「下層世界の人間だと!?魔力を吸われてしまう!」
「嫌ぁ!怖い!」
「化け物どもめ!樹上世界から出ていけ!」
群衆たちはJたちに向かって罵詈雑言を飛ばしてくる。
――逆ギレしてみたいわね。愚民どもがどう慌てふためくか見ものだわ。
――性格悪いっすよ。ヌルさん。
シスネが広場を制する。
「皆様、静粛になさってください。皆様に害はありませんわ。わたくしが保証致します。この者たちは、下層世界から樹上世界にやって来たもの、一時は拘束されていましたが、そのような仕打ちを行われたにも関わらず、身を挺してこの国を救ってくれた英雄にございます。そして私は知りました。下層世界の人間も樹上世界の人間もともに分け隔てなく人であると!その証拠をお見せ致しますわ。」
シスネはタラサの横に立ち、タラサを抱きしめた。広場内から驚愕の声が上がる。
――良い……。
――女の子同士抱き合うなんて普通じゃない?
――そうなのですか!?
「皆様!下層世界の人間と触れ合っても魔力が吸われることは御座いません!」
「そんな馬鹿な」と言った驚きの声が上がる。
「わたくしもこれまでは下層世界の人間は恐ろしいものだと思っておりました。しかしこの度、下層世界の人たちとの交流の中、それはまやかしであると気づきました。下層世界の人々は恐ろしい怪物などではありません!それ分かった今、わたくしはここに宣言いたしますわ。下層世界との交流を開始すると!手始めに下層世界のバルバロ共和国との同盟を結ぶことを決定致しましたわ。」
――同盟(強迫)。
――そうはならないと思うよ?
広場がざわつく。新たなる女王は乱心したのかと。シスネは答える。
「わたくしは思いました。我が父王の望みは平和であること。それは樹上世界、下層世界の区別なくすべての民が幸せに暮らせることだと。樹上世界の民たちよ。恐れる必要はございません。悪逆非道を企てる魔王、レーヴェリオンは没しました。これからは下層世界の人々とも手を取り合いともに暮らして参りましょう。大丈夫。わたくし達ならきっとできますわ。」
――魔法使えない人への差別とか生まれそう。
――そういう話は続編が出たらやるんじゃないかな……?
「長年お父様の統治によって樹上世界には平和がもたらされてきました。わたくしでは不安がることもありますでしょう。ですが、どうか見守っていてくださいまし!お父様の統治以上の平和と安寧が出来るようこの方たちと獅子奮迅の努力をするつもりですわ!ご清聴ありがとうございますわ。」
シスネは群衆にぺこりとおじぎをして後ろに帰っていく。群衆はその背中に向けて大きな拍手を送った。
Jたちはシスネの後について城内に入っていく。そしてカメラがパンアップして空が映し出され鳩が飛んでいく。Jの視界には「FIN」と文字が浮かびあがり、目の前が暗転する。
――これで人間ルート全クリだ。あとはスタッフクレジットのところで登場キャラクターのその後が絵がかれて終わる。
――ちなみにどんなの?
――ウィレナは宰相としてシスネとともに公国の統治に奔走。Jはウィレナと結婚して公国の将軍となる。タラサはカバリオと宇宙を目指すロケット開発。シェロ下層世界と樹上世界を繋ぐ使者として活躍。マウガンはティーア皇国に戻って将軍として復職。ロージナは下層世界の辺境の村でモンスターテイマーとなった妹を発見。2人仲良く暮らす。って感じだ。
――ハッピーエンドなのね。
Jの目の前にスタッフクレジットが流れてくる。Jはスタッフクレジットを見ない派だったため、見るのは初めてだった。そこでJは気になる名前があることを気づく。
『ディレクター:亀井日葉』
『メインデザイナー・プログラマー:沖兎月音』
――フラグメントの回想で出てきた名前だな。結局あれは何だったんだ。
――もう少し、もう少しで何か分かる気がするんだけど……
――まぁいいや何かの映像作品だったんだろう。ヌルさん。俺を元の世界に返してくれ。多分そろそろ夕食のピザが届く時間だし、トイレにも行きたい。
――出来ないわ。
――……え?
――あなたを戻すことが出来ない。
――今回のボケはいまいちですね。ヌルさん。ツッコミ待ちですか?
――出来ないのよ。あなたを元の世界に出すためのプログラムは、フラグメントの中に仕込まれている。分かったわ。私が感情的になった理由が。
――おいおいおいおいおいおい!冗談だよな!?最初に行ったじゃん!このゲームをクリアすれば元の世界に戻れるって!
――それは申し訳ないと思ってるわ。ただ、フラグメントを回収していくにつれて、私の中に情報が入って来たの。フラグメントを全て集めることが、私の使命。フラグメントにはある特殊なプログラムが仕込まれていて、すべてを集めることでプログラムが完成。インストールされる。その中にあなたを元の世界に戻す方法があるとね。
――はぁあああああああああ……マジかー……なら最初からそう言ってくれよ……
――申し訳ないのだけれど、現状集めたフラグメントを構築して導かれた情報よ。最初の時点では、私に下された命令は「このゲームをクリアさせよ」だけだったの。
――それなら、せめてオムツ履かせてほしかったな……
――それでいいんだ。
――いやよくないよ!?ただ自分に出来ることなんてもうゲームをクリアすることくらいしかないからさ!?でも漏らす可能性もあるからさ!?嫌だよ!音信不通になった人の部屋に入ったらゲームに没頭して漏らした状態で発見とかさ……!
――それはこっ……。不憫だわね。
――いま滑稽って言おうとしなかった?
――気のせいよ。ちなみにあとどれくらい耐えられそうなの?
――RTAやるときはやる前にトイレに行って水飲むからあと大体4時間ってところかな。
――それまでに全フラグメントの回収をお願いするわ。
――はぁああああああああああああっ……マジかー。やるしかないならやるしかないのかー……。
――フラグメントはあといくつあるの?
全部で20か所散らばってるから、あと13個だな。はぁあああああああっ……
――ため息つかないっ!しゃんとしなさい!
――お母さんか!……まあ乗ってしまった船だ。最後までやるさ。
――頼りにしてるわ。
――2週目は装備とかを引き継げるから1週目よりは楽に攻略できるはず。ただ、やっぱりゲームのリロードが出来ないのはつらいな……
――リロード?
――タイトル画面に戻ってセーブしたところからやり直すこと。このオートセーブで死亡した場合、直前のセーブポイントから復帰ってシステムで、バグ技にいろいろ使えるんだけどな……
――それなら出来るようになってると思うわ。メニューを開いて見て。
――マジでか!?それが出来るなら最新のチャートも使えそうだな!今まで旧チャートのバグ技使ってたから。
Jはメニュー画面を開いて確認する。メニューを横にスワイプすると、以前では開かれなかった『セーブ』『ロード』『オプション』の文字が浮かび上がっている。
――おおっ!これでより楽にできるようになる。……でもなんでだ?なんで急に出来るようになった?
――これもフラグメントを回収した時に私の中に情報が流れ込んできた。役に立った?
――大いに!ヌルさんサンキュー!
――ふふんっ。
ヌルは褒められて上機嫌だ。
ヌルと話しているうちにスタッフロールが流れ終わってタイトル画面に戻って来た。Jは『ニューゲームネクスト』と書いてある選択肢を選んだ。




